『ロボット・イン・ザ・ガーデン』デボラ・インストール 松葉葉子/訳
二宮和也さん主演の映画『タング』が現在公開されている。劇団四季のミュージカルも評判が良かったから、この原作は前から気になっていた。文庫の版はもう23刷だし続編も何冊も刊行されているから、シリーズとして人気のほどがうかがえる。
これは児童文学じゃないかって思うほどとても読みやすかった。主人公は34歳になる中年のベンとロボットのタング。妻のエイミーは弁護士だが、ベンは無職でのらりくらりと生活している。2人の生活にヒビが入りかけた頃、タングが突如自宅の庭に現れたのだ。
子供ロボットのタングは、見た目も四角張ってオンボロで今流行りのアンドロイドとは異なる。そう、今より少し未来のイギリスでは掃除やら洗濯やら食事やらをスマートにこなすアンドロイドを持つことがステイタスになっているのだ。タングをどこか放っておけないと感じたベンは、タングに話しかけて心を通わせようとする。
壊れかけのタングを修理しようと製造した人を探すため、世界中を飛び回るベンとタングの冒険が始まる。向かった先に日本もあったのが驚いた。日本の景色を美しく感じたり、各駅ごとに音楽が流れる東京メトロが珍しかったり、ピースサインをして写真を撮る日本人を不思議そうに見たり。著者のインストールさんは日本のことをとても好きなんだなぁと感じられ、とても嬉しくなる。
人間とロボットが心を通わせていき、ちょっと落ちこぼれの男性がロボットと生活するうちに変わっていく、というわかりやすい物語。ちゃんと収まるところに収まる感じ。誰でもがハッピーな気分になれるとっておきの作品だ。こんな風に晴れ晴れした気持ちになるのも久しぶりかもしれない。
タングのかわいさにやられる!みたいな感想をよく目にしたけれど、私はそこまで感じられず…、「かわいさ」はもしかしたら映像で見る方が感じるのかもしれない。私はどちらかというと、ベンの優しさ、人間らしさ、思いやりに心を打たれた。そういえば、映画『テッド』を見た時の感覚に近い。もちろん、放送ギリギリの下ネタトークのことではなく、テッドとジョンの関係のこと。あれはどちらも中年だけど。
私はaibo(ソニーが発売している犬型ロボット)を溺愛する人たちのニュースを見てあまりピンと来なかったのだけれど、これを読んで少し理解できた気がする。そう遠くない未来に、人間とAI搭載のロボットやアンドロイドが家庭でも共存するのかもなぁと思ったりもした。
とても読みやすいので、海外文学に手を出せない人でも、そして子供にもなんなく読める。なるべくなら、これからの人生で多くの人や出来事に遭遇するだろう若い子供たちに読んでほしいと思う作品だ。