書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(か行の作家)

『怪談・骨董』小泉八雲|なんと落語的なことよ

『怪談・骨董』小泉八雲 平川祏弘/訳 河出書房新社[河出文庫] 2025.12.13読了 朝ドラ『ばけばけ』の影響で話題となっているラフカディオ・ハーン、日本名で小泉八雲さんは、欧米に日本の文化や伝統を幅広く紹介した。多くの書店でフェアをやっており、こ…

『夏物語』川上未映子|現時点での著者の最高傑作だと思う

『夏物語』川上未映子 ★★ 文藝春秋[文春文庫] 2025.12.03読了 これから真冬になるからちょっとタイトルと季節感がそぐわないような。けどこの『夏物語』というのは季節の「夏」ではなくて、主人公夏目夏子の物語という意味である。少し前に北陸(福井)へ…

『私小説 作家は真実の言葉で嘘をつく』金原ひとみ/編著|ぜひとも言語の冒険を

『私小説 作家は真実の言葉で嘘をつく』金原ひとみ/編著 河出書房新社[河出文庫] 2025.10.02読了 金原ひとみさんが責任編集をしているのはもちろんだが、ずらりと並んだ豪華な作家の名前を見て、「これは良さそう」と手に取る。作品は時代が変われば受け…

『フィールダー』古谷田奈月|ゲームの世界と現実世界の釣り合わなさ、が良い

『フィールダー』古谷田奈月 集英社[集英社文庫] 2025.09.09読了 私自身はゲームを全くやらないから、この手の作品を熱望することはほとんどないけれど、小説の中で興味津々になることはままある。耳慣れないゲーム用語が飛び交う知らない世界なのに。おそ…

『マザーアウトロウ』金原ひとみ|人生は選択と放置

『マザーアウトロウ』金原ひとみ U-NEXT[ハンドレッド ミニッツ ノヴェラ] 2025.08.14読了 やっぱめちゃくちゃいいな、金原ひとみさんの小説は。今も張子の話すことが頭の中をグルーブしている。楽に、楽しく、ゆるく、慎ましく、ささやかな欲望だけで生き…

『夏日狂想』窪美澄|全力で生き抜いた彼女の人生に心奪われる

『夏日狂想(かじつきょうそう)』窪美澄 ★ 新潮社[新潮文庫] 2025.07.03読了 明治・大正・昭和という日本の近代化文明の発展と共に生きた野中礼子。彼女は多くの人を愛しそして愛され自分の力で物書きになった。強くしたたかに、しかし真っ直ぐな心で全力…

『狐花 葉不見冥府路行』京極夏彦|艶やかで面妖な世界へようこそ

『狐花 葉不見冥府路行(はもみずにあのよのみちゆき)』京極夏彦 KADOKAWA[角川ホラー文庫] 2025.05.31読了 昨年末に、歌舞伎好きの友人から「京極夏彦さんの本は好き?」と聞かれた。私が読書好きなのを知っているから何か本の話をするのかなと思ったら…

『YABUNONAKA-ヤブノナカ-』金原ひとみ|「そんなのおかしくない?」が埋もれてしまう

『YABUNONAKA-ヤブノナカ-』金原ひとみ ★★ 文藝春秋 2025.05.10読了 語り手が入れ替わりながら、現代社会の闇を吐き出す。最初の章は文芸編集長・木戸悠介から始まるが、もう読み始めてすぐに「これはおもろいんじゃないか」と感じたし実際に今の日本文学で…

『春のこわいもの』川上未映子|得体の知れないいや~なものが春にもあるのよ

『春のこわいもの』川上未映子 新潮社[新潮文庫] 2025.04.09読了 去年の春先に、村上春樹さんと川上未映子さんの朗読イベントに行った。敬愛するお2人に生で会えて感動したなぁ。その時川上さんが朗読してくださったのが、この短編集の最初にある『青かけ…

