書に耽る猿たち

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『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子|他人が何を考えているかはわからない

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『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子

講談社 2022.7.30読了

 

ても評判が良かったから芥川賞候補に挙がる前から購入していたのに、ついつい読むのが遅くなってしまった。先日第167回芥川賞を受賞された作品。発表前に読みたかったけれど、まぁ特に候補作を読み比べているわけではないからいいか。

る職場の人間関係を「食」を通じて描いたストーリーである。淡々と仕事をこなし、食に興味がなく生きる為に栄養を摂るという男性二谷さん、か細くてみんなが守りたくなる料理上手の芦川さん、そして、二谷さんのことが気になる仕事が出来て頑張り屋の押尾さん。この3人だけで物語が進むといっても過言ではない。

れ、わかるな〜、っていう職場あるあるが、絶妙な語り口とちょっとぞわっとする感覚で紡がれる。人との距離感とか、食へのこだわりとか、相手にどう思われるかの猜疑心とか、そういうものがのしかかってくる。他人のことはやはりわからない。何を考えているかわからない。そう思いながら読み進めた。最後まで読むと、寒気がするというか、、なんか怖いと思った。

味しいと感じるのは人それぞれの味覚だ。確かに有名店のものを食べた時、普通だと感じても「美味しいね」と言ってしまうことはよくある。みんなに合わせるかのように。他の嗜好と比べると、美味しいっていう感情は結構人に流されやすくて、本当に思った通りに表現していないのかもしれないと感じた。

にこだわりがあり、家庭料理でもお菓子でも何でも器用に作る芦川さんは、実は性格面では難がある。しかし、この作品では芦川さん主体でのパートはなく、想像しかできない。それがたいていの読者が押尾さんに感情移入する理由だろう。

れでも、やっぱり芦川さんみたいな人が男性からはモテるわけで、それだけではなく上司からも会社からも守られてうまく世渡りしていくんだよなぁ。世の中は結構こういう風に回るわけで、でも押尾さんみたいな人もいるしもしかしたら芦川さんの心の中は思ってるのとは違うかもしれない。

の人ってこんな風に考えているんだろうなぁということがそのまま書かれている。それは高瀬さんも私と同じ女性だからそう思うのか。そういうのも女性からみた勝手な思い込みなのかもしれない。この小説は「かもしれない」と思うことが多かった。

仕事小説といえば津村記久子さんが思い浮かぶが、文体というか感性をくすぐるものも津村さんに近しいものがある。ざわざわと不穏な感覚になるのは今村夏子さんの小説にも通じる。いずれにしても、ここ最近の芥川賞作家はなかなか好みの作風が多く、他の作品も読んでみたくなる。