書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『しろがねの葉』千早茜|何を光として生きていくのか|銀世界を肌で感じ取る

『しろがねの葉』千早茜 ★★ 新潮社 2023.2.4読了 千早茜さんの小説は過去に1冊だけ読んだことがある。女性ならではの細やかな表現が際立ち、何よりもとても読みやすかった。しかし他の作品をなかなか手にする機会がなく。今回読んだのは、ずばり直木賞受賞作…

『僕は珈琲』片岡義男|私も珈琲|東京堂書店

『僕は珈琲』片岡義男 光文社 2023.2.1読了 なんて味わい深い文章を書く人なんだろう。淡々とした中にも、読み手が想像を巡らせてしまう独特の空気がある。片岡義男さんの短編を読んだある編集者から「出来事だけが物語のなかに書いてある。筆者の気持ちをい…

『眠れる美女たち』スティーヴン・キング オーウェン・キング|キング親子によるパニック小説

『眠れる美女たち』上下 スティーヴン・キング オーウェン・キング 白石朗/訳 文藝春秋[文春文庫] 2023.1.31読了 久しぶりのキング作品!本の最初にある登場人物紹介は、どんな人が出てくるのかな(名前というより関係性やら職業やらの事前知識として)と…

『この世の喜びよ』井戸川射子|存在感ある文体|芥川賞のこと

『この世の喜びよ』井戸川射子 講談社 2023.1.24読了 去年井戸川射子さんの『ここはとても速い川』を読んでその文才に圧倒され、すぐに『この世の喜びよ』を購入していた。すでに芥川賞にノミネートされており、まだ未読であるのに芥川賞を受賞しそうだなと…

『fishy』金原ひとみ|お酒を飲み交わす関係はいい

『fishy』金原ひとみ 朝日新聞出版[朝日文庫] 2023.1.23読了 金原ひとみさんの作品はここ1〜2年で読むことが増えた。昔はそこまで惹かれなかったのに、40代の今読むととても突き刺さるものがある。確実に綿矢りささんの小説の方が好みだったのに、今は金原…

『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ|性愛小説ではないのよね|再読のすすめ

『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ 若島正/訳 新潮社[新潮文庫] 2023.1.22読了 なんとなく敬遠して読んでいない人は本当に勿体無いと思う。私はこの『ロリータ』を読むのは2回めだけれど、やはり傑作だと感じた。ドロレス・ヘイズ(愛称ロリータ)をそ…

『キルケ』マデリン・ミラー|神も人間も痛みは同じ

『キルケ』マデリン・ミラー 野沢佳織/訳 作品社 2023.1.19読了 ギリシャ神話は、ところどころのエピソードは聞いたことがあるけれど、ちゃんと読んだことはない。岩波文庫から『イリアス』や『オデュッセイア』が刊行されておりいつかは読みたいとは思うの…

『春』島崎藤村|青春時代、恋愛と友情と

『春』島崎藤村 新潮社[新潮文庫] 2023.1.18読了 島崎藤村著『破戒』を読んだのはいつだったかなと振り返ると、2年近く前だった。次は大作『夜明け前』を読もうと思っていたのに、さらっと一冊で読めるかと今回は『春』を選んだ。なんせ、まだコロナ明け(…

『ジュラシック・パーク』マイクル・クライトン|なぜこんなにも恐竜に魅了されるのか|withコロナ小説 

『ジュラシック・パーク』上下 マイクル・クライトン 酒井昭伸/訳 早川書房[ハヤカワ文庫] 2023.1.17読了 同名の映画を知らない人はいないだろう。私は確か中学生の時に映画館で観て、未知なる恐竜のうごめく姿とその映像技術の高さに圧倒されて、めちゃ…

『祝宴』温又柔|ほっこりと、あったかい気持ちになれる

『祝宴』温又柔(おん・ゆうじゅう) 新潮社 2023.1.10読了 小籠包のイラストが食欲をそそる!少し前から台湾の作品が熱いような気がする。台湾人作家の本や台湾自体を紹介する本も多く、リアル書店でもたまにフェアなんかやっていたりする。台湾人である温…

