中央公論新社 2023.3.12読了
石原慎太郎さんが亡くなって約1年、元東京都知事で作家の猪瀬直樹さんが石原さんの評伝を執筆した。作家としての石原さんと猪瀬さんは、三島由紀夫さんのことを本に残しているという共通点がある。石原さんは『三島由紀夫の日蝕』、猪瀬さんは『ペルソナ三島由紀夫伝』によって。
いつも楽しく拝読させていただいている田舎教師&都会教師 (id:CountryTeacher) さんの下記のブログを読んで勝手に読んだ気になっていたのだけれど、、やはりちゃんと読むことにした。三島由紀夫さんの評伝もとてもおもしろかったし。
三島の話題をするためにある日石原さんから呼ばれたと思っていたら、真意は「副知事になって欲しい」という直々の依頼だったという。石原慎太郎さんが都知事を勤めた14年のうちの約5年半の間、猪瀬さんは副知事として彼のすぐ側にいた。近くにいた猪瀬さんだからこそ、こんな風に寄り添うように書けたのだ。
私が作家石原慎太郎の著作を読んだのは、実は彼が亡くなってからである。『太陽の季節』を始めとして数冊読むと、政治家のイメージだった彼を作家だと思い直した。その奔放でエネルギーに満ちた筆致に一時期夢中になった。
三島由紀夫と対比させて石原慎太郎を書いているから、この本は石原慎太郎伝というよりも「石原慎太郎と三島由紀夫」というタイトルなんじゃないかと勘違いしてしまうほどだ。それだけ、お互いが良きライバルであり良き同志であったのだろう。しかし天皇制や国家観に対する価値観は異なり、いつしか溝が深まってしまった。
一番印象に残ったというか、石原さんの人間性が表れているなと思ったのが、プロローグにあった東京マラソンに関するコメントとエピソードである。
「僕は東京マラソンを設置したけれど、誰がいちばんで走るかなんてぜんぜん興味ないんだ。遅いランナーは七時間経つと後ろからバスがきて強制的に収容してしまうんですよ。(中略)たどたどしい足取りで七時間をようやく切ってたどり着いた人間たちの美しさ、清涼感というのにはとても共感する。マラソンじゃなかったら見られない光景ですよね。死ぬときにはああいうふうに満足して死にたいなと思いますね」(18頁)
そして、無事に東京マラソンを走り終えた猪瀬さんに「死なないでよかった」と涙を滲ませる。短気で自分勝手だと誤解されがちな石原さんだが、こんなにも人間臭くて人の懐に入ってくるような情深い方だったとは。
評伝を書くには、対象人物が作家であれば本人の著作を全作読むことはもちろん、彼への書評や多くの文献を読み漁らなくてはならない。巻末の参考文献の数を見ても圧倒されるし、実際に目を通したのはこれ以上だろう。そしてそれらを最も効果的な部分に挿入しながら自分の意見を伝える。評伝作家とは根気のいり、そしてセンスと才能、情熱を持った人でないと成し得ないものだ。そして何より大事なのは、対象の人物(今回の場合は石原慎太郎)を心の底から好きでいることだ。