書に耽る猿たち

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『ゴッドファーザー』マリオ・プーヅォ|敵にしたら一発アウト、味方にしたら超強力

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ゴッドファーザー』上下 マリオ・プーヅォ 一ノ瀬直ニ/訳 ★

早川書房[ハヤカワ文庫NV] 2024.03.30読了

 

の人が好きな映画として挙げることが多いのが『ゴッドファーザー』だと常々感じている。だいたいにおいてマフィアとかヤクザものが好きだから、そういう意味でも人気があるんだろうなと思う。私は昔テレビで放映されているのをぼんやりと観て、アル・パチーノのべっとりした髪型と暗ーいイメージしかなかった。確かに子供が観てもなんのこっちゃかわからないよな。

 

これ、なにこれ、なんだこれは!!個人的にマフィアとか極道系の話はあまり好まない(むしろ苦手な方)と感じていたのに、冒頭からかなりハマった。この原作を読んだらなんとめちゃくちゃにおもしろかった。家族愛、ファミリーの使命、裏切り。人間の渦巻く感情がてんこ盛り、だけど大人のダークさがあり、そして痺れる非情な世界でもある。彼らを敵にしたら、、一発でアウト。

 

ッドファーザーというのは、マフィアのボスを表す言葉や地位ではなく、元々は「名付け親」の意味があるらしい。イタリアでは「世の中は辛いことだらけだから、二人の父親に面倒をみてもらわなければ生きていけない」という諺のようなものがあり、その意味合いから「名付け親」というものが生まれたそう。コルネオーレファミリーを築き上げたのが、ドン・ヴィトー・コルレオーネである。

 

ン・コルレオーネが銃撃された。あやうく命は取り留めたものの、マフィア闘争の幕開けとなる。父親のビジネスを理解できず稼業を継ぐつもりがなかった三男のマイケルは、この事件をきっかけにして自分の内に秘めた熱源を知る。やはりドンの息子であったのだ。

 

トーリーもさることながら、私がこの作品を気に入ったのは、キャラクターの粒だった個性と彼らのエピソードが丁寧に事細かく書かれていることだ。特に、コンシリエーレ(組織の最高顧問)という役職をもつトム・ハーゲン、ハリウッドのスターである歌手のジョニー・フォーティーンには感情が入る。そして、例え脇役であろうとも、細部にいたるキャラクターをもないがしろにせず、魂を落とし込む著者の思い入れに頭が下がる。

 

シリーに身を隠していたマイケルを救うためにドンが取った行動と策略に震え上がる。ドンは一見穏やかで優しく丁寧な物言いなのに、怒らせたら本当に怖い。それに理にかなったやり方で最後は自分の味方につける。マイケルの父親への思いや家族の在り方について、シシリーから戻ってきた彼がケイ・アダムスに告白する時の言葉に表れる。こんなプロポーズある?これで一緒になる時点でもう人生を捧げる覚悟だ。

 

んでいる途中は夢中で感じなかったのだが、読み終わるとやはりこの世界は恐ろしい。それはマイケルの妻ケイの心情で物語が幕を閉じるからかもしれない。仕事の話は一切家庭に持ち込まない、秘密にすると言われて結婚したケイ。初代ドンは恐ろしいが、その後継者となったマイケルも同等に恐ろしい。ドンの妻とマイケルの妻が毎日祈りを捧げる日々を思うと胸が苦しくなる。この道に入った妻たちの宿命か。

 

学的にどうとかはあまりないかもしれないが、この研ぎ澄まされた冷え冷えとした文体がコルネオーレファミリーに渦巻く冷酷さと物悲しさとうまく表している。最近こういった乾いた文体が好きだ。

 

談だが、大好きなお猿のギャク漫画『モンモンモン』の作者で敬愛するつの丸大先生の飼い犬(または飼っていた)の名前が、ドン・コルネオーレ、ピート・クレメンツァ、ロッコ・ランポーネである。つの丸さんのゴッドファーザー好きはもちろんだが、登場人物が出るたびに、SNSによくあがっている犬たち(フレブル)の顔を連想してしまった(笑)。

 

まハヤカワ文庫ではU-NEXTと組んで「映画原作フェア」なるものをやっており、早川書房から刊行した名作映画の原作数冊に特別なカバーを掛けて販売している。そのうちの一つがこの『ゴッドファーザー』なわけである。このまるっとカバーはなかなかにカッコよくて冒頭の写真に使ったが、元のジャケットも劣らずカッコいいので一応パシャリ。ゴッドファーザーの文字が操られている感じが出ていてくすぐられる。映画3部作、今度ゆっくり観よう。

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