書に耽る猿たち

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『チーム・オベリベリ』乃南アサ|偉大な人物は大成するのが遅い

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『チーム・オベリベリ』上下 乃南アサ

講談社講談社文庫] 2022.7.28読了

 

イトルにある「オベリベリ」とは、北海道・帯広のことである。元々アイヌの土地だったため、アイヌ語でオベリベリ、漢字に「帯広」が当てられているのだ。帯にリアル・フィクションとあるが、つまり史実に基づいた小説で、ノンフィクションに限りなく近いということ。帯広地方を開拓した渡辺(旧姓鈴木)カネと周りの男たちを描いた壮大な作品だった。

治時代、横浜の女学校で学び、父の薦めで洗礼を受けた鈴木カネは、兄の銃太郎が北海道開拓を挑戦しようとしたことをきっかけにして、自分の人生を考える。このままでいいのか。銃太郎から、開拓仲間の渡辺勝との結婚を薦められたカネは、一目で勝に惹かれ帯広に行く決意をする。カネが横浜から帯広に行くまでの心の変化の過程も読み応えの一つだ。

開の地を開拓するとは一体どんなものだろうか。何もないところから、住むところから始め何もかもを自分で用意して生活するとはどんなに困難なことか。便利すぎる現代の世の中では考えられない。命をかけて生き抜いていく彼女たちの姿に胸が熱くなった。

の開拓チームは「晩成社」という社名を掲げる。大器晩成から取った社名である。帯広に移って1年ほど経ち、前途多難でうまくいかず仲間割れが起こったときに、カネの父親は「偉大な人物は大成するのが遅い」と言う。社名をよく考えてみよ、と皆を諭すのである。正直なところ、この作品でカネたちは苦難の連続だ。今の自分の胸に手を当ててみる。自分は簡単に物事を諦めていないか?挑む前に断念していないか?

拓チームの柱である依田勉三、渡辺勝、鈴木銃太郎の男同士の、女性であるカネには理解できない、強い絆が心打たれる。喧嘩をしても裏切られても深いところでつながっている姿が男気があり人間らしくていい。遠い地に残した母親とカネとの関係性にはもどかしさと切なさが同居する。

んでいる間、具沢山の温かい豚汁が食べたくなった。極寒の中、地産の材料でカネが作る優しい料理を想像する。北海道の話で思い浮かべたのが、直木賞を受賞した川越宗一さんの『熱源』である。近代北海道史を題材にしたものは数が多い。解説を読むと、晩成社について書かれたものはほとんどが発起人依田勉三を主人公としているらしい。私も読んでいて、偏屈で口下手で殿様気分が抜けない依田のことが妙に気になっていた。

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