書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(か行の作家)

『しをかくうま』九段理江|日常的な言葉遊びが物語になった

『しをかくうま』九段理江 文藝春秋 2024.04.23読了 九段理江さんの書く斬新な物語世界が好きだ。突拍子もない設定と、ユーモラスなのに冷酷とも思える言葉遊びの数々。でも、この小説は万人に受ける作品ではないと思う。競馬の実況をする男性が主人公で、何…

『ドードー鳥と孤独鳥』川端裕人|好きなことに真剣に取り組めばそれだけで楽しい

『ドードー鳥と孤独鳥』川端裕人 国書刊行会 2024.04.17読了 なんて素敵な装幀なんだろう。これこそまさにジャケ買いに近い。本の美しさを最大限表現しているし函入りというのがまた良い。国書刊行会は値段も良いけれど装幀にはかなり凝っていて、紙の本が廃…

『方舟を燃やす』角田光代|誰かの人生、こんな風に物語になる

『方舟を燃やす』角田光代 新潮社 2024.04.04読了 昭和の時代から、平成、令和へと駆け巡る。グリコ森永事件、御巣鷹山の飛行機墜落事故、テレクラの大流行、オウム真理教、色々な事件があったよな。「ノストラダムスの予言」のことは家でも学校でも話題にな…

村上春樹×川上未映子「春のみみずく朗読会」に行ってきた

先週のことになるが、3月1日(金)に、早稲田大学大隈記念講堂にて開催された「村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会」に行ってきた。おそらく、私の書に耽る関連では今年のメインイベントの一つになるであろう。 早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラ…

『東京都同情塔』九段理江|時代の先端を突き進む

『東京都同情塔』九段理江 新潮社 2024.02.11読了 なんて端切れの良いスカッとするラストなんだろう。たいてい芥川賞受賞作を読み終えたときは「ふぅん」「そうかぁ」「上手い文章で良いものを読んだとはわかるけど、イマイチ何を伝えたかったのかわからない…

『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』川本直|真実と虚構の間を彷徨い、頭がぐらぐら。それが楽しい。

『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』川本直 河出書房新社[河出文庫] 2023.11.23読了 いやはや、文庫になるの早すぎでしょ。単行本が出てから2年あまりで文庫化されている。読売文学賞を受賞しているからか。ともあれ単行本を買うかかなり悩んでいた私に…

『ルポ路上生活』國友公司|太ったホームレスがいるんです

『ルポ路上生活』國友公司 彩図社 2023.11.20読了 住む場所の近くに、散歩やジョギングが出来るような道があるかどうかは私にとって結構大きなポイントになる。できれば信号を渡る回数が少なく、なるべく見晴らしがいいコースが良い。そうでないと、家を出る…

『神よ憐れみたまえ』小池真理子|百々子の数奇な運命はいかに

『神よ憐れみたまえ』小池真理子 新潮社[新潮文庫] 2023.11.15読了 久しぶりに小池真理子さんの小説を読んだ。彼女の本は恋愛コテコテのものが多くてなんとなく遠のいていたのだけど、この本はどっぷりと物語世界に浸れるなかなか骨太の作品であった。表紙…

『鵼の碑』京極夏彦|蘊蓄たらたらがこのシリーズの醍醐味

『鵼の碑(ぬえのいしぶみ)』京極夏彦 講談社[講談社ノベルス] 2023.10.11読了 本が好きなら大抵の人が一度はハマったことがあるだろう京極夏彦さんの百鬼夜行シリーズ。中禅寺、榎津、関口、木場など懐かしの登場人物たちが勢揃い。ベストセラーを生み出…

『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』川上未映子|母娘の関係性、身体の生理現象

『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』川上未映子 筑摩書房[ちくま文庫] 2023.8.8読了 挑発的なタイトルと表紙である。この本は「詩集」とジャンル分けされている。頁をめくると確かに詩に見えるものもあるが、短編のようにも感じられる。『乳と卵』で…

