書に耽る猿たち

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『がん消滅の罠 完全寛解の謎』岩木一麻|結局、がんというのは何ものなの?

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『がん消滅の罠  完全寛解の謎』岩木一麻

宝島社[宝島社文庫] 2023.12.04読了

 

題の一部になっている「寛解(かんかい)」の意味は、医学用語で「がんの症状が軽減したこと」である。つまり、完全寛解とは、がんが完全に消滅して検査値も正常を示す状態のことである。

(目次の次頁に記載)

 

木一麻さんのデビュー作にして第15回このミス受賞作である。ドラマ化もされていたみたいだけど、全然気付かなかった。久々の医療ミステリで存分に楽しめた。ただ、こういった「がん」を扱うなど生死に関わる医療がテーマとなると、身近で辛い思いをする人がいる場合に、どうしても心から楽しめない自分がいる。しかし小説なのだから、それはそれとして。

 

命宣告を受けた患者が生命保険の生前給付金を受け取った途端にがんが消えて健康になる。奇跡のような事象が連続して起こっていることに疑問を持ったがんセンターに勤務する夏目、疫病研究者羽島(はしま)、保険会社勤務の森川の3人が謎を解くべく探偵さながらに真相解明をしていく。

 

らの謎解きにまつわる掛け合いにリズムがある。医療に関わらない者にもわかりやすく書かれており読みやすかった。トリックが幾層にもなっていから中弛みもない。羽島が問いかけるなぞなぞチックな冒頭がまずは読者を前のめりにさせる。「結局、がんというのは何ものなの?」と夏目が妻に問われる場面が印象的であった。

 

重盲検(もうけん)試験について、医師ですら使っている薬品がどんな薬なのか(新薬であるか)を知らないということに驚いた。患者に伏せるというのはわかるが、医師にも観察時に主観が入ってしまったり患者への感情移入を防ぐために、公平を保つためになされているらしい。

 

者の岩木一麻さんは、国立がん研究センターで医学研究に従事していた経歴を持っている。医療関係者でないとこの小説は絶対に書けないだろうと思った。現場での動きが臨場感を持ってリアルで、そして専門家でしか知り得ない場面があり知識欲が刺激される。久坂部羊さんや海堂尊さんもそうだ。専門ではないところから綿密な取材を重ねて『白い巨塔』を書き上げた山﨑豊子さんは別格なのだろう。