書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(か行の作家)

『いるいないみらい』窪美澄|いろいろな家族のかたち

『いるいないみらい』窪美澄 KADOKAWA[角川文庫] 2022.6.19読了 タイトルの「いる」「いない」とは、自分に子供が「いる」か「いない」かの未来のことである。つまり、赤ちゃんを産むか産まないか、産めるか産めないか、家族をつくるかつくらないか、そう…

『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ|死にたみ、わかりみ、生きたみ

『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ 集英社 2022.4.9読了 腐女子という言葉はもはや当たり前のように世の中にあり、俗にBLジャンル(男性同士の恋愛)にハマっている女子のことを言う。確かにBL作品は漫画にも小説にも結構増えていて、最近はドラマにもなっ…

『少年』川端康成|未完の原稿のような作品

『少年』川端康成 新潮社[新潮文庫] 2022.4.5読了 五十歳になった「わたし・宮本(川端康成さん本人だろう)」が、全集を出すために昔書いた作品を読み直す作業をする。『湯ケ島での思い出』という未完の原稿をゆっくりと読み進めながら、過去に想いを寄せ…

『物語 ウクライナの歴史』黒川祐次|ヨーロッパの中心にあるウクライナ

『物語 ウクライナの歴史』黒川祐次 中央公論新社[中公新書] 2022.4.4読了 ロシアがウクライナ侵攻を始めてからもうすぐ1か月になる。日本からは遠い地の出来事で、できることは何もないかもしれないが、何が起きているかを知ることは出来る。私たちは目を…

『朱より赤く 高岡智照尼の生涯』窪美澄|苦難に満ちた波瀾万丈の人生

『朱(あか)より赤く 高岡智照尼の生涯』窪美澄 小学館 2022.3.6読了 幼い頃叔母に育ててもらったみつ(後の高岡智照)は、12歳の時、産みの父親に騙され舞妓になるよう売られてしまった。舞妓、芸妓を経て、社長夫人になり、さらに女優や文筆業まで行う。…

『名もなき王国』倉数茂|現実と非現実の境界をしゃぼん玉のようにたゆたう

『名もなき王国』倉数茂 ポプラ社[ポプラ文庫] 2022.2.28読了 倉数茂さんという作家は初めて知った。帯に書かれた日本SF大賞、三島由紀夫賞ダブルノミネートの文字と、書店に飾ってあった「多くの書評家絶賛!」というのを見て思わず手に取ってみた。 著者…

『Schoolgirl』九段理江|動画配信を文学で表現するという斬新さ

『Schoolgirl(スクールガール)』九段理江 文藝春秋 2022.2.15読了 先月発表された第166回芥川賞受賞作品は、砂川文次さんの『ブラックボックス』である。それを読む前に、候補作の一つだった『Schoolgirl』を先に読み終えた。書店で最初の段落を読んでみて…

『アンソーシャル ディスタンス』金原ひとみ|現代を生きる女性たちの依存

『アンソーシャル ディスタンス』金原ひとみ 新潮社 2022.1.31読了 金原ひとみさんのお父様は、尊敬する翻訳家金原瑞人さんだ。私としては圧倒的に瑞人さんにお世話になっている。金原ひとみさんの小説は、芥川賞受賞作の『蛇にピアス』を読み、数年前に『マ…

『締め殺しの樹』河﨑秋子|荒々しく生臭く

『締め殺しの樹』河﨑秋子 小学館 2022.1.21読了 以前何かのテレビ番組で、河﨑秋子さんの『肉弾』という小説が紹介されていた。作品のことよりも河﨑さんが元羊飼いだったということに興味を覚え、どんな作品を書くのかと気になっていた。 その『肉弾』を探…

『ふがいない僕は空を見た』窪美澄|上を向くしかないんだなって

『ふがいない僕は空を見た』窪美澄 ★ 新潮文庫 2021.12.11読了 おそらく窪美澄さんの名前を世間に広めたのはこの作品だと思う。2010年に、収録作「ミクマリ」でR-18文学賞、そして「ミクマリ」も含めたこの『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞を受賞、…