『夜に星を放つ』窪美澄|生きていくうえで何度も味わう喪失と再生

『夜に星を放つ』窪美澄 文藝春秋[文春文庫] 2025.03.01 読んでいる間ずっと、昔よく聞いていた(今でももちろん大好きな)斉藤和義さんの「夜に星が綺麗」がずっと頭の中でリフレインしていた。この本には5作の短編が収められているが、共通しているのは…

『熊はどこにいるの』木村紅美|不気味な世界観に埋もれる

『熊はどこにいるの』木村紅美 河出書房新社 2025.02.16読了 子どもが書いたようなタイトルの文字で一見児童文学かと思った。木村紅美さんという作家のことは知らなかったが、帯にある古川日出男さん、斎藤真理子さんのコメントに惹かれて手に取った。 ショ…

『〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓』小谷みどり|いずれ自分にもやってくる「死」について考えよう

『〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓』小谷みどり 岩波書店[岩波新書] 2025.02.15読了 昔に比べてお葬式に参列する回数は間違いなく減っていると感じる。多くの人が家族葬を選ぶからだろう。私が働いている会社でも、社員の家族関係の訃報は伏せられているこ…

『源氏物語』角田光代訳|真の主役は光る君ではなく女性たちなのです

『源氏物語』1〜8 紫式部 角田光代訳 河出書房新社[河出文庫] 2025.01.18読了 日本文学最古の長編小説『源氏物語』を角田光代さん訳で読み通した。河出書房から日本文学全集として単行本が刊行された時から読みたくてたまらなかったが、ここは文庫化を待…

『ナチュラルボーンチキン』金原ひとみ|樹のように穏やかに生きて一緒に朽ち果てる

『ナチュラルボーンチキン』金原ひとみ ★★ 河出書房新社 2024.10.23読了 なにこれ、めちゃくちゃ好き。わかりみが強すぎる。 まさかさんが優しすぎて、おいおい泣きたくなる。 主人公の文乃みたいな人、日本にはたくさんいるだろうなと思う。年齢が近いから…

『しをかくうま』九段理江|日常的な言葉遊びが物語になった

『しをかくうま』九段理江 文藝春秋 2024.04.23読了 九段理江さんの書く斬新な物語世界が好きだ。突拍子もない設定と、ユーモラスなのに冷酷とも思える言葉遊びの数々。でも、この小説は万人に受ける作品ではないと思う。競馬の実況をする男性が主人公で、何…

『ドードー鳥と孤独鳥』川端裕人|好きなことに真剣に取り組めばそれだけで楽しい

『ドードー鳥と孤独鳥』川端裕人 国書刊行会 2024.04.17読了 なんて素敵な装幀なんだろう。これこそまさにジャケ買いに近い。本の美しさを最大限表現しているし函入りというのがまた良い。国書刊行会は値段も良いけれど装幀にはかなり凝っていて、紙の本が廃…

『方舟を燃やす』角田光代|誰かの人生、こんな風に物語になる

『方舟を燃やす』角田光代 新潮社 2024.04.04読了 昭和の時代から、平成、令和へと駆け巡る。グリコ森永事件、御巣鷹山の飛行機墜落事故、テレクラの大流行、オウム真理教、色々な事件があったよな。「ノストラダムスの予言」のことは家でも学校でも話題にな…

村上春樹×川上未映子「春のみみずく朗読会」に行ってきた

先週のことになるが、3月1日(金)に、早稲田大学大隈記念講堂にて開催された「村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会」に行ってきた。おそらく、私の書に耽る関連では今年のメインイベントの一つになるであろう。 早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラ…

『東京都同情塔』九段理江|時代の先端を突き進む

『東京都同情塔』九段理江 新潮社 2024.02.11読了 なんて端切れの良いスカッとするラストなんだろう。たいてい芥川賞受賞作を読み終えたときは「ふぅん」「そうかぁ」「上手い文章で良いものを読んだとはわかるけど、イマイチ何を伝えたかったのかわからない…

『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』川本直|真実と虚構の間を彷徨い、頭がぐらぐら。それが楽しい。

『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』川本直 河出書房新社[河出文庫] 2023.11.23読了 いやはや、文庫になるの早すぎでしょ。単行本が出てから2年あまりで文庫化されている。読売文学賞を受賞しているからか。ともあれ単行本を買うかかなり悩んでいた私に…

