書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『スター』朝井リョウ|作り手と受け取り手の想い

『スター』朝井リョウ 朝日新聞出版[朝日文庫] 2023.3.28読了 社会人を対象にした「これから始めたい習いごと」の第一位が「動画編集」であると何かのテレビ番組で流れているのを先日見た。一般人でもYouTube、TikTokをはじめとして、世間に自分の意見を自…

『無月の譜』松浦寿輝|旅の醍醐味、人生で何かをとことんまで突き詰めること

『無月の譜』松浦寿輝 ★ 毎日新聞出版 2023.3.26読了 将棋は運では決まらない。確実に知力と知力のぶつかり合いであり、また将棋の世界の奥行きは深い。とはいえ、私自身将棋は詳しくない。2016年に藤井聡太さんが中学生でプロ棋士になり日本中で将棋が流行…

『アンクル・トムの小屋』ハリエット・ビーチャー・ストウ|人間に必要なのは信じる心

『アンクル・トムの小屋』上下 ハリエット・ビーチャー・ストウ 土屋京子/訳 ★ 光文社[光文社古典新訳文庫] 2023.3.23読了 タイトルは有名だけど読んだことがある人は少ない小説、これがまさにそんな作品だと思う。勝手にアンクル・トムは少年だと決めつ…

『影に対して 母をめぐる物語』遠藤周作|母への愛は大きくなる

『影に対して 母をめぐる物語』遠藤周作 新潮社[新潮文庫] 2023.3.18読了 遠藤周作さん没後、しかも2020年という最近になってから『影に対して』の原稿が発見された。作者自身の略歴をたどればわかるように、実際の体験を元にして母親の郁をイメージにした…

『樋口一葉赤貧日記』伊藤氏貴|底辺の人びとを描く貧困のリアリズム

『樋口一葉赤貧日記』伊藤氏貴 中央公論新社 2023.3.16読了 先日川上未映子さんがTwitterでこの本をおすすめしていた。確か新幹線での移動中で2巡目を読んでいたと思う。川上さんは樋口一葉著『たけくらべ』の口語訳も手掛けているから思い入れも強いはずだ…

『インドへの道』E・M・フォースター|異国のことを思うのと、その国の人と親しくなるのは違う

『インドへの道』E・M・フォースター 小野寺健/訳 河出書房新社[河出文庫] 2023.3.14読了 ストーリー性がある『ハワーズ・エンド』や『モーリス』から読むべきだとわかっていたのに、難解とされている『インドへの道』からE・M・フォースターさんの作品に…

『太陽の男 石原慎太郎伝』猪瀬直樹|良きライバルであり良き同志がいた

『太陽の男 石原慎太郎伝』猪瀬直樹 中央公論新社 2023.3.12読了 石原慎太郎さんが亡くなって約1年、元東京都知事で作家の猪瀬直樹さんが石原さんの評伝を執筆した。作家としての石原さんと猪瀬さんは、三島由紀夫さんのことを本に残しているという共通点が…

『少将滋幹の母 他三篇』谷崎潤一郎|母への想い、妻への妄執

『少将滋幹(しげもと)の母 他三篇』谷崎潤一郎 中央公論新社[中公文庫] 2023.3.11読了 谷崎潤一郎さんの代表作のひとつである『少将滋幹の母』と他3つの短編が収められた豪華な文庫本である。小倉遊亀さんという画家による原画からとりなおした挿絵がた…

『郵便局』チャールズ・ブコウスキー|仕事のあり方を考える

『郵便局』チャールズ・ブコウスキー 都甲幸治/訳 光文社[光文社古典新訳文庫] 2023.3.8読了 酒に煙草に女に賭け事に…、自堕落で最低な暮らしをしている男だなと思いながらも、どこか憎めない、ある種自由奔放なこの人間らしさにいつの間にか魅了されてし…

『ラーメンカレー』滝口悠生|窓目くんの素敵な話と鈍感力

『ラーメンカレー』滝口悠生 ★ 文藝春秋 2023.3.7読了 たいていの人と同じように、私もラーメンとカレーは大好きだ。けれどこの2つが一緒になったらどうなんだろう。ラーメンが先に来てるから、ラーメン風のカレーということか?タイトルも気になるし、広い…

「西村賢太さん一周忌追悼」田中慎弥さんトークショーに行ってきた

街区の再開発のため、東京駅八重洲口にある「八重洲ブックセンター」が今月末で営業を終了する。都内では神保町の三省堂書店、渋谷の丸善&ジュンク堂をはじめ、大型書店がまたしてもなくなることに、悲しみを隠しきれない。 西村賢太さんが亡くなられて一周…

『待ち遠しい』柴崎友香|未来に心を弾ませる

『待ち遠しい』柴崎友香 毎日新聞出版[毎日文庫] 2023.2.5読了 最近日本の小説で読むのは圧倒的に女性作家の作品が多い気がする。それに、多くの文学賞でも選考されるのは女性作家のものが増えているし、日本でも海外でも、作家という枠組みだけではなく色…

『ミダック横町』ナギーブ・マフフーズ|一人一人に起きる出来事の集まりが地域の息吹となる

『ミダック横町』ナギーブ・マフフーズ 香戸精一/訳 作品社 2023.3.2読了 ピラミッドや古代エジプトをテーマにしたミステリ小説は見かけるが、エジプト人作家が書いた本なんて読んだことあるだろうか。書店の新刊コーナーにあったこの本の帯に「カイロの下…

『傲慢と善良』辻村深月|生きるためには色々なバランスが大切なんだ

『傲慢と善良』辻村深月 朝日新聞出版[朝日文庫] 2023.2.28読了 結婚披露宴の予定も決まり、もうすぐ夫婦となるはずだった架(かける)と真実(まみ)。しかし、突然真実が失踪してしまう。少し前から、真実からストーカーの存在を打ち明けられていた架は…

『ホワイトノイズ』ドン・デリーロ|突拍子もないストーリーと狂気じみた人間たち

『ホワイトノイズ』ドン・デリーロ 都甲幸治・日吉信貴/訳 水声社 2023.2.26読了 ドン・デリーロの代表作である『ホワイトノイズ』は全米図書賞を受賞した作品である。邦訳は元々集英社から刊行されていたが、絶版となり中古本はかなりの値がついている。こ…