『神曲』川村元気|身近にいる人を信じられますか

『神曲』川村元気 新潮社 2021.12.9読了 私はダンテの『神曲』を読んだことがない。いつかは読みたいと思っているイタリアの叙事詩だが、いかんせん難しそうでまだ手を出せないでいる。読んでなくても、きっとこの作品は問題ないだろうと思い手に取ってみた…

『断片的なものの社会学』岸政彦|言葉にするほどのない物事を絶妙に表現する

『断片的なものの社会学』岸政彦 朝日出版社 2021.11.11読了 岸政彦さんといえば、東京に暮らす150人にインタビューしそれをまとめた『東京の生活史』が話題になっている。かなり分厚くて値段もまぁまぁなのに、すでに4刷の増刷が決まったらしい。私が岸さん…

『さよなら、ニルヴァーナ』窪美澄|人間の中身を見たい

『さよなら、ニルヴァーナ』窪美澄 文春文庫 2021.10.16読了 衝撃を受けた事件といえば、私の中ではオウム真理教による地下鉄サリン事件、4人の幼児・幼女を誘拐し殺人した宮崎勤事件、そして、神戸児童連続殺傷事件である。子供を殺し首を小学校の門に置い…

『トリニティ』窪美澄|何かを捨ててより良いものを拾って生きる

『トリニティ』窪美澄 ★ 新潮文庫 2021.9.1読了 トリニティとは、キリスト教でいう三位一体のことだ。三角形に表してバランスを保つような図をたまに見るような気がする。昔仕事でトリニティをサブタイトルにした商品を売ったことを思い出した。この作品では…

『大阪』岸政彦 柴崎友香|大人の芳しい上質な随筆集

『大阪』岸政彦 柴崎友香 河出書房新社 2021.6.10読了 生まれ育った街を「地元」という。小さい頃から転勤を繰り返していた私は、どんな環境でもある程度馴染めるという術をおぼえて育った。小学生高学年から一つの地域に長く住んだから、私が「地元」と言え…

『オルタネート』加藤シゲアキ|繋がること、その手段

『オルタネート』加藤シゲアキ 新潮社 2021.5.24読了 高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」を題材にした小説である。いま世の中にあるマッチングアプリは結婚を前提としたものが多い。マッチングアプリ自体は数年前から流行っていて、私の知り合い…

『ウィステリアと三人の女たち』川上未映子|女性の複雑な心理と闇

『ウィステリアと三人の女たち』川上未映子 新潮文庫 2021.5.2読了 大好きな川上未映子さんの文庫本新刊である。川上さんの本は毎年1冊は読んでいると思っていたのに、去年は読んでいなかったみたいだ。『夏物語』では毎日出版文化賞を受賞され、海外でも多…

『死の島』小池真理子|人間は最期どうやって死ぬのがいいのか

『死の島』小池真理子 文春文庫 2021.3.21読了 長く文芸書の編集職をしていた澤登志夫は、定年後はカルチャースクールで小説講座を務めていた。しかし末期の腎臓がんのため講座を辞することに。元々妻子もあった登志夫だが、過去に不倫関係になった女性が原…

『コンジュジ』木崎みつ子|丁寧に育て紡がれた文章

『コンジュジ』木崎みつ子 集英社 2021.2.1読了 第44回すばる文学賞受賞作で、先日発表された芥川賞の候補作にも選ばれた本作品。候補になっている時から、私は受賞作『推し、燃ゆ』よりもこの『コンジュジ』のほうが気になっていた。 母親が家を出て、父親…

『マスク スペイン風邪をめぐる小説集』菊池寛|マスクなしで歩ける日は来るのだろうか

『マスク スペイン風邪をめぐる小説集』菊池寛 文春文庫 2021.1.31読了 およそ100年前にスペイン風邪が流行した時、菊池寛さん自身の経験を元にして短編『マスク』が生まれた。身体が弱いことを医師に指摘された菊池さんは、徹底的に予防をする。なるべく家…

