書に耽る猿たち

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『マーメイド・オブ・ブラックコンチ』モニーク・ロフェイ|人魚はいずれ海に帰る?

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『マーメイド・オブ・ブラックコンチ』モニーク・ロフェイ 岩瀬徳子/訳

左右社 2023.5.18読了

 

魚姫というと、ディズニー映画『リトル・マーメイド』のアリエルを思い浮かべる人が多いだろう。私もそうだ。この作品に登場する遠い昔からやってきたアイカイアはどんな人魚なのだろう。時は1976年、カリブ海に浮かぶブラックコンチ島という架空の島が舞台である。

 

人称で語られるメインの部分以外に、アイカイアの歌のような詩、そしてディヴィッドが現代から過去を回想する日記が挿入されている。アイカイアの詩に心を鷲掴みにされるような切なさが募る。

 

バを始めとした魚の雨が降ってくるシーンでは、子供の頃に読んだ『はれときどきぶた』という本を思い出した。どうして空から豚が降ってきたのかはよく覚えてないのだが、太い黒線で描かれた豚のイラストと、その荒唐無稽な場面が強く印象的だった。かなり人気があったシリーズだったと思う。

 

の魚を降らせたのはアイカイアにかけられた呪いだという。1,000年以上もの過去から未来にやってきたアイカイアは結局は海に帰ってしまうんだろうな、という寂しい思いが読みながらずっと頭によぎっていた。

 

ュアなラブストーリーである。デイヴィッドとアイカイアだけでなく、地主である唯一の白人ミス・レインと黒人クリアの生き方、愛し方もまた、健気で崇高で美しい。

 

ジックリアリズム小説とは、神話や幻想などの非日常・非現実的なできごとを、文学のなかで緻密なリアリズムで表現する技法である。現実的とはとうてい思えない設定なのに、妙に人間らしいアイカイアに共感する。魚類には本来意思や感情が薄いと言われている(そもそも定義づけるのが難しい問題だ)のだが、これを読むと魚にももしかしたら、、なんて思わされる。神話といえば『キルケ』にも人魚姫が登場していた。古くからある伝承・伝統からこの物語が生まれたのだろう。

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