『黄色い家』川上未映子|人間のなかのある部分、表現できないうやむやな感情

『黄色い家』川上未映子 ★★ 中央公論新社 2023.4.19読了 遅ればせながら、ようやく読み終えた。いつものことだけど、新刊発売日から間をあけずすぐに購入するくせに、勿体ぶっているのかなんなのか、しばらく放置する。で、ようやく周りのざわざわが一通り落…

『樋口一葉赤貧日記』伊藤氏貴|底辺の人びとを描く貧困のリアリズム

『樋口一葉赤貧日記』伊藤氏貴 中央公論新社 2023.3.16読了 先日川上未映子さんがTwitterでこの本をおすすめしていた。確か新幹線での移動中で2巡目を読んでいたと思う。川上さんは樋口一葉著『たけくらべ』の口語訳も手掛けているから思い入れも強いはずだ…

『たおやかに輪をえがいて』窪美澄|自分の人生を自信を持って生きたい

『たおやかに輪をえがいて』窪美澄 中央公論新社[中公文庫] 2023.2.6読了 自分とは立場が異なるのに、どうしてこんなにも共感できるんだろう。絵里子の行動、感情に他のなにものかが入り込む余地がない。おそらく、最初から絵里子の一挙手一投足、感情の全…

『僕は珈琲』片岡義男|私も珈琲|東京堂書店

『僕は珈琲』片岡義男 光文社 2023.2.1読了 なんて味わい深い文章を書く人なんだろう。淡々とした中にも、読み手が想像を巡らせてしまう独特の空気がある。片岡義男さんの短編を読んだある編集者から「出来事だけが物語のなかに書いてある。筆者の気持ちをい…

『fishy』金原ひとみ|お酒を飲み交わす関係はいい

『fishy』金原ひとみ 朝日新聞出版[朝日文庫] 2023.1.23読了 金原ひとみさんの作品はここ1〜2年で読むことが増えた。昔はそこまで惹かれなかったのに、40代の今読むととても突き刺さるものがある。確実に綿矢りささんの小説の方が好みだったのに、今は金原…

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒|誰かと一緒に過ごして得られるもの

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒 集英社インターナショナル 2022.12.5読了 この作品は去年の9月に刊行され、私が買った本の奥付を見ると既に9刷の版を重ねている。2022年Yahoo!ニュース|本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した、ほ…

『定価のない本』門井慶喜|古書店街、本を守る人たち|神保町ブックフェスティバル・神田古本まつり

『定価のない本』門井慶喜 東京創元社[創元推理文庫] 2022.10.31読了 門井慶喜さんの小説を読むのは、直木賞受賞作『銀河鉄道の父』以来だ。この『定価のない本』は、タイトルと表紙のイラストから想像できるように、古本・古書店が主役。それも、日本一、…

『アニバーサリー』窪美澄|料理と子育て、女性の社会進出

『アニバーサリー』窪美澄 新潮社[新潮文庫] 2022.10.15読了 読む前に想像していたのは、現代女性の悩みや生き方が描かれた小説だったのに、75歳でマタニティスイミングを教える昌子の生い立ちが、つまり昭和の初め頃の描写が冒頭からかなり(全体の3分の1…

『いるいないみらい』窪美澄|いろいろな家族のかたち

『いるいないみらい』窪美澄 KADOKAWA[角川文庫] 2022.6.19読了 タイトルの「いる」「いない」とは、自分に子供が「いる」か「いない」かの未来のことである。つまり、赤ちゃんを産むか産まないか、産めるか産めないか、家族をつくるかつくらないか、そう…

『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ|死にたみ、わかりみ、生きたみ

『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ 集英社 2022.4.9読了 腐女子という言葉はもはや当たり前のように世の中にあり、俗にBLジャンル(男性同士の恋愛)にハマっている女子のことを言う。確かにBL作品は漫画にも小説にも結構増えていて、最近はドラマにもなっ…

