書に耽る猿たち

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『最後の大君』スコット・フィッツジェラルド|苦痛からもたらされるより深い満足感を噛み締める|未完とはいえ素晴らしい

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『最後の大君』スコット・フィッツジェラルド 村上春樹/訳

中央公論新社 2024.05.23読了

 

は未完の小説が苦手で(たいていの人がそうだろう)、それは物語の結末がわからないことに対する苛立ちなのか、どうにも消化できない心残りなのか。読み終えたあとに、自分の感情の持って行きどころがないからだろう。

 

読み始める前は思っていたし、だからこそ発売してすぐ購入していたのに積読状態になっていたのだが、物語世界に入ると(なんなら作者の友人であり文芸評論家でもあるエドマンド・ウィルソンによる序文から既に)全く杞憂に終わり、優雅でいかにもアメリカ的な映画の世界に没頭できたのだった。

 

リウッドを舞台にした映画の世界。そんなバックグラウンドしか知らずに読み始めたから、最初に飛行機事故にあい語り手となるセシリアの物語かと勘違いしていた。モニカ・スターという映画プロデューサーが主役なのに途中から気づく。でもセシリアもある意味でもう一人の主役だし私は結構このセシリアが好きだ。セシリアがモニカ・スターに恋焦がれているから、客観的な視点で書かれていないだろう点もまたおもしろいのだ。

 

!という場面でフィッツジェラルドの文章が終わってしまう。こんなところで、というまさに不意打ち。本文の後にストーリーの「梗概」が載せられている。本人の書き残したノートと荒筋、知人に語った伝聞をまとめたものであるが、結末まで刺激たっぷりの起伏のあるストーリーになっていた。全てを書き上げて欲しかったと本当に残念でならない。

 

き続き、「ノート(覚え書き)」なるものが収められているが、これは本人にとってはメモみたいなものだから、発表してほしくなかったろうなぁと勝手に想像してしまう。すでに『グレート・ギャツビー』などの名作を世に送り出した彼だからこそ、未完の作品でもこれほどの影響力があったのだろう。

 

上春樹さんの解説に、フィッツジェラルドが娘にあてた書簡のなかで語る言葉がとても深かったのでそのまま引用する。

「人生とは本質的にいかさま勝負であり、最後はこちらが負けるに決まっている。それを償ってくれるものといえば、『幸福や愉しみ』なんかではなく、苦痛からもたらされるより深い満足感なのです」(314頁)

 

結している作品が優れていて未完の作品がレベルが低いわけではない。要は読んでいる時に心地良さ感じられるかどうかが大切であったりする。確かに、少し前に読んだ小説(もちろん最後までしっかり完結)は自分に合わなくてしんどかったもんなぁ。未完の大作といえば、去年読んだ西村賢太さんの『雨滴は続く』が記憶に新しい。

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