書に耽る猿たち

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『頬に哀しみを刻め』S・A・コスビー|失念深い復讐の果てに

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『頬に哀しみを刻め』S・A・コスビー 加賀山拓朗/訳

ハーパーコリンズ・ジャパン[ハーパーBOOKS]2023.2.21読了

 

たすら暴力的で、血のにおいがつきまとう。読んでいて目を覆うような場面も多かったが、ミステリーとしての仕掛けや疾走感あふれるストーリーからページをめくる手が止まらなかった。早くも今年の海外クライムノベルのベストテンにランク入りするとの呼び声も高い。

 

人男性アイザイアと白人男性デレクという同性婚の2人が何者かに銃撃された。被害者の父親アイクとバティの2人がタッグを組み、犯人を突き止めようとする。実は2人は刑務所にいた過去があり、自分たちが本気で動くと歯止めが効かなくなることを理解し自身を恐れていた。しかし「満たされない乾きのような失念深い復讐(163頁)」が2人を突き動かす。

 

きおり挟まれる、彼らそれぞれの息子との回想シーンが切なく胸を打つ。このシーンがあることで、このバイオレンスな復讐劇を肯定させる。誰しもが、自分の子供がこのような被害にあったら、復讐したいと思うのが「正しさ」になるのではないか。

 

人探しが小説の肝ではあるが、人種格差やジェンダー問題も大きなテーマとなっている。アイクとバティは息子たちが同性を思う気持ちや行動について理解に苦しんでいた。それが少しづつ雪解けされていく過程が読んでいて救われた。息子を失ってから気付くというのが悲しすぎるが…。

 

供の恋愛観のカミングアウトについての想いを父親目線で表したものとして、ジャンルとしては毛色は全く異なるが、先月読んだ温又柔さんの『祝宴』を連想した。日本人作家が書く、父親または母親の視点でこの問題を考える作品を読んでみたいと思った。

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