書に耽る猿たち

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『罪の壁』ウィンストン・グレアム|謎の人物を追い続ける|今年も素晴らしい読書ができますように

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『罪の壁』ウィンストン・グレアム 三角和代/訳

新潮社[新潮文庫] 2022.12.30読了

 

潮文庫で「海外の名作発掘シリーズ」なるものがあって、昨年12月に刊行されたのがこの作品。前に読んだポール・オースターがポール・ベンジャミン名義で刊行した『スクイズ・プレー』もこの発掘シリーズだったようだ。

て、この『罪の壁』は、1955年に記念すべき第1回のゴールド・ダガー賞(当時は前身のCWA賞の呼び名)を受賞した作品らしい。ちなみに、最近のゴールド・ダガー賞受賞作は、2020年はマイケル・ロボサム著『天使と嘘』、2019年はM・W・クレイヴン著『ストーンサークルの殺人』、遡るとそうそうたる作家が名を連ねている。これだけで期待せずにはいられない。

家の夢破れ、航空機会社で働くフィリップ・ターナーの元に、兄のグレヴィルが自殺したという知らせが届く。出張先のカリフォルニアからイギリスに急いで帰国したフィリップは、兄の死に方だけでなく謎の女性レオニーや同行者のバッキンガムの行方を知るためにグレヴィルが運河に身を投げたオランダに向かう。

を探すという行為、それも謎の人物を追うということから、ウィリアム・アイリッシュ著『幻の女』を連想する。なんとなく、立ち昇る雰囲気も似ているような気がする。誰が何を隠しどんな目的があったのか。探偵でもないフィリップが、さかんに嗅ぎ回る様が読者をも前のめりに興奮させる。

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代のゴールド・ダガー賞受賞作品に比べると、サスペンス、ミステリーというよりも、ロマン要素が強く感じられる小説だった。70年近く前の作品なので確かに古めかしさやお決まりの展開はあるが、当時は真新しかったのだろう。もっと古い作品も古典としてなお読み継がれているので、編集担当者には今後も埋もれた名作の復刊をよろしく頼みたい。

訳ものということを感じさせないほど流暢な訳文だった。この作品には格調高さを求めているわけではないから、スムーズな日本語訳がベスト。気になっている『名探偵と海の悪魔』が三角和代さん訳のようだから、読んでみようかな。年明けの投稿となったがこの作品までが昨年読了した作品である。自分自身も、これを読んでくださる皆さまにも、今年も素晴らしい読書体験ができますように。

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