書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『彼女がエスパーだったころ』宮内悠介|ルポタージュ風の小説集

『彼女がエスパーだったころ』宮内悠介 講談社文庫 2021.5.8読了 宮内悠介さんのことはずっと気になっていた。鬼才大才と呼ばれている。本を読んでいて、この著者は天才だなと思ったのは、最近だと小川哲さんだ。『ゲームの王国』を読んだ時は、どうしたらこ…

『クララとお日さま』カズオ・イシグロ|人の心に寄り添うこと

『クララとお日さま』カズオ・イシグロ 土屋政雄/訳 ★★★ 早川書房 2021.5.6読了 ノーベル文学賞受賞後、第1作目の長編小説である。カズオ・イシグロさんの本を単行本で購入したのは初めてかもしれない。やはり、イシグロさんはすごい。導入を少し読んだだけ…

『五匹の子豚』アガサ・クリスティー|回想殺人|絶対おすすめ

『五匹の子豚』アガサ・クリスティー 山本やよい/訳 ★ ハヤカワ文庫 2021.5.4読了 クリスティーさんの作品は、有名なものはほとんど読んでしまったからかしばらく遠のいていたのだけれど、有名でなくともおもしろい!ということを証明する作品だった。とは…

『ウィステリアと三人の女たち』川上未映子|女性の複雑な心理と闇

『ウィステリアと三人の女たち』川上未映子 新潮文庫 2021.5.2読了 大好きな川上未映子さんの文庫本新刊である。川上さんの本は毎年1冊は読んでいると思っていたのに、去年は読んでいなかったみたいだ。『夏物語』では毎日出版文化賞を受賞され、海外でも多…

『香水 ある人殺しの物語』パトリック・ジュースキント|本から立ち昇るニオイ

『香水 ある人殺しの物語』パトリック・ジュースキント 池内紀/訳 文春文庫 2021.5.1読了 去年、瑛人さんの『香水』という曲が流行した。TVで歌う姿もよく目にした。サビの部分が頭から離れず、口ずさむこともよくあった。そんな日本人は多かっただろう。 …

『破戒』島崎藤村|隠し続けるか苦悩する

『破戒』島崎藤村 新潮文庫 2021.4.29読了 先日読んだ『約束の地』のまえがきでバラク・オバマさんが述べていたように、私も巻末の注釈が大嫌いである。振ってある小さな数字も煩わしいし、後ろの頁をめくり該当の単語を探すもの煩わしい。何よりも本文から…

『生ける屍の死』山口雅也|エンバーミング|ホラーコメディ

『生ける屍の死』上下 山口雅也 光文社文庫 2021.4.26読了 この作品は、1989年に刊行された山口雅也さんのデビュー作である。同年のこのミス(宝島社 このミステリーがすごい!)第8位、2018年に30年間の作品の中から選ぶこのミスで、キングオブキングス第1…

『約束の地 大統領回顧録 Ⅰ 』バラク・オバマ|選挙戦と第1期めの任期|隠れた英雄を讃えよう

『約束の地 大統領回顧録 Ⅰ 』上下 バラク・オバマ 山田文 三宅康雄・他/訳 ★ 集英社 2021.4.24読了 発売されてすぐに購入していたのが、なんだか読むのが勿体ないような、心を落ち着けてこれに挑む準備をしてからにしよう、など思っているうちに2ヶ月くら…

『茄子の輝き』滝口悠生|記憶の回想と日々の移ろい

『茄子の輝き』滝口悠生 新潮社 2021.4.15読了 滝口悠生さんは、『死んでいない者』で2016年に第154回芥川賞を受賞された。受賞作は文庫になっているがまだ未読である。この『茄子の輝き』というタイトルに何故だか惹かれた。食材の中では主役級ではない茄子…

『奥のほそ道』リチャード・フラナガン|戦争の英雄と言われても

『奥のほそ道』リチャード・フラナガン 渡辺佐智江/訳 白水社 2021.4.13読了 私は旅行でタイに2回訪れたことがある。2回めに行った時、バンコクの郊外・カンチャナブリのオプショナルツアーに参加した。このツアーは、映画『戦場に架ける橋』の舞台となった…

