書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2023-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『ガリバー旅行記』ジョナサン・スウィフト|旅行記・冒険譚と名のつくもので間違いなく一番おもしろい

『ガリバー旅行記』ジョナサン・スウィフト 柴田元幸/訳 ★★ 朝日新聞出版 2023.12.27読了 小さい頃に『ガリバー旅行記』を読んだ記憶はある。とはいえ、大男が地面に横たわり、その周りを多くの小人たちがぞろぞろ歩いてるような挿絵を覚えているだけと言っ…

『存在のすべてを』塩田武士|引き摺り込まれる抜群のおもしろさ

『存在のすべてを』塩田武士 ★ 朝日新聞出版 2023.12.21読了 この殺風景な表紙が不思議だ。何が表されているのだろう。帯にある久米宏さんの「至高の愛」という言葉も気になる。 神奈川県で起きた二児同時誘拐事件、この導入から早速引き込まれる。身代金受…

『関東大震災』吉村昭|天災には怒りや恨みをぶつける相手がいない

『関東大震災』吉村昭 文藝春秋[文春文庫] 2023.12.17読了 今年は関東大震災から100年が経ったということで、装い新たに(というか文庫カバーの上にぐるりと更なるカバーがかけられている)書店に並べられていた。天災は人間の力で防ぎようがない。それで…

『ばにらさま』山本文緒|日常にひそむ虚無感とままならなさ

『ばにらさま』山本文緒 文藝春秋[文春文庫] 2023.12.15読了 表題作を含めた7作の短編がまとめられた本。なんて小気味良くて、心を掴まれる文章なんだろう。日常にひそむちょっとした不安定さを掬い取り、虚無感と生きることのままならなさを絶妙に描く。…

『野生の棕櫚』ウィリアム・フォークナー|交わらないのにお互いを高め合う二つの作品

『野生の棕櫚(やせいのしゅろ)』ウィリアム・フォークナー 加島祥造/訳 中央公論新社[中公文庫] 2023.12.12読了 フォークナーの小説を読むときは心を静謐に保ち、雑音を排除する必要がある。そうしないと頭に入ってこないのだ。タイトルにある漢字の「…

『ウィンダム図書館の奇妙な事件』ジル・ペイトン・ウォルシュ|保健師探偵イモージェンが魅力的

『ウィンダム図書館の奇妙な事件』ジル・ペイトン・ウォルシュ 猪俣美江子/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2023.12.06読了 保健室の先生って、優しかったよなぁ。小学校でも中学校でもその記憶はある。私は保健室に入り浸る生徒ではなかったけれど、包容感…

『がん消滅の罠 完全寛解の謎』岩木一麻|結局、がんというのは何ものなの?

『がん消滅の罠 完全寛解の謎』岩木一麻 宝島社[宝島社文庫] 2023.12.04読了 副題の一部になっている「寛解(かんかい)」の意味は、医学用語で「がんの症状が軽減したこと」である。つまり、完全寛解とは、がんが完全に消滅して検査値も正常を示す状態の…

『結婚/毒 コペンハーゲン三部作』トーヴェ・ディトレウセン|情熱的なトーヴェの生き方こそ詩的だ

『結婚/毒 コペンハーゲン三部作』トーヴェ・ディトレウセン 批谷(ひたに)玲子/訳 ★ みすず書房 2023.12.02読了 デンマークの作家といえば、アンデルセンがぱっと思い浮かぶ。というか、他に誰がいるだろう?首をひねっても出てこない。このトーヴェ・デ…

『田舎教師』田山花袋|退屈なのに名作

『田舎教師』田山花袋 新潮社[新潮文庫] 2023.11.28読了 田山花袋といえば『布団』である。布団の匂いを嗅ぐ中年男性の姿がよく取り上げられており、花袋の名前だけは知っている方は多いだろう。実は私も名前を知っていただけで、花袋の作品を読むのは初め…

『夢みる宝石』シオドア・スタージョン|切なく儚い幻想的な世界

『夢みる宝石』シオドア・スタージョン 川野太郎/訳 筑摩書房[ちくま文庫] 2023.11.25読了 この作品はスタージョンの最初の長編小説で1950年に刊行された。もともと早川書房から邦訳されていたが、この度新訳としてちくま文庫から刊行されたものである。…