国内(な行の作家)
『雨滴は続く』西村賢太 文藝春秋[文春文庫] 2024.01.25読了 西村賢太さんの遺作であり、最大の長編作が文庫になった。このろくでなしの堕落した北町貫多がまたもや主人公、そしてもちろん私小説。西村さんの作品は短編であれ中編であれほぼ私小説だから、…
『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子 新潮社 2023.7.31読了 胸のドン突きにあるもの。胸の奥深くの突き当たりにあって自分の意志じゃどうにもならないもの。これに反する気持ちを抱こうとしても、何かが喉に引っかかったような、もどかしい気持ちになりすっきり…
『それは誠』乗代雄介 文藝春秋 2023.7.22読了 私は関東地方に住んでいるので、中学生のときは京都、高校生の時は北海道が修学旅行先だった。札幌も楽しかったけど圧倒的に記憶に残っているのは中学生の時の京都旅行だ。今でも連絡を取り合う仲の良い友達と…
『三の隣は五号室』長嶋有 中央公論新社[中公文庫] 2023.7.6読了 第一藤岡荘という古いアパートに住んだ多くの人々がいる。連作短篇集とはちょっと違って、部屋にあるもの(というか生活に欠かせないけれど脇役である何か)がバトンをつないでいくような感…
『くもをさがす』西加奈子 河出書房新社 2023.6.26読了 『夜が明ける』が刊行された少しあと(私自身も読み終えたあと)に、NHKの「ニュースウォッチナイン」で西さんがインタビューを受けているのを観た。顔がちっちゃくてキュートで、なによりも芯が強いと…
『はだしのゲン』1〜10 中沢啓治 汐文社 2023.5.28読了 漫画を買うことも読むことも10年ぶり位だと思う。子供の頃はそれなりに読んでいたが、いつしか小説の方に偏向していまい今に至る(なんせあの『鬼滅の刃』すら1冊も読んでないのだ)。この『はだし…
『村田エフェンディ滞土録』梨木香歩 新潮社[新潮文庫] 2023.5.15読了 読み始めて何より驚いたのが、昨日まで読んでいた津村記久子さんの『水車小屋のネネ』でヨウム(オウムの一種)が半主役だったのに、この作品でもまたオウムが主要な登場人物(人物と…
『蝙蝠か燕か』西村賢太 文藝春秋 2023.4.24読了 文芸誌に掲載された短編が3編収められた、西村賢太さん没後に刊行された作品集である。藤澤清造という作家のために生きる北町貫多の思想と行動が書かれた、西村さんお得意の私小説だ。 西村さんの作品は芥川…
街区の再開発のため、東京駅八重洲口にある「八重洲ブックセンター」が今月末で営業を終了する。都内では神保町の三省堂書店、渋谷の丸善&ジュンク堂をはじめ、大型書店がまたしてもなくなることに、悲しみを隠しきれない。 西村賢太さんが亡くなられて一周…
『本物の読書家』乗代雄介 講談社 2022.11.12読了 読書家に本物も偽物もあるのだろうか。まぁ、読書家を気取っているニセモノはいるかもしれない。そもそも「読書家」は「家」がつくのに個人の趣味が高じただけになっているけれど、他の「家」がつく「建築家…
『白い薔薇の淵まで』中山可穂 河出書房[河出文庫] 2022.11.7読了 以前から気になっていた中山可穂さんの作品。李琴峰さんの小説の中にも登場しており、おそらく台湾をはじめとして海外でも広く読まれているのだろう。同性愛者の恋愛を描いた作品群でよく…
『チーム・オベリベリ』上下 乃南アサ 講談社[講談社文庫] 2022.7.28読了 タイトルにある「オベリベリ」とは、北海道・帯広のことである。元々アイヌの土地だったため、アイヌ語でオベリベリ、漢字に「帯広」が当てられているのだ。帯にリアル・フィクショ…
『八甲田山死の彷徨(ほうこう)』新田次郎 ★★ 新潮社[新潮文庫] 2022.7.6読了 これは明治35年に青森で実際に起きた八甲田山の遭難事故を元にして作られた小説である。記録文学に近い。そもそも何の目的でこのような行軍があったのかというと、ロシアとの…
『運命の絵 もう逃れられない』中野京子 文藝春秋[文春文庫] 2022.4.13読了 3年近く前に、東京・上野で開催された「コートルード美術館展」を訪れた。まだコロナが始まる前で美術館はどこも混雑しており、本当は近くで開催されていた別の美術展を観に行く…
『ミシンと金魚』永井みみ 集英社 2022.3.16読了 花はきれいで、今日は、死ぬ日だ。(129頁) 本に包まれた帯にも書かれているこの文章が突き刺さる。容易な言葉でたった3センテンスの短い文章なのに、妙に気になる。そして不思議と美しい。人間、死ぬ当日と…
