書に耽る猿たち

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『定価のない本』門井慶喜|古書店街、本を守る人たち|神保町ブックフェスティバル・神田古本まつり

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『定価のない本』門井慶喜

東京創元社創元推理文庫] 2022.10.31読了

 

慶喜さんの小説を読むのは、直木賞受賞作『銀河鉄道の父』以来だ。この『定価のない本』は、タイトルと表紙のイラストから想像できるように、古本・古書店が主役。それも、日本一、いや世界一の古書店街と言える東京・神田神保町が舞台だ。本好きに取ってはたまらないだろう。

治が構えた琴岡玄武堂という店は、古書ではなく「古典籍」専門の古本屋である。古典籍なる言葉は初めて知ったが、明治維新以前に出された和本で、古書よりも仕入れが困難で高価であるようだ。

治の古書店仲間で昔から兄弟のように仲が良かった芳松(よしまつ)が本の下敷きになり亡くなった。これは本当に事故なのか?終戦後のGHQ占領下、本の街でミステリ仕立ての物語が展開される。さすが直木賞作家なだけあり、お手本のような文章が読みやすく、起承転結がしっかりまとまっているため上手い。

井さんといえば、史実に基づいて物語に彩りを加えるイメージがある。神保町がどのようにして古本の街になったのか、古典籍の歴史、またGHQの責務について丹念に調べ上げている。洋書専門だった丸善書店で、昔は「丸善夜学会」という夜間学校を開催していたとは知らなかった。

井さんは歴史小説に傾倒しているからか、吉川英治さんや司馬遼太郎さんの作品のように、一文がひとつの単語だけだったり、登場人物の心の想いをカッコで表現する文体が特徴である。個人的にはこの文体はあまり好きではないのだけれど…。

 

はこの前の日曜日、神保町ブックフェスティバル神田古本まつりを覗いてきた。バーゲンセールに心躍り、何より本の祭りがそれだけで楽しかった。帰りに、いつも新刊を仕入れている大好きな「東京堂書店」に寄ると、この『定価のない本』を推していた。そう、作品の中にも東京堂書店が登場するから。

た、庄治が営む古書店のモデルも、神保町にある「一誠堂書店」らしい。一誠堂書店にもお邪魔したことはあるが、ちょっと敷居が高い感じ。店に入るガラガラ扉や本棚が普通の古本屋と比べて幾分趣があり、高価なものを扱っている感がある。どうやらこの店の2階に古典籍があるらしい。今度見に行ってみたいものだ。

冒頭の本紹介で写真に一緒に収めた、東京堂書店限定の栞もまた一興。さて、紙の本、これからも永遠にあれ。

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