『ルポ路上生活』國友公司|太ったホームレスがいるんです

『ルポ路上生活』國友公司 彩図社 2023.11.20読了 住む場所の近くに、散歩やジョギングが出来るような道があるかどうかは私にとって結構大きなポイントになる。できれば信号を渡る回数が少なく、なるべく見晴らしがいいコースが良い。そうでないと、家を出る…

『神よ憐れみたまえ』小池真理子|百々子の数奇な運命はいかに

『神よ憐れみたまえ』小池真理子 新潮社[新潮文庫] 2023.11.15読了 久しぶりに小池真理子さんの小説を読んだ。彼女の本は恋愛コテコテのものが多くてなんとなく遠のいていたのだけど、この本はどっぷりと物語世界に浸れるなかなか骨太の作品であった。表紙…

『鵼の碑』京極夏彦|蘊蓄たらたらがこのシリーズの醍醐味

『鵼の碑(ぬえのいしぶみ)』京極夏彦 講談社[講談社ノベルス] 2023.10.11読了 本が好きなら大抵の人が一度はハマったことがあるだろう京極夏彦さんの百鬼夜行シリーズ。中禅寺、榎津、関口、木場など懐かしの登場人物たちが勢揃い。ベストセラーを生み出…

『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』川上未映子|母娘の関係性、身体の生理現象

『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』川上未映子 筑摩書房[ちくま文庫] 2023.8.8読了 挑発的なタイトルと表紙である。この本は「詩集」とジャンル分けされている。頁をめくると確かに詩に見えるものもあるが、短編のようにも感じられる。『乳と卵』で…

『黄色い家』川上未映子|人間のなかのある部分、表現できないうやむやな感情

『黄色い家』川上未映子 ★★ 中央公論新社 2023.4.19読了 遅ればせながら、ようやく読み終えた。いつものことだけど、新刊発売日から間をあけずすぐに購入するくせに、勿体ぶっているのかなんなのか、しばらく放置する。で、ようやく周りのざわざわが一通り落…

『樋口一葉赤貧日記』伊藤氏貴|底辺の人びとを描く貧困のリアリズム

『樋口一葉赤貧日記』伊藤氏貴 中央公論新社 2023.3.16読了 先日川上未映子さんがTwitterでこの本をおすすめしていた。確か新幹線での移動中で2巡目を読んでいたと思う。川上さんは樋口一葉著『たけくらべ』の口語訳も手掛けているから思い入れも強いはずだ…

『たおやかに輪をえがいて』窪美澄|自分の人生を自信を持って生きたい

『たおやかに輪をえがいて』窪美澄 中央公論新社[中公文庫] 2023.2.6読了 自分とは立場が異なるのに、どうしてこんなにも共感できるんだろう。絵里子の行動、感情に他のなにものかが入り込む余地がない。おそらく、最初から絵里子の一挙手一投足、感情の全…

『僕は珈琲』片岡義男|私も珈琲|東京堂書店

『僕は珈琲』片岡義男 光文社 2023.2.1読了 なんて味わい深い文章を書く人なんだろう。淡々とした中にも、読み手が想像を巡らせてしまう独特の空気がある。片岡義男さんの短編を読んだある編集者から「出来事だけが物語のなかに書いてある。筆者の気持ちをい…

『fishy』金原ひとみ|お酒を飲み交わす関係はいい

『fishy』金原ひとみ 朝日新聞出版[朝日文庫] 2023.1.23読了 金原ひとみさんの作品はここ1〜2年で読むことが増えた。昔はそこまで惹かれなかったのに、40代の今読むととても突き刺さるものがある。確実に綿矢りささんの小説の方が好みだったのに、今は金原…

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒|誰かと一緒に過ごして得られるもの

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒 集英社インターナショナル 2022.12.5読了 この作品は去年の9月に刊行され、私が買った本の奥付を見ると既に9刷の版を重ねている。2022年Yahoo!ニュース|本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した、ほ…