書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

外国(ラ行の作家)

『星月夜』李琴峰|漢字は読みたいように読んでもいいかも

『星月夜(ほしつきよる)』李琴峰(り・ことみ) 集英社[集英社文庫] 2024.01.30読了 日本語って本当に難しいと思う。最初に出てくる日本語の文法問題では、私たち日本人なら当たり前にわかることでも、多言語を使っている人からしたら相当難しいだろうな…

『フリアとシナリオライター』マリオ・バルガス=リョサ|大人が青春を懐かしみながら読むコメディタッチの物語

『フリアとシナリオライター』マリオ・バルガス=リョサ 野谷文昭/訳 ★ 河出書房新社[河出文庫] 2023.9.21読了 これがリョサの作品だとは思えないほどポップな青春ものだった。どうやら半自伝的小説とのことで、主人公の名もマリオ(リョサ自身)そのもの…

『マーメイド・オブ・ブラックコンチ』モニーク・ロフェイ|人魚はいずれ海に帰る?

『マーメイド・オブ・ブラックコンチ』モニーク・ロフェイ 岩瀬徳子/訳 左右社 2023.5.18読了 人魚姫というと、ディズニー映画『リトル・マーメイド』のアリエルを思い浮かべる人が多いだろう。私もそうだ。この作品に登場する遠い昔からやってきたアイカイ…

『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』H・P・ラヴクラフト|形のないもの、言葉にできない恐ろしさ

『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』H・P・ラヴクラフト 南條竹則/訳 新潮社[新潮文庫] 2023.5.12読了 「クトゥルー神話」「ラヴクラフト」の単語はたまに目にするから、前から気になっていた。私はゲームをしないからわからないけどゲーム内にも結…

『ネイティヴ・サン アメリカの息子』リチャード・ライト|生きているという感覚、わかりあいたいという願い

『ネイティヴ・サン アメリカの息子』リチャード・ライト 上岡伸雄/訳 ★★★ 新潮社[新潮文庫] 2023.1.3読了 新年早々、とんでもない小説を読んでしまった。この作品は『アメリカの息子』というタイトルで早川文庫から刊行されていたが、絶版のため手に入れ…

『マーダー・ミステリ・ブッククラブ』C・A・ラーマー|クリスティ愛に溢れたライトなコージーもの

『マーダー・ミステリ・ブッククラブ』C・A・ラーマー 高橋恭美子/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2022.11.23読了 このタイトルと帯の文句を見ただけでワクワク感が止まらない。ミステリ好きかつクリスティ好きなんて!私は読書会というものに参加したこと…

『独り舞』李琴峰|台湾人から日本語を教わる

『独り舞』李琴峰 光文社[光文社文庫] 2022.9.16読了 以前読んだ李琴峰さんの『ポラリスが降り注ぐ夜』がとても良かったので、デビュー作で群像新人文学賞を受賞されているこの作品を読んだ。テーマは『ポラリス〜』と似ており、性的マイノリティに悩む若…

『ポラリスが降り注ぐ夜』李琴峰|台湾の方が美しい日本語で小説を書く

『ポラリスが降り注ぐ夜』李琴峰(り・ことみ) 筑摩書房[ちくま文庫] 2022.6.25読了 台湾出身の李琴峰さんは、昨年『彼岸花が咲く島』で芥川賞を受賞された。同時受賞の石沢麻依子さんの『貝に続く場所にて』がとても良かったから李さんの作品を読むこと…

『ピクニック・アット・ハンギングロック』ジョーン・リンジー|絶えずぞくぞく、ざわざわ

『ピクニック・アット・ハンギングロック』ジョーン・リンジー 井上里/訳 創元推理文庫 2021.12.7読了 終始不穏な空気をまとっている作品だった。この先何が起こるのかわからないぞくぞくした緊迫感で、小説としてとてもおもしろく読めた。いわゆるミステリ…

