書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

◇映画

『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子|もやもやとした大学生と社会人のはざま

『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子 ★ ちくま文庫 2021.9.20読了 なかなか良いタイトルである。本谷有希子さんの作品にありそう。「そいつら」というのが特にいい。津村さんの小説はタイトルのセンスがひときわ抜きん出ていて、読む前から気になり手…

『狐狼の血』柚月裕子|ガミさんの男意気と生き方

『狐狼の血』柚月裕子 角川文庫 2021.8.15読了 女性なのに、よくこんなヤクザ&警察もの書けるよなぁと尊敬する。警察ものはわかるけど、暴力団の話って言葉も特殊で難しいと思う。取材するわけにもいかないし。広島弁も巧みで、特にガミさん(呉原東署暴力団…

『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』ジェフリー・ユージェニデス|少女たちのほのめかし

『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』ジェフリー・ユージェニデス 佐々田雅子/訳 ハヤカワepi文庫 2021.2.22読了 このタイトルにまず目を見張る。なんといっても「ヘビトンボ」だ。トンボの一種で、大顎で噛みつく習性を蛇にとらえてヘビトンボと名付け…

『ミッドナイトスワン』内田英治/白鳥の湖は悲劇であるけれど

『ミッドナイトスワン』内田英治 文春文庫 2020.11.28読了 草彅剛さんの演技が素晴らしいと評判の映画『ミッドナイトスワン』を、監督自ら小説にした。本当は原作があって映画化、という流れでないとどうも納得できない(原作を大事にしたい)のだけれど、過…

『キャロル』パトリシア・ハイスミス/頭の中は愛する人でいっぱい

『キャロル』パトリシア・ハイスミス 柿沼瑛子/訳 河出文庫 2020.11.16読了 先日読んだ『太陽がいっぱい』で、リプリー作品には続きがあると知り読もうとしていたのだが、先にこの『キャロル』を読んだ。当時この小説はパトリシアさん名義ではなく、クレア…

『ナイルに死す』アガサ・クリスティー/文章を疑ってかかる

『ナイルに死す』アガサ・クリスティー 黒原敏行/訳 ハヤカワ文庫 2020.10.15読了 近すぎる。近いうち過ぎる。何がって、『オリエント急行の殺人』を読んでまだ数日しか経っていないのだ。アガサ作品をまた近いうちに読もうとは思っていたけれど、3日後に手…

『オリエント急行の殺人』アガサ・クリスティー/色褪せない名作を味わう

『オリエント急行の殺人』アガサ・クリスティー 山本やよい/訳 ハヤカワ文庫 2020.10.11読了 英国ミステリの女王、アガサ・クリスティーさんの超超有名な本作を再読した。小説で読むのはかれこれ子供の頃以来かもしれない。映画にもなり日本でも野村萬斎さ…

『星の子』今村夏子/読んでいてずっと苦しい

『星の子』今村夏子 ★ 朝日文庫 2020.10.9読了 人気番組「アメトーーク!」の「読書芸人」で、芸人であり作家でもある又吉直樹さんが一推ししていたのが今村夏子さんの『こちらあみ子』だ。その後『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した時には、やは…

『夏への扉』ロバート・A・ハインライン/冷凍睡眠で生き長らえる未来

『夏への扉』ロバート・A・ハインライン 福島正実/訳 ハヤカワ文庫 2020.9.23読了 SF古典小説の名作としてよく取り上げられているため、この作品の存在は知っていたがまだ未読だった。なんでも、日本で山崎賢人さん主演でもうすぐ映画が公開されるようで、…

『太陽がいっぱい』パトリシア・ハイスミス/他人に成りすます

『太陽がいっぱい』パトリシア・ハイスミス 佐宗鈴夫/訳 河出文庫 2020.9.16読了 ずいぶん昔のことだが、マット・デイモンさん主演映画『リプリー』を観た。当時はそのストーリーと残虐性に取り憑かれ、なんて面白い映画だろうと思った記憶がある。そもそも…

『太陽と鉄・私の遍歴時代』三島由紀夫/肉体と精神・三島たらしめるもの

『太陽と鉄・私の遍歴時代』三島由紀夫 中公文庫 2020.8.22読了 三島由紀夫さんの自伝的エッセイが2篇と、自衛隊駐屯地で自決する少し前のインタビューが収録されている。まぁ、2篇の極端なことったらない。なるべく我慢して巻末の解説は最後に読もうとして…

『新聞記者』望月衣塑子/昨年の日本アカデミー賞原作

『新聞記者』望月衣塑子 角川新書 2020.7.11読了 昨年の日本アカデミー賞『新聞記者』の原作である。正直、私の中では絢爛豪華な海外のアカデミー賞、ヴェネツィア国際映画祭、カンヌ国際映画祭等の授賞式に比べて、それを真似た日本アカデミー賞授賞式が滑…

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック/人間とロボットの違いは何なのか

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック 浅倉久志/訳 ハヤカワ文庫 2020.5.14読了 ハリソン・フォード主演映画『ブレードランナー』の原作で、SF小説の金字塔であるあまりにも有名すぎる本作、私はまだ未読だった。映画も観ていな…

『若草物語』オールコット/子供の頃に夢中になった物語を読み直す

『若草物語』オールコット 松本恵子/訳 新潮文庫 2020.3.2読了 子供の頃に夢中になった物語をまた読み返してみたいと思うことはないだろうか?まさしく私にとって今ちょうどそんな時で、書店に平積みされていた本書が目に留まった。今月末から映画化される…

『IT』スティーヴン・キング / 自分の「IT」をどうやって乗り越えるか

『IT』1~4 スティーヴン・キング 小尾芙佐/訳 ★ 文春文庫 2019.9.3読了 ずっと前から気になっていた作品である。1990年の映画も、ホラー映画史上最大のヒット作と言われている2017年のリメイク映画も、実は観ていない。怖いピエロ(ペニーワイズ)の画…

『赤い月』 なかにし礼 / あなたは生きることの天才だ

『赤い月』 上・下 なかにし礼 ★ 岩波現代文庫 2019.7.31読了 波子たちが牡丹江からハルビンへ向かう軍用列車に乗っている20日間の出来事が壮絶である。汽車が止まる度に、ソ連軍の攻撃からなんとか逃げ、満鉄社員に金目の物をあげて列車を動かしてもらい、…

『パピヨン』 アンリ・シャリエール / 自由を求めて

『パピヨン』 上・下 アンリ・シャリエール 平井啓之 / 訳 河出文庫 2019.6.16 読了 私の中で脱獄ものと言えば、吉村昭さんの『脱獄』、ヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』、そして金字塔、アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト博』である。ど…

『めくらやなぎと眠る女』 村上春樹 / 短編集との付き合い方

『めくらやなぎと眠る女』 村上春樹 新潮社 2019.5.25読了 まさに、ジャケ買いである。短編集は滅多に読みたい気持ちにならないのだが、こんなカッコいいソフトカバーはあまりお目にかかれず、つい手に取る。これは、ニューヨーク発の村上春樹短編集第2弾で…

『羊たちの沈黙』 トマス・ハリス / これは映画に分配があがりますな

『羊たちの沈黙』 上下 トマス・ハリス 高見 浩/訳 新潮文庫 2019.5.5読了 映画のレクター4部作は、私の中ではサスペンス映画のベスト3に入り、どの作品も観た時大変興奮したことを覚えている。内容も知っているが何となく手にしたのが、映画上映では最初の…