書に耽る猿たち

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『祝宴』温又柔|ほっこりと、あったかい気持ちになれる

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『祝宴』温又柔(おん・ゆうじゅう)

新潮社 2023.1.10読了

 

籠包のイラストが食欲をそそる!少し前から台湾の作品が熱いような気がする。台湾人作家の本や台湾自体を紹介する本も多く、リアル書店でもたまにフェアなんかやっていたりする。台湾人である温又柔さんの作品は前から読みたいと気になっていた。

 

湾国籍でありながらも、日本で外国人として育った娘たち。次女の結婚式の日に、長女から「自分の好きな人は同性」だと打ち明けられる。娘が幸せでいてくれればいいはずなのに、どうにも受け止められない父の葛藤が綴られる。それでも、少しずつ時間をかけながら父と娘は想いをひとつにしていく。

に普通でいることが、生きる上で安心感を得られる、というか生きやすいという風潮がある。けれども、そもそも日本人にも台湾人にもなれず中途半端だと感じていた娘。父が普通でいてほしいと思っていたのに対し、その期待にそえず普通になれない娘。世代間の「普通」であることの意識の違いを考えさせられる。しかし、「普通」であることの捉え方も少しずつだが確実に変化はしてきている。今は多様性の時代。

む前は、娘の目線で書かれたものだと勝手に想像していた。これが同性の母親でもなく、父親からの視点で物語が語られるのがとてもおもしろいと思った。自分が親の立場だったらどうだろうと想像しながら読む。ひょっとすると、多様性を理解しようと死ぬ気でもがいているのは、本人たちよりむしろ親の世代なのかもしれない。

 

み終えたあと、とてもあったかい気持ちになれる。もしかしたら、温さんの名前が「温」だからそれも影響してるのかなと思わなくないが…笑。それに、又柔さんだから「柔」の字も入っていて、確かに温かくて柔らかい。いやいや、字面だけでなくて、読むと本当にほっこりするのだ。親子って、家族ってかけがえのない大切なものなのだ。

 

琴峰さんもそうだが、日本人以上に綺麗な日本語を書く方が本当に多い。特に台湾の方に多いのは、彼女たちが日本で育ったこと以上に、台湾の近代史を語る上で「日本時代」があったこと、それに伴い日本という国への親しみと愛着があるからに違いない。

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