書に耽る猿たち

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『長い別れ』レイモンド・チャンドラー|ギムレットと男の友情

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『長い別れ』レイモンド・チャンドラー 田口俊樹/訳 ★

東京創元社創元推理文庫] 2022.6.15読了

 

村上春樹さん訳『ロング・グッドバイ』を読んだばかりなのに。過去に清水俊二さん訳『長いお別れ』も読んだことがあるから、この作品を読むのは訳者を変えて3回目となる。もともと海外文学を訳者を変えて読み比べるのは好きなのだが、それも元の作品が素晴らしく再読したいと思えるからこそ。

に印象に残る場面がある。一つは作家ロジャー・ロイドを探すため、マーロウが「V」で始まる名前を持つ3人の医者のところへ行くシーン。結局1人を除き本筋には関係ないのだが、チャンドラーさんの人間観察と細かな描写がその人物への興味を掻き立てる。端役に至るまで抜け目なく人物像を書き上げている。

う一つ、大富豪ハーラン・ポッターの語りがおもしろく感じた。政治、経済、マスコミ批判から始まり、大きく言えば文明への恨みつらみをまくしたてる様が、なんとも聞き入ってしまうのだ。嫌な奴だろうに、お金持ちとはこういう風な人だよなと思いながら。

らすじを何度も話しても仕方がないので、まだ未読の方は出版社のHP、Amazonブックメーカー、どなたかの書評を参考にしてもらうとして(もしくは私の過去の記事を参照↓)、、今回の再読で私はお酒を飲むシーンをゆっくり味わって読んだ。この小説といえばなんといっても「ギムレット」だ。飲んだことはないけれど。

性同士、深くは語り合わないけれど分かり合えている関係性が羨ましく思う。探偵ものであるからミステリー要素がたっぷりだが、これはやはり友情の物語として読むのが1番似合う。

れにしても、現実にはまず起こり得ない突破な展開なのに、どうしてこんなにおもしろく読後感が良いのだろう。ハードボイルド・探偵小説の枠にとらわれず、ストーリーも漂う空気も、何もかもが並の小説と別格なんだよなぁ。殺人も起こるし暴力的でもあるのに、息もつかせぬ展開というわけではなく、時折りやり過ごしたり落ち着いて一服したりとか、そういう気分にさせてくれる。マーロウ自身がそういうスタイルだからなのだろう。読んでるこっちも読み急がずに楽しめる。

回の訳者田口俊樹さんが訳された作品は数冊読んだことがある。さすがの名訳者、堅苦しさを感じさせないスムーズな言い回しが心地よく読める。田口さんが訳したハードボイルド作品で有名なダーシル・ハメット著『血の収穫』、ロス・マクドナルド著『動く標的』は是非とも読んでみたい。

は清水さん訳『長いお別れ』を読んだのはかなり昔であまり記憶にないので、、、村上春樹さんのと比べてどちらがいいかと言うと両方とも良さがあり正直なところ選べない。マーロウがキザなのは村上春樹訳のほう。文体そのものが村上春樹さん風である。もし初めてチャンドラー作品を読むとかハードボイルドに馴染みのない人にはこの田口さん訳をお薦めするかなぁ。

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