『真珠湾の冬』ジェイムズ・ケストレル|読みやすい歴史ロマン大作

『真珠湾の冬』ジェイムズ・ケストレル 山中朝晶/訳 早川書房[ハヤカワポケットミステリー] 2023.1.9読了 ポケミスは手にして読んでいるだけでもやっぱりワクワクする。でも文庫に比べて高価だから、よほど好きな作家以外はチェックしていない。この作品…

『私の家』青山七恵|自分にとっての家とは

『私の家』青山七恵 集英社[集英社文庫] 2023.1.7読了 身内のお葬式の場面から物語は始まる。普通の生活をしていると滅多に会わない間柄だとしても、こういった席では顔を合わせ意識をする。血の繋がりとは結構不思議なものだ。鏑木家の三代に渡る「家」に…

『彼岸の花嫁』ヤンシィー・チュウ|霊婚、または中国社会独自の文化や習わし

『彼岸の花嫁』ヤンシィー・チュウ 圷香織/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2023.1.7読了 マレーシアにある街、マラッカが出てきた!マレーシアは7〜8年前に旅行で訪れて、都市と田舎が合体したような雰囲気と、安価で美味しい料理、多様な文化の融合、なん…

『ネイティヴ・サン アメリカの息子』リチャード・ライト|生きているという感覚、わかりあいたいという願い

『ネイティヴ・サン アメリカの息子』リチャード・ライト 上岡伸雄/訳 ★★★ 新潮社[新潮文庫] 2023.1.3読了 新年早々、とんでもない小説を読んでしまった。この作品は『アメリカの息子』というタイトルで早川文庫から刊行されていたが、絶版のため手に入れ…

2022年に読んだ本の中からおすすめ10作品を紹介する

(2022.06 村上春樹ライブラリーにて) 1年が経つのは本当に早い…。年々そう感じるのだけれど、ブログを始めてからはなおのことそう思う。毎日ではないけれど、読んだ本の感想やらあれこれを日記のように文章にして残していると、たまに振り返ったときに、こ…

『罪の壁』ウィンストン・グレアム|謎の人物を追い続ける|今年も素晴らしい読書ができますように

『罪の壁』ウィンストン・グレアム 三角和代/訳 新潮社[新潮文庫] 2022.12.30読了 新潮文庫で「海外の名作発掘シリーズ」なるものがあって、昨年12月に刊行されたのがこの作品。前に読んだポール・オースターがポール・ベンジャミン名義で刊行した『スク…

『ブラックサマーの殺人』M・W・クレイヴン|ポー、大変なことになった

『ブラックサマーの殺人』M・W・クレイヴン 東野さやか/訳 早川書房[早川文庫] 2022.12.29読了 ワシントン・ポーシリーズの第2作である。先月『ストーンサークルの殺人』を読み、とてもおもしろかったからあまり時間をかけずに続編を。イモレーション・マ…

『君のクイズ』小川哲|多くの読者を獲得しているはず

『君のクイズ』小川哲 朝日新聞出版 2022.12.26読了 メディアに取り上げられたり色々なところで紹介されているから、小川哲さん史上一番売れているのではないか。こんなに宣伝しなくても、小川さんの作品なら読むのに!って思う。『ゲームの王国』で心を鷲掴…

『ここはとても速い川』井戸川射子|文体から立ち昇るもの悲しさ

『ここはとても速い川』井戸川射子 ★ 講談社[講談社文庫] 2022.12.25読了 井戸川射子さんは、小説家というよりも詩人として紹介されることが多い。その彼女が、この作品で選考委員満場一致で第43回野間文芸新人賞を受賞したということで、単行本刊行時から…

『タール・ベイビー』トニ・モリスン|同じ人種でも価値観がこうも異なるとは

『タール・ベイビー』トニ・モリスン 藤本和子/訳 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2022.12.24読了 まるで2章分くらいカットされたものを途中から読んでいるのかと思うほど、最初の方は誰と誰の会話なのか、何をしているのか、彼らの関係性はどうなってるのか…