『都会と犬ども』マリオ・バルガス=リョサ|塀のなかでの人間関係

『都会と犬ども』マリオ・バルガス=リョサ 杉山晃/訳 新潮社 2021.11.15読了 ペルー・リマにある軍人士官学校を舞台とした、寄宿舎に住む10代の少年たちの群像劇である。これがリョサさん初の長編小説で、しかも20代に書かれたものであることが信じがたい。…

『ソラリス』スタニスワフ・レム|3つの問題意識を読み解けるか

『ソラリス』スタニスワフ・レム 沼野充義/訳 ハヤカワ文庫 2021.10.6読了 今年はポーランドの作家スタニスワフ・レムの生誕100年になるという。先月、国書刊行会から『インヴィンシブル 』が新訳で単行本として刊行され、かなり売れているというから、日本…

『ドルジェル伯の舞踏会』ラディゲ|読み終えて余韻をしみじみと

『ドルジェル伯の舞踏会』レーモン・ラディゲ 渋谷豊/訳 光文社古典新訳文庫 2021.8.2読了 人はどんなふうにして自分が誰かを愛していると気付くのだろう。フランソワの内に愛が宿った瞬間の描写を読んだときにふと思った。そしてドルジェル伯夫人・マオの…

『悪い娘の悪戯』マリオ・バルガス=リョサ|濃いハチミツ色の瞳に翻弄される

『悪い娘(こ)の悪戯』マリオ・バルガス=リョサ 八重樫克彦・八重樫由貴子/訳 ★★ 作品社 2021.7.21読了 ペルー人のリカルドは、一生をかけて1人の女性を愛した。たとえ彼女が魔性の女だとしても。こんなに翻弄されなくても!言いなりにならなくても!また…

『奥のほそ道』リチャード・フラナガン|戦争の英雄と言われても

『奥のほそ道』リチャード・フラナガン 渡辺佐智江/訳 白水社 2021.4.13読了 私は旅行でタイに2回訪れたことがある。2回めに行った時、バンコクの郊外・カンチャナブリのオプショナルツアーに参加した。このツアーは、映画『戦場に架ける橋』の舞台となった…

『高い窓』レイモンド・チャンドラー|マーロウがいちいちカッコ良すぎる

『高い窓』レイモンド・チャンドラー 村上春樹/訳 ハヤカワ文庫 2021.3.23読了 先月読んだ『ロング・グッドバイ』が素晴らしく良かったから、余韻冷めやらぬうちに、探偵フィリップ・マーロウシリーズの3作めである『高い窓』を読んだ。今回も村上春樹さん…

『ロング・グッドバイ』レイモンド・チャンドラー|孤高の私立探偵マーロウ|ハードボイルドであり文学的傑作

『ロング・グッドバイ』レイモンド・チャンドラー 村上春樹/訳 ★ ハヤカワ文庫 2021.2.26読了 これは素晴らしい。とんでもない名作だ。最初の数頁を読んだだけで文体に引き込まれる。探偵が登場するハードボイルド小説、という枠組みを超えて、世界で最も秀…

『夏への扉』ロバート・A・ハインライン/冷凍睡眠で生き長らえる未来

『夏への扉』ロバート・A・ハインライン 福島正実/訳 ハヤカワ文庫 2020.9.23読了 SF古典小説の名作としてよく取り上げられているため、この作品の存在は知っていたがまだ未読だった。なんでも、日本で山崎賢人さん主演でもうすぐ映画が公開されるようで、…

『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン/不思議な図書館とそこで始まった愛

『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン 青木日出夫/訳 ハヤカワepi文庫 2020.4.11読了 村上春樹さんが多大なる影響を受けたというリチャード・ブローティガン氏。私は彼の本をまだ読んだことがなかったのだが、1番読みやすそうな本作をまずは選んでみた…

『三体』 劉 慈欣 / 中国北京発 いま一番売れているSF小説らしい

『三体』 劉 慈欣(りゅう・じきん) 大森望、光吉さくら、ワン・チャイ / 訳 早川書房 2019.8.17読了 今どこの書店に行っても、必ず積み上げられているであろう単行本。SF小説はそんなに好きなわけでもないのだが、あまりにも話題になっているため気になって…