書に耽る猿たち

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『陽気なお葬式』リュドミラ・ウリツカヤ|周りの全てを好きになること

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『陽気なお葬式』リュドミラ・ウリツカヤ 名倉有里/訳

新潮社[新潮クレスト・ブックス] 2022.8.13読了

 

イトルがいい。お葬式が「陽気」だなんて。もちろん大切な人が亡くなることは辛く悲しいことだから悼むことは必要である。だけど、お葬式が「悲しいこと」だという概念がそもそも一般化しすぎているのではないか。もちろん、不慮の事故や事件で命を落とした場合はやむを得ないが、大往生を遂げた人に対するお葬式はもっと明るいものでいいんじゃないだろうか。お葬式のあり方を変えていくべきじゃないかと最近思う。

命ロシア人の画家アーリクが重篤な病に侵されている。やがて亡くなる彼の元に、アルコール依存症の妻ニーナをはじめとして、元恋人イリーナ、娘のマイカ、愛人、友人などが集う。アーリクは資産もないのにモテ男で人を魅了する。アーリクを中心として、不思議と皆が仲良くなるように心を通わせる。そこには愛が溢れているかのようだ。

ーリクがこんなにも人たらしなのは、彼が「周りの人(物事も)のことをなんでも良く思っていて好きだから」なのだ。普通誰しも他人のことを悪く言ってしまうし、むしろ欠点のほうが目についてしまうのが人間。しかし、人の良いところを見つけられる人ってたまにいる。そんなアーリクは最期にみんなにある贈り物を捧げるのだ。これが泣いちゃうよなぁ。しかし決して悲しみの涙ではない。

リツカヤさんの作品は、今年の初めに『緑の天幕』を読んで、とても心に響く良い作品だと感じた。だからこの小説も期待しながら読んだのだが、想像通り読み心地も読後感も良い。死にゆく主人公のことが書かれているのに、多幸感が得られて生きる喜びが感じられるとても良い小説だった。

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