書に耽る猿たち

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『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』長谷敏司|ロボットと義足ダンサーの表現法、そして介護

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プロトコル・オブ・ヒューマニティ』長谷敏司

早川書房 2022.11.9読了

 

に「10年ぶりの最高傑作」なんて書かれているけど、そもそも長谷敏司さんという作家を私は知らなかった。それもそうか、早川書房でも滅多に読まないハヤカワ文庫JAに名を連ねる方のよう。早川が好きで多く読んでいるけれどJAやSFの棚はほとんど見ないからなぁ。読まず嫌いは良くない、いつか小川一水さんの作品も読みたいのだが。

の作品に登場する護堂恒明(ごどうつねあき)は、ダンサーとして素晴らしい活躍をしていたが、バイク事故で首の骨を折り右足を切断することになる。新しくカンパニーを立ち上げた谷口と組み、AI搭載の義足をつけたダンサーとしてロボットと一緒に踊る。形にとらわれず自由な表現方法で踊るコンテンポラリーダンスを突き詰めようとする。

イトルの「プロトコル・オブ・ヒューマニティ」とは「人間性の手続き」「人間性に対する通信手段」といったところだろうか。まさに、共生義足として魂を持った義足をもつ恒明が、どのようにして自らの生を表現していくかが見ものである。

かなか辛い書き出しから始まったが、更なる悲劇が恒明に襲いかかる。同じくダンサーの父親が運転する車で事故を起こし、父は首を骨折、母は亡くなってしまう。そして父はなんと認知症を患ってしまうのだ。ダンスを極めようともがきながら、父の介護をする恒明はどうなってしまうのか。

ボットとのダンスにいかに人間性を見出せるかをテーマにしている一方で、「介護とは、たぶん、人間性だと思っていたことを少しずつ諦めてゆく過程なのだ」と生身の人間である父に対しては人間性を失うかのよう。しかし父娘はダンスによって表現の高みを目指す。いつしか2人は心を通わせていく。

れを読んでいてパラリンピックの開会式を思い出した。身体になんらかの障害をもった彼らが歌い踊り、身体だけで表現する様は見る者の心を掴んだ。決して言葉は必要ないんだな、身体の動きだけで人は魂の叫びを訴えることができるんだと。

段読まない類の作品だったからかとても新鮮だった。ダンサーと介護を扱うという組み合わせが斬新だった。やはり初読みの作家というだけで少しだけ緊張感がある。視野を広げるとともに知らない作家を発掘するのも楽しい。2050年の近未来が描かれたディストピア作品であったが、そんなことはほとんど感じさせず、ヒューマンドラマ的要素が強く読みやすかった。