書に耽る猿たち

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『はだしのゲン』中沢啓治|戦争のむごさを知るべき|どんな境遇にもめげない力強さと揺るぎない信念

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はだしのゲン』1〜10 中沢啓治

汐文社 2023.5.28読了

 

画を買うことも読むことも10年ぶり位だと思う。子供の頃はそれなりに読んでいたが、いつしか小説の方に偏向していまい今に至る(なんせあの『鬼滅の刃』すら1冊も読んでないのだ)。この『はだしのゲン』は小学生の時に図書館かどこかで借りて読んだはずなのだが、絵が怖かったという記憶があるだけでよく覚えていなかった。

 

爆者の中岡一家を軸にして戦中・戦後のきびしい生活を描いた物語で、作者中沢啓治さんの体験を元にした作品である。中岡元(なかおか・げん)という少年が主人公である。はだしのまま、途中からは下駄を履いて歩くゲン。そうか、もともとゲンの両親は下駄を作る仕事をしていたのだった。

 

ンのお父さんは、戦争に反対しているため「非国民」と罵られる。ゲンたちもそれを理由に友達から虐められ、家族みんなが村から疎外されるようになる。苦しい。一巻からすでに苦しい。一巻の最後には昭和20年8月6日の広島原爆投下があり、10巻と続くなかでまだまだ先は長いのに、もう落とされたのか。

 

爆投下のあと、ふんどしを下げている人を見てカッコ悪いなと思っていたら背中の皮膚がたれてそう見えていたこと、腸が飛び出しているのに歩いてる人がいたこと、川に浮かんだ死体のお腹かが膨らみガスが破裂して音が出ること、そんな信じがたい光景がリアルな画で迫ってくる。なるほど、これは文章だけよりもより脳裏に染み付く。戦争とはこんなにもむごいものなのか。戦争の悲劇が話されるとき、原爆投下の事実だけに意識が向きがちだが、放射能による原爆症、人間の心自体が病んでいくという更なる悲劇が続くのだ。

 

ンや隆太は多くの困難にもめげずに立ち向かう。虐められた人には仕返しをするが、結局いじめた人(子供でも大人でも)の心を荒めさせたのも、全て戦争のせい。戦争が、ピカが、アメリカ軍が、人間の心をついばみ狂わせた。それでも、ゲンだけはどんな境遇にもめげない力強さがある。これは父、中岡大吉の揺るぎない信念の賜物であろう。

 

の漫画は子供よりもむしろ大人が読むべきだと思う。固定観念で固められた大人の思考こそ、ゲンのたくましく揺るぎない信念によって溶かされるべきだ。どんな困難にあおうとも、踏まれてもすくすくと上を向く麦のようなゲンの生き方を見ると勇気と希望が湧いてくるのだ。

 

られ、怒り、悲しみ、時には笑い、人が涙を流すコマが圧倒的に多い。戦争とはそういうもの。まだ続きがあるんじゃないかというところで最後は幕を閉じる。中沢さんの力が及べば続編を考えていたというから心残りではあるけれども、ゲンのその後は、若者が自分の生き方とすればよい。

 

うやらこの昭和風のタッチが私は結構好きらしい。手塚治虫さんや楳図かずおさんの作風も影が陰鬱で、藤子不二雄AさんFさんもよく考えるとこれに近い。昭和世代の漫画家はこんな風だよなぁ。少女漫画のサラッとしたタッチはどうも苦手。風でふわっと飛ばされそう。そういえばKAT-TUNの中丸さんが漫画家デビューしたそうだけど、なかなか好きな画風だった。

 

島市の小中学校で『はだしのゲン』が平和教材から削除される方針が決まってから、通常の10倍もの売り上げがあったらしい。今回は「漫画全巻ドットコム」というネット通販サイトからまとめて大人買いした。箱入りできちんと収められているのでちょっと得した気分だ。戦争を経験した人が減る中、この作品は永遠に残して読み継がれなければならないと思う。

 

は今夏広島旅行に行く予定である。まだ広島は未踏の地なので、少しずつ学んでから行きたくて、まずは『はだしのゲン』から。原爆ドームは、認識したころには既に原爆ドームとしての存在しか頭になかった。元々は広島の様々な物産を展示する産業奨励館という建物だった。そういうことを知っていなくてはいけないと思う。

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