国書刊行会 2024.04.17読了
なんて素敵な装幀なんだろう。これこそまさにジャケ買いに近い。本の美しさを最大限表現しているし函入りというのがまた良い。国書刊行会は値段も良いけれど装幀にはかなり凝っていて、紙の本が廃れないようにという強い気概が感じられる。うっとりするような本に一目ぼれし刊行されてすぐに買っていたがあたためていたままだった。先日、はてなブログで読者になっている方の記事を読んで思い出した。
房総半島の田舎町で小学生のうちの約3年間を過ごしたタマキ。自然あふれるこの町には「つくも谷」と「百々谷(どどたに)」があった。ケイナちゃんという生物を愛する親友と出会い、将来の職業、そして生きる目的を見出すことになる貴重な体験をする。
ドードー鳥と孤独鳥はどちらも絶滅危惧種、そして鳩の仲間である。孤独鳥というのは「こどくどり」と読んでも間違いではないけれどこの作品では「ソリテア」とルビが振られている。ドードー鳥のでっぷりした愛嬌たっぷりの姿はいろいろな所で目にはするが、ハトだったとは。孤独鳥は顔が小さくしゅっとしてかっこいい。
欧米のドードー鳥研究者たちは、自分たちの研究のことを「ドードロジー」と呼ぶ。つまり「堂々めぐり」ということらしい。おもしろい。そして日本の「堂々めぐり」にはお堂をめぐる「聖地巡礼」のような意味も感じられると書かれていて、いやもう「堂々めぐり」って解決できないお蔵入りみたいな悪いイメージしかなかったけど、ある意味調べている人にとっては幸せなんだろうなぁ。これって西村賢太さんの藤沢清造を追いかける堂々巡りに似ているかも。要は、好きなことをするのだから何かの結論に達しなくても楽しいということ。好きっていうことは何にも勝る。
「絶滅危惧種を忘れてはならない、忘れてしまったらいなかったことと同じになってしまう」タマキの父親の言葉に重みがある。これって、絶滅危惧種だけのことではない。忘れてはいけない、引き継いでいかなければならないことは多くある。広島・長崎に投下された原爆のこと、震災のこと、そして今まさに起きているロシアとウクライナの戦争のこと。
専門用語が飛び交うのかと思いきや、、もちろん科学的か観点から知らないことが多く記されているのだが、意外なほどにするすると読みやすい。主人公2人が子供だった頃から物語が始まるからか。そもそも川端さんは児童文学も書いているようで、読みやすさ、心にすっぽりと入るこの感じはその文体ゆえだろうか。小説とあるが、まるでノンフィクション、ドキュメンタリーのよう。恋愛要素が一切ないところも良いなと思った。川端さんの本は以前一度読んだと思っていたら、川上和人さんの勘違いだったわ。