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』河野啓/ひとりの人間としての栗城劇場

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』河野啓 集英社 2021.1.20読了 約3年前に、ある日本人登山家がエベレストで亡くなった。そのニュースはよく憶えている。なぜなら、その登山家は指を9本失くしていたから。登山中に亡くなったことよりも、指を9本切…

『殉教者』加賀乙彦/信仰にはパワーが必要

『殉教者』加賀乙彦 講談社文庫 2020.12.23読了 自らの信仰のために命を失ったとされる人のことを殉教者という。キリスト教で使われることが多いが、信仰の対象は決まっていないようだ。タイトルを見るとどうしても遠藤周作さんを思い浮かべる。著者の加賀さ…

『三度目の恋』川上弘美/少しだけ好き、も大事な感情

『三度目の恋』川上弘美 中央公論新社 2020.12.21読了 書店に並ぶ佇まいがとても気になってしまい、いてもたってもいられず手に取る。恋愛ものだけど、きっと川上さんが書くと普通の恋愛小説ではなくてある種の優しさがあるだろうと。それでも一筋縄ではいか…

『信長の原理』垣根涼介/法則にとらわれ続ける

『信長の原理』上下 垣根涼介 角川文庫 2020.11.5読了 垣根さんの小説は、文学賞三冠に輝いた『ワイルド・ソウル』しか読んだことがない。それもかなり前で、おもしろかった記憶はあるものの内容はほとんど憶えていない。最近の垣根さんは歴史小説を書くこと…

『天稟』幸田真音/変動する相場と変わらない絵

『天稟(てんぴん)』幸田真音 角川書店 2020.9.5読了 10年くらい前だろうか、山種美術館に行ったことがある。移転後の恵比寿にある今の美術館で、収められている日本画よりもむしろ、都会に突如現れた建物に驚いた記憶がある。経済小説は苦手とするところな…

『ファントム・ピークス』北林一光/10年以上前の作品を書店に並べる

『ファントム・ピークス』北林一光 角川文庫 2020.7.9読了 北林一光(いっこう)さんは、その才能を惜しまれつつ45歳という若さで癌のため亡くなられた。映画プロデューサーを経て執筆活動に入った方で、本作は松本清張賞の最終選考まで残り、非常に評価され…

『やめるときも、すこやかなるときも』窪美澄/過去も未来も受け入れる

『やめるときも、すこやかなるときも』窪美澄 集英社文庫 2020.7.4読了 書店ではよく目にするが、窪美澄さんの小説を読むのは実は初めてだ。なんとなく学生さんや若い人がターゲットかなと。そして本作はジャニーズの誰か(キスマイの藤ヶ谷くんだったかな?…

『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』門田隆将/あの時何が起きていたかを知る。そして真実を残す。

『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』門田隆将 角川文庫 2020.6.16読了 新型コロナウィルス感染予防対策で映画館も閉館され、当初の公開時期延期を余儀なくされた映画『フクシマフィフティ』。3月頃は映画の番宣で、佐藤浩市さんと渡辺謙さんのお姿を…

『銀河鉄道の父』門井慶喜/あの宮沢賢治を育て見守った父の姿

『銀河鉄道の父』門井慶喜 講談社文庫 2020.4.25読了 宮沢賢治さんといえば、誰もが知っている童話や詩を書く国民的作家であり、岩手の理想郷イーハトーブが思い浮かぶ。私も一度岩手に旅行で訪れた時に、イーハトーブをモチーフにした広大な公園に行ったこ…

『クラウドガール』金原ひとみ/つかみどころのない関係

『クラウドガール』金原ひとみ 朝日文庫 2020.4.24読了 性格も容姿も異なる姉妹がそれぞれ心の内を語っていく。姉の理有はしっかりして面倒見の良い現実主義、妹の杏は自由奔放で夢見がちで美しい少女。2人は姉妹といえど育った環境も違うから両親への想いも…