書に耽る猿たち

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『ブラックボックス』砂川文次|レールにしがみつきながら

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ブラックボックス』砂川文次

講談社 2022.5.16読了

 

川文次さんといえば、前から『小隊』という作品が気になっていたが、まずはこの第166回芥川賞受賞作から読むことにした。芥川賞授賞式での怒りのコメントが印象に残る。まぁ、田中慎弥さんの会見ほどの衝撃はなかったけれど。

ロナ禍の中、ロードバイクで配達をする若者を描いた物語とは知っていた。てっきり私はウーバーイーツのように食べ物を出前する話かと思っていたが、ここで出てくるのは企業間で重要な契約書を運ぶメッセンジャー、つまりヤマトでいうところの「飛脚便」のようなものだった。そしてこの主人公サクマは非正規雇用である。

ードバイクだから、自転車の部品や装備、服装に至るまで本格的だ。こだわりをもった人たちがこの仕事を続けているが、それでも正規雇用となるのには躊躇している人がほとんど。サクマは「ちゃんとした人間」になりたいと考えている。ちゃんとしたってどういうことだろう、それすらもわからないまま、自分のダメさ加減を憂いている。どんな仕事も続かない、すぐにキレる。きっとこういう若者って、いや若者だけじゃなくてこんいう人はたくさんいる。

半になるとサクマはガラリと変わった境遇になってしまう。話の展開と主人公の行動・考え方がどこか斬新で、芥川賞作品には珍しく先が気になり不思議と読み急いでしまっま。あんなことをしたサクマなのに、そうは思えないほど淡々と飄々とした彼を怖く思うと同時にどこにでもいそうな現代人だと気付く。

れが砂川さんの特徴であるのだろうか。レールの上を走らずに、でも決して逸れているのではなく、懸垂式(吊り下げタイプ)ロープウェイのようにしがみつきながら走り続けていく感じ。最後まで読むと希望の光が微かに見えてくる。私はなかなか好きな感じだ、砂川さんの他の作品も読んでみたい。