『デイジー・ミラー』ヘンリー・ジェイムズ|恋愛に対するアメリカ的な価値観

『デイジー・ミラー』ヘンリー・ジェイムズ 小川高義/訳 新潮文庫 2021.4.10読了 ヘンリー・ジェイムズ氏の『デイジー・ミラー』が新潮文庫から新訳で刊行された。初めて『ねじの回転』を読んだときに、ジェイムズさんの紡ぐ物語世界に引き込まれた。ホラー…

『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ|東大生ならではの弱み

『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ 文春文庫 2021.4.8読了 このタイトルとジャケットだけ見ると、ファンタジー作品だろうかと勘違いしてしまう。単行本が刊行されたときにはあまり気にも留めていなかった。しかし読んでみると、2016年に起きた「東大生集団…

『いつか王子駅で』堀江敏幸|疾走するのに和む堀江さんマジック

『いつか王子駅で』堀江敏幸 新潮文庫 2021.4.6読了 まるで谷崎潤一郎さんの『春琴抄』のように、一文がひたすら長い。私が今まで読んだ堀江さんの2作に比べても圧倒的な長さである。それでも、独特の言い回しとリズムのある文体が心地良く、いつしか読みや…

『父を撃った12の銃弾』ハンナ・ティンティ|じっくり読みたい父子の物語

『父を撃った12の銃弾』ハンナ・ティンティ 松本剛史/訳 ★ 文藝春秋 2021.4.4読了 物語に引き込まれるシーンが、最初の章の終わりにある。12の銃弾痕が身体に残るルーの父親ホーリーは上半身裸になる。陽の光を浴びて踊る姿が、スローモーションとなり鮮や…

『ふたりぐらし』桜木紫乃|他人と生活を共にする

『ふたりぐらし』桜木紫乃 新潮文庫 2021.3.31読了 書店の文庫本新刊コーナーに並んでいるのを見てつい買ってしまった。桜木紫乃さんといえば、去年刊行された『家族じまい』がそういえば気になっていたのだった。最近は家族をテーマにした作品を書くことが…

『ならずものがやってくる』ジェニファー・イーガン|ポップな現代アメリカ文学

『ならずものがやってくる』ジェニファー・イーガン 谷崎由依/訳 ハヤカワepi文庫 2021.3.30読了 2011年のピューリッツァー賞フィクション部門受賞作である。「ならずもの」とは何なのか?全く予想がつかず、一体どんな話なんだろう?と興味津々で読み進め…

『陰翳礼讃・文章読本』谷崎潤一郎|日本の文化と日本語の美しさ|随筆を通俗語にしようよ

『陰翳礼讃・文章読本』谷崎潤一郎 新潮文庫 2021.3.28読了 谷崎潤一郎さんの『陰翳礼讃』『文章読本』という2大随筆と、他に短い作品が3つ収録された随筆集である。どの作品も素晴らしい文章で散りばめられている。日本の文化と日本語の美しさが、これまた…

『月夜のミーナ』柴田周平|無名の作家の本を読む

『月夜のミーナ』柴田周平 河出書房新社 2021.3.25読了 何かの文学賞を受賞したわけでも、候補に選ばれたわけでもない、まして初めて見る作家の作品を読んでみるのは少し勇気がいる。まぁ、失敗したら嫌だなとかその程度のことなのだが。それでも期待と不安…

『高い窓』レイモンド・チャンドラー|マーロウがいちいちカッコ良すぎる

『高い窓』レイモンド・チャンドラー 村上春樹/訳 ハヤカワ文庫 2021.3.23読了 先月読んだ『ロング・グッドバイ』が素晴らしく良かったから、余韻冷めやらぬうちに、探偵フィリップ・マーロウシリーズの3作めである『高い窓』を読んだ。今回も村上春樹さん…

『死の島』小池真理子|人間は最期どうやって死ぬのがいいのか

『死の島』小池真理子 文春文庫 2021.3.21読了 長く文芸書の編集職をしていた澤登志夫は、定年後はカルチャースクールで小説講座を務めていた。しかし末期の腎臓がんのため講座を辞することに。元々妻子もあった登志夫だが、過去に不倫関係になった女性が原…

