書に耽る猿たち

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『むらさきのスカートの女』今村夏子|他人に執着する

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『むらさきのスカートの女』今村夏子

朝日新聞出版[朝日文庫] 2022.9.7読了

 

村夏子さんが第161回芥川賞を受賞した作品である。単行本の時から表紙のイラストは同じだが、これなら「水玉のスカートの女」じゃないのかなぁと思っていた。

り合いでもなんでもないのに、ちょっと気になる人っている。私の場合は毎日通勤電車で見かける人だ。降りる駅は決まっていて、ぐっすり眠っているのに、その駅に着く少し前にビクッと起きてドアに向かうその女性。携帯のアラームをつけているわけでもないのにすごいなといつも思っているのだが、もはや身体にしみついた習慣になってるのだろうか。こんな風に、特に思い出して考えるまでもないけれど、その場では気になる存在って誰にでもいるだろう。

の小説の語り手である「わたし」は、近所に住む「むらさきのスカートの女」のことが気になっている。気になっているにとどまらず、仲良くなりたい。近所でもちょっとした有名人の「むらさきのスカートの女」を尾行する様は、まるで興信所の調査員さながら。しかし、むらさきのスカートの女ではなく、段々とこの語り手のことが気になり始める。こんなに他人に執着している執念深いこの語り手は一体なんなんだろう?もしかして…。

はある人物の日常を書いているだけなのに、このぞくぞくした不穏さを感じるのは何故だろう。今までに読んだ作品もそうだが、今村さんの書く文章は圧倒的に読みやすい。誰にでもわかりやすい平易な文章しか使われていない。それなのに、この迫り来るモヤモヤ・ゾクゾクが怖い。巻末に載せられている芥川賞記念エッセイの数々を読むと、作者の今村さんのことが気になってしまう。まるで「むらさきのスカート」の女を見ている「わたし」のように。

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