書に耽る猿たち

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『fishy』金原ひとみ|お酒を飲み交わす関係はいい

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『fishy』金原ひとみ

朝日新聞出版[朝日文庫] 2023.1.23読了

 

原ひとみさんの作品はここ1〜2年で読むことが増えた。昔はそこまで惹かれなかったのに、40代の今読むととても突き刺さるものがある。確実に綿矢りささんの小説の方が好みだったのに、今は金原さんの文体を体の芯から欲する。

 

座のコリドー街でお酒を飲むシーンから始まる。去年末、久しぶりにコリドー街周辺を通ったら、一本路地を入った高架下に、新しく「銀座裏コリドー」なるものが出来ていて驚いた。昔とはだいぶ変わっていた。37歳既婚で子供2人を持つ弓子、32歳バツイチのユリ、27歳独身女性の美玖の3人の女性がそれぞれの視点で日々の生活について語り続ける。特に恋愛について。最後までミステリアスなユリを除くと、弓子と美玖の恋愛の悩みは、よくあるそれだからこそ感情移入しやすい。

 

んなそれぞれが鬱屈とした悩みを抱えている。その原因をあけすけに愚痴り、思い切り泣き喚き、同性に助けを求める。お酒好きが高じてつるむようになった3人の関係が微笑ましいと同時に羨ましい。それぞれが微妙に「友達」とは認めていないが、大人になると「友達になろう」とか「私たち友達だよね」なんてあえて確認し合わないし、どう定義づけてもいい。友達と意識しなくても仲の良い関係はある。これは男女でもあると思う。

 

場人物全てが善人で幸せいっぱいの小説というのは気分は良いけれど、読み手からすると、たまには何かしらの痛みや悩みを抱えてる人物を欲してしまう。ともすれば現実の自分と比べて、こんなに不幸で苦しい人がいるんだと少しの憐れみと優越感を感じるからだろうか。

 

イトルの『fishy』は「魚の」という意味の形容詞だけでなく「あやしい」「うさんくさい」「うつろな」などの意味もあるようだ。金原さんの小説のタイトルはカタカナであることが多いけど「フィッシー」はちょっと違ったんだろう。

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