『少年』川端康成|未完の原稿のような作品

『少年』川端康成 新潮社[新潮文庫] 2022.4.5読了 五十歳になった「わたし・宮本(川端康成さん本人だろう)」が、全集を出すために昔書いた作品を読み直す作業をする。『湯ケ島での思い出』という未完の原稿をゆっくりと読み進めながら、過去に想いを寄せ…

『物語 ウクライナの歴史』黒川祐次|ヨーロッパの中心にあるウクライナ

『物語 ウクライナの歴史』黒川祐次 中央公論新社[中公新書] 2022.4.4読了 ロシアがウクライナ侵攻を始めてからもうすぐ1か月になる。日本からは遠い地の出来事で、できることは何もないかもしれないが、何が起きているかを知ることは出来る。私たちは目を…

『朱より赤く 高岡智照尼の生涯』窪美澄|苦難に満ちた波瀾万丈の人生

『朱(あか)より赤く 高岡智照尼の生涯』窪美澄 小学館 2022.3.6読了 幼い頃叔母に育ててもらったみつ(後の高岡智照)は、12歳の時、産みの父親に騙され舞妓になるよう売られてしまった。舞妓、芸妓を経て、社長夫人になり、さらに女優や文筆業まで行う。…

『名もなき王国』倉数茂|現実と非現実の境界をしゃぼん玉のようにたゆたう

『名もなき王国』倉数茂 ポプラ社[ポプラ文庫] 2022.2.28読了 倉数茂さんという作家は初めて知った。帯に書かれた日本SF大賞、三島由紀夫賞ダブルノミネートの文字と、書店に飾ってあった「多くの書評家絶賛!」というのを見て思わず手に取ってみた。 著者…

『Schoolgirl』九段理江|動画配信を文学で表現するという斬新さ

『Schoolgirl(スクールガール)』九段理江 文藝春秋 2022.2.15読了 先月発表された第166回芥川賞受賞作品は、砂川文次さんの『ブラックボックス』である。それを読む前に、候補作の一つだった『Schoolgirl』を先に読み終えた。書店で最初の段落を読んでみて…

『アンソーシャル ディスタンス』金原ひとみ|現代を生きる女性たちの依存

『アンソーシャル ディスタンス』金原ひとみ 新潮社 2022.1.31読了 金原ひとみさんのお父様は、尊敬する翻訳家金原瑞人さんだ。私としては圧倒的に瑞人さんにお世話になっている。金原ひとみさんの小説は、芥川賞受賞作の『蛇にピアス』を読み、数年前に『マ…

『締め殺しの樹』河﨑秋子|荒々しく生臭く

『締め殺しの樹』河﨑秋子 小学館 2022.1.21読了 以前何かのテレビ番組で、河﨑秋子さんの『肉弾』という小説が紹介されていた。作品のことよりも河﨑さんが元羊飼いだったということに興味を覚え、どんな作品を書くのかと気になっていた。 その『肉弾』を探…

『ふがいない僕は空を見た』窪美澄|上を向くしかないんだなって

『ふがいない僕は空を見た』窪美澄 ★ 新潮文庫 2021.12.11読了 おそらく窪美澄さんの名前を世間に広めたのはこの作品だと思う。2010年に、収録作「ミクマリ」でR-18文学賞、そして「ミクマリ」も含めたこの『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞を受賞、…

『神曲』川村元気|身近にいる人を信じられますか

『神曲』川村元気 新潮社 2021.12.9読了 私はダンテの『神曲』を読んだことがない。いつかは読みたいと思っているイタリアの叙事詩だが、いかんせん難しそうでまだ手を出せないでいる。読んでなくても、きっとこの作品は問題ないだろうと思い手に取ってみた…

『断片的なものの社会学』岸政彦|言葉にするほどのない物事を絶妙に表現する

『断片的なものの社会学』岸政彦 朝日出版社 2021.11.11読了 岸政彦さんといえば、東京に暮らす150人にインタビューしそれをまとめた『東京の生活史』が話題になっている。かなり分厚くて値段もまぁまぁなのに、すでに4刷の増刷が決まったらしい。私が岸さん…