『ロード・ジム』ジョセフ・コンラッド|マーロウの語りからジムを想像する

『ロード・ジム』ジョセフ・コンラッド 柴田元幸/訳 河出文庫 2021.3.20読了 ジムという1人の人間のことを、マーロウの視点で描いた壮大なる物語。マーロウといえば、チャンドラー作品に出てくる探偵フィリップ・マーロウが思い浮かぶけれど、ここではチャ…

『ガダラの豚』中島らも|超常現象てんこもり

『ガダラの豚』Ⅰ Ⅱ Ⅲ 中島らも 集英社文庫 2021.3.16読了 中島らもさんといえば、アル中で躁鬱家、なかなかはっちゃけた人というイメージがある。小説家、エッセイスト、放送作家である彼は『今夜、すべてのバーで』で吉川英治文学新人賞を受賞した。私は過…

『フォックス家の殺人』エラリイ・クイーン|探偵エアリイ、12年前の真実を暴けるか?

『フォックス家の殺人』エラリイ・クイーン 越前敏弥/訳 ハヤカワ文庫 2021.3.14読了 フォックス、つまりキツネである。目次に書かれた見出しを見ると、すべて「きつね」になっている。例えば「1 子ぎつねたち」「2 空飛ぶきつね」のように。この作品に登場…

『悲の器』高橋和巳|転落と自滅|第1回文藝賞受賞作

『悲の器』高橋和巳 河出文庫 2021.3.13読了 39歳で早逝された天才作家高橋和巳さんを皆さんご存知だろうか。私は今まで彼の作品を読んだことがなかった。そのことを悔やみつつも、今回読んで本当に良かった。この『悲の器』を読むと著者高橋さんのすごさが…

『生きるとか死ぬとか父親とか』ジェーン・スー|母が繋ぐ父と娘の絆

『生きるとか死ぬとか父親とか』ジェーン・スー 新潮文庫 2021.3.10読了 このジェーン・スーさんという方、私が知ったのは最近なのだが、なかなかおもしろい方のようだ。自らを「未婚のプロ」と称し、生粋の日本人なのに外国人であるかのような名前をつけて…

『レストラン「ドイツ亭」』アネッテ・ヘス|ホロスコート裁判に向き合う|国民が知るべきこと

『レストラン「ドイツ亭」』アネッテ・ヘス 森内薫/訳 ★ 河出書房新社 2021.3.8読了 少し不気味な感じだけどかわいくもある表紙のイラスト(ついでに言うとゴッホ作「夜のカフェテラス」の構図や色合いに似ている)、タイトルの朴訥で大きめの字体に妙に惹…

『野良犬の値段』百田尚樹|時代を象徴したエンタメ作品

『野良犬の値段』百田尚樹 幻冬舎 2021.3.5読了 もう小説は書かない、って百田尚樹さん言ってたのになぁ。しかもそんなに月日は経っていないのに。お馴染みの幻冬舎から出版されているから、見城さんから勧められたのかしら。いずれにせよ読者からすると、ま…

『河岸忘日抄』堀江敏幸|船での日々の営み

『河岸忘日抄(かがんぼうじつしょう)』堀江敏幸 新潮文庫 2021.3.4読了 先月読んだ堀江敏幸さんの『雪沼とその周辺』がぴたりと好みに合っていたから、2冊めを手に取る。読売文学賞を受賞された長編である。これは小説なのか随筆なのか、エッセイなのか。…

『モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集Ⅱ ミステリ編』エドガー・アラン・ポー|探偵はデュパンから生まれた

『モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集Ⅱ ミステリ編』エドガー・アラン・ポー 巽孝之/訳 新潮文庫 2021.3.2読了 ポー氏の作品はかなり昔に何作かは絶対に読んだはずなのに、覚えていなかった。読んだということ、デュパンが出てきたことは頭にあったのに、こ…

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳|在日韓国人について考える

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳(イ・ヨンドク) 河出書房新社 2021.3.1読了 なかなか衝撃的なタイトルである。竹槍で突き殺すなんて、いったいどんな戦いが始まるのかと身構えてしまうが、これは「ヘイトクライム」を扱ったディストピア小説だ。…