『ハツカネズミと人間』ジョン・スタインベック 大浦暁生/訳
新潮社[新潮文庫] 2024.03.24読了
スタインベックの名作の一つであるが、まだ読んでいなかった。勝手に子ども向けのストーリーかと思っていたのだが、ラストは息を呑むほど苦しくなり心がえぐられそうになった。こうなるしかなかったのだ。この短い作品でこれだけの強烈な印象を残す小説は世にそんなに多くはない。
身体の大きさも頭の良さもまるで正反対のジョージとレニーは、日雇い労働者として各地を放浪している。2人には大きな夢があった。土地を買い、小さな家を持ち、自分たちの楽園としてのびのびと暮らす。レニーはウサギを飼って面倒をみる。
図体が大きいが精神的には幼いレニーのせいで、ジョージはさんざんな目にあってきた。しかし、2人の友情は育まれ、お互いにとってかけがえのないものになっていく。平穏に、夢見るように過ごす。レニーの怪力のせいで大きな事件が起こるまでは。
人間は一人だけでは生きていけない。誰もが補い合って助け合う。でも、社会ではそれだけでは生きていけないのだ。相手の心を考えることができる唯一の人間という動物の不条理を問いた作品だ。人生の夢は壮大で美しいのに、現実は残酷でやるせない。
わずか160頁ほどの中編一作品だけで文庫本になっているので手軽な本だ。新潮文庫や岩波文庫は、結構こういう薄手の本を刊行してくれるのが個人的にはとてもありがたい。なんとなくの寄せ集めの短編集にするよりも、その一作に自信が込められている気がするし、ページ数を増やして高価になるよりは余程良い。結局は、安価であればあるほど売れて読まれると思うから。スタインベックの作品で『エデンの東』をまだ読んでいないので今度読むつもりだ。