『十七八より』乗代雄介 講談社文庫 2022.1.25読了 乗代さんがそろそろ芥川賞を取るんじゃないかなぁと見守っていたけれど、『皆のあらばしり』は残念ながら受賞ならず。今回の芥川賞候補になった作品は1作も読んでないからなんとも言えないけれど。また折を…
『邯鄲(かんたん)の島遙かなり』上中下 貫井徳郎 ★ 新潮社 2021.12.27読了 今年の9月から3ヶ月連続で刊行された貫井徳郎さん最大の長編小説で、執筆人生の記念碑的作品である。単行本で全3巻ととても長いのだが、読み始めると物語にガツンとのめり込み、と…
『やさしい猫』中島京子 ★ 中央公論新社 2021.11.6読了 今年の5月まで読売新聞の夕刊に連載されていた作品が単行本化された。ジャケットだけみると、猫が出てくるほのぼのとしたお話なんだろうと予想してしまうが、これがどっこい、とても重いテーマなのだ。…
『夜が明ける』西加奈子 ★★ 新潮社 2021.10.28読了 圧倒的なパワーがある。西さんの文章は誰でも読みやすくてすらすら頁が進むのに、魂がこもっていて重たい。この小説の主人公とその友人がたどる道は正直つらい。読んでいて結構苦しかったのだけれど、最後…
『旅する練習』乗代雄介 講談社 2021.10.1読了 中学受験を終えた亜美と、小説家の叔父さん(作品の中で語り手のわたし)は、コロナ禍の中ではあるが旅に出る。それも、千葉から利根川沿いを歩き、埼玉の鹿島アントラーズの本拠地スタジアムに向かうというも…
『最高の任務』乗代雄介 ☆ 講談社 2021.8.13読了 芥川賞候補に2回も選ばれていて、最新作『旅する練習』が気になっている。というより、多くの方から絶賛されている乗代雄介さんの小説をなんでもいいから読みたい欲が高まっていた。この『最高の任務』には、…
『文鳥・夢十夜』夏目漱石 新潮文庫 2021.7.22読了 久しぶりに夏目漱石さんの作品を読んだ。長編は結構読んでいるのだけど、短編はもしかしたら初めてかもしれない。夏だから、ちょっとホラー要素かなということで以前から気になっていた『夢十夜』もようや…
『六月の雪』乃南アサ 文春文庫 2021.6.6読了 台湾は親日国家として知られる。一度でも台湾を訪れたことがある人は、台湾人に親切にされ、料理も美味しく居心地も良く、好きになるだろう。私もそんな1人だ。つい3日ほど前に、日本から台湾へ新型コロナウイル…
『ガダラの豚』Ⅰ Ⅱ Ⅲ 中島らも 集英社文庫 2021.3.16読了 中島らもさんといえば、アル中で躁鬱家、なかなかはっちゃけた人というイメージがある。小説家、エッセイスト、放送作家である彼は『今夜、すべてのバーで』で吉川英治文学新人賞を受賞した。私は過…
『白いしるし』西加奈子 新潮文庫 2021.1.9読了 西加奈子さんの直球恋愛小説。それも、苦しい苦しい恋愛だ。32歳独身、絵を描きながらバイトをして暮らす夏目は間島くんに恋をする。間島昭史は、作中ではずっと『間島昭史』と『』つきで表されている。まるで…
『流浪の月』凪良ゆう 東京創元社 2020.8.8読了 凪良ゆうさんは、もともとBL(ボーイズラブ)小説を書いていた方。あんまり合わないだろうなと思い、本作は今年の本屋大賞受賞作にも関わらず読むつもりはなかった。でも、書店にいつまでもこうも積み上げられ…
『さくら』西加奈子 ★ 小学館文庫 2020.7.27読了 西加奈子さんの小説の中では、おそらく刊行数の多さは5本の指に入ると思う。西さんと言えば直木賞受賞作『サラバ!』が圧倒的すぎて、他の作品が霞むように見えてしまう。そんなことないのに。でも、この『さ…
『あなたが消えた夜に』中村文則 毎日文庫 2020.4.27読了 久しぶりに中村文則さんの小説を読んだ。全編を通して漂うほの暗い感じは今回も健在のようだ。主人公が刑事であるが、中村さんが警察組織を題材にするのは珍しいような気がする。 連続通り魔達人事件…
『夜の歌』上下 なかにし礼 講談社文庫 2020.2.11読了 なかにし礼さんの自伝的小説だ。26歳で入院した時にゴーストという存在に初めて出会い、過去と現在とを行き来するストーリーになっている。この作品は雑誌に掲載されたようだが、書き始めたのも、度重な…
『奇蹟』中上健次 河出文庫 2019.12.12読了 この本は、私の家にある「これから読む本たち」の箱に3~4年前から入っていた。いわゆる積読状態。一つ前に読んだ対談集に、中上健次さんの名前がちらほら挙がっていたので、気になって読むことにした。なんでも…