書に耽る猿たち

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『モイラ』ジュリアン・グリーン|運命の女モイラ、そして青年たち

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『モイラ』ジュリアン・グリーン 石井洋二郎/訳

岩波書店岩波文庫] 2023.5.30読了

 

仰心の篤い赤毛のジョセフは、ミセス・デアの家に下宿することになり、ここから大学に通う。このジョセフという主人公がまた独特の人物だ。極度の潔癖というか、真面目で純朴で、性に対して異常なまでの嫌悪感を持っている。ジョセフ本人の一番の興味は「宗教」だという。

 

一部では、大学生になりたてのジョセフが新たな生活に向けて準備をする。仲良くなったディヴィッドや他の学生たちと、もしやそういう関係になるのかなと思ったけどそうはならなく(ジョセフは同性が好きというわけではないらしい。まだ気付いてないのか?)、もやもやとした展開で話が進むんでいく。中盤になってミセス・デアの養女モイラが姿を現すことで展開に動きが出てくる。

 

ェイクスピアの作品の引用が多い。『オセロー』では、愛するが故に男は女を殺す。これが愛だということをジョセフは理解できないから、なおのこと悩む。この作品だけではないが、シェイクスピアは本当に多くの人に大きな影響を与えたんだなと思う。

 

番大事な場面の詳細が抜け落ちていて面食らいつつ、、まさかこのような結末を迎えるとは思わなかった。しかし、この作品、タイトルは『モイラ』でも『ジョセフ』でもなく『ディヴィッド』じゃないか?いや、『青年たち』が一番しっくり来るような気がする。「モイラ」はギリシャ神話では「運命」の意味があるようなので、その意味ではやはり『モイラ』になるんだろうか。

 

者による解説ではジュリアン・グリーンの生涯について触れられているが、これが興味深くて結構な衝撃を受けた。グリーンはたいそう長生きをしたようで、多くの著作を残したらしい。これまで名前すら知らない作家だったのでこの機会に読めて良かった。