『天路の旅人』沢木耕太郎|未知の土地を歩くことが全てに勝る

『天路の旅人』沢木耕太郎 新潮社 2022.12.22読了 第二次世界大戦末期、敵国である中国の奥深くまで潜入した諜報員西川一三(にしかわかずみ)さんのことを書いたノンフィクション作品である。西川さんは諜報員であることを隠すため、巡礼と称して蒙古人ラマ…

『英国クリスマス幽霊譚傑作集』チャールズ・ディケンズ他 夏来健次編|クリスマスに読みたい怪談

『英国クリスマス幽霊譚傑作集』チャールズ・ディケンズ他 夏来健次編 東京創元社[創元推理文庫] 2022.12.19読了 この手の季節感がある作品(特にタイトルになっているもの)は、時期を外すと一気に読む気が失せてしまうので、クリスマス前になんとか読み…

『完全犯罪の恋』田中慎弥|文学を通した共犯関係

『完全犯罪の恋』田中慎弥 講談社[講談社文庫] 2022.12.17読了 私は田中慎弥さんの書くものが好きだが、同時に彼自身にもとても興味をそそられる。私生活はどんな風だろう、どんな人を恋愛対象にするんだろう。彼の思考と文章があれば好みの女性を一発で落…

『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』リチャード・オスマン|ダイヤモンドの行方は

『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』リチャード・オスマン 羽田詩津子/訳 ★ 早川書房[ハヤカワポケットミステリー] 2022.12.15読了 ついに木曜殺人クラブの続編が出た!シリーズ一作目がとてもおもしろかったので、楽しみにしていた。とは言っても、読んだの…

『アンネの日記 』アンネ・フランク|死んでもなお人々の心のなかに生き続ける

『アンネの日記 増補新訂版』アンネ・フランク 深町眞理子/訳 文藝春秋[文春文庫] 2022.12.13読了 先日読んだ『あとは切手を、一枚貼るだけ』という小川洋子さんと堀江敏幸さんの共著作品(2人の書簡小説)で、小川洋子さんのパートで何度も登場したのが…

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒|誰かと一緒に過ごして得られるもの

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒 集英社インターナショナル 2022.12.5読了 この作品は去年の9月に刊行され、私が買った本の奥付を見ると既に9刷の版を重ねている。2022年Yahoo!ニュース|本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した、ほ…

『銀花の蔵』遠田潤子|醬油蔵を継ぐこと、家族をたぐりよせること

『銀花の蔵』遠田潤子 新潮社[新潮文庫] 2022.12.4読了 海外小説が大好きなのに、時々疲れてしまうことがある。おそらく翻訳された文章に気疲れするのだろう。現代は優れた邦訳がとても多く、そのおかげで私たちは素晴らしい世界文学に触れることができる…

『ラブイユーズ』バルザック|散りばめられた人生の教訓と重層的な人間模様

『ラブイユーズ』オノレ・ド・バルザック 國分俊宏/訳 ★ 光文社[光文社古典新訳文庫] 2022.12.3読了 バルザック著『ゴリオ爺さん』を15年ほど前に読んだ時、実は最後まで読み通せなかった。おもしろさを感じられなかったからなのか、当時はまだ翻訳ものを…

『三十光年の星たち』宮本輝|人間としての深さ、強さ、大きさを培う

『三十光年の星たち』上下 宮本輝 新潮社[新潮文庫] 2022.11.30読了 もっと古めかしい作品なのかと思っていたが、読んでみるとそうでもなかった。毎日新聞に連載された作品で、単行本になったのは平成23年だ。確かに新聞に連載になるような品行方正さがあ…

『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』ロバート・コルカー|家族とは何か

『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』ロバート・コルカー 柴田裕之/訳 ★★ 早川書房 2022.11.27読了 こんな家族が実在したなんて信じられない。統合失調症以前に、今どき12人も子供を産む夫婦がいることにまず驚く。その子供のうち半数が統合失調症になって…