書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(さ行の作家)-柴田元幸

『ガリバー旅行記』ジョナサン・スウィフト|旅行記・冒険譚と名のつくもので間違いなく一番おもしろい

『ガリバー旅行記』ジョナサン・スウィフト 柴田元幸/訳 ★★ 朝日新聞出版 2023.12.27読了 小さい頃に『ガリバー旅行記』を読んだ記憶はある。とはいえ、大男が地面に横たわり、その周りを多くの小人たちがぞろぞろ歩いてるような挿絵を覚えているだけと言っ…

『柴田元幸翻訳叢書 ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース』|怪奇小説よりの粒揃いの名作短編

『柴田元幸翻訳叢書 ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース』柴田元幸/編訳 スイッチ・パブリッシング 2023.10.14読了 愛でたくなるような美しい本だ。柴田元幸さんが厳選し自ら訳した英文学の短編傑作が12作収められている。この叢書シリーズには、…

『写字室の旅/闇の中の男』ポール・オースター|記憶の中を彷徨いながら未来を予測する

『写字室の旅/闇の中の男』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮社[新潮文庫] 2022.10.22読了 オースターさんがポール・ベンジャミン名義で刊行したハードボイルド作品『スクイズ・プレー』と同時に新潮文庫で刊行されたのがこの本である。2作の中編が収…

『舞踏会へ向かう三人の農夫』リチャード・パワーズ|1枚の写真から

『舞踏会へ向かう三人の農夫』上下 リチャード・パワーズ 柴田元幸/訳 河出文庫 2021.6.28読了 2年くらい前だろうか、リチャード・パワーズさんの『オーバーストーリー』という装丁の素晴らしい単行本が書店にずらっと並んでいて、手にとったものの値段もま…

『ロード・ジム』ジョセフ・コンラッド|マーロウの語りからジムを想像する

『ロード・ジム』ジョセフ・コンラッド 柴田元幸/訳 河出文庫 2021.3.20読了 ジムという1人の人間のことを、マーロウの視点で描いた壮大なる物語。マーロウといえば、チャンドラー作品に出てくる探偵フィリップ・マーロウが思い浮かぶけれど、ここではチャ…

『ナイン・ストーリーズ』サリンジャー/読みたくなる類いの爽快な作品たち

『ナイン・ストーリーズ』J.D.サリンジャー 柴田元幸/訳 ヴィレッジブックス 2021.1.14読了 サリンジャーさんの作品は、どこか爽快なイメージがある。例えその小説が悲劇だとしても。読んだ作品の数はそう多くないのに、ふと思い出した時に読みたくなる類…

『エドウィン・マルハウス』スティーヴン・ミルハウザー/子供による子供の伝記

『エドウィン・マルハウス』スティーヴン・ミルハウザー 岸本佐知子/訳 河出文庫 2020.8.4読了 柴田元幸さんはおそらく文学界の中では一番有名な翻訳家であり、イコールポール・オースターさんの作品、というイメージの方も多いだろう。他に、柴田さんが影…

『ブルックリン・フォリーズ』ポール・オースター/希望を失わずに生きる

『ブルックリン・フォリーズ』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★ 新潮文庫 2020.7.25読了 文庫になるのを楽しみにしていたのだけれど、表紙を見て単行本と印象が違い少し戸惑ってしまった。単行本のジャケットは線画で描かれていて、、何というかもっとお洒…

『MONKEY vol.20』柴田元幸責任編集/センスの良さが光る文芸誌

『MONKEY vol.20』柴田元幸責任編集 スイッチ・パブリッシング 2020.6.23読了 雑誌である。タイトルがMONKEYだが、別に猿に特化した読み物というわけではなく、柴田元幸さんが責任編集を務める文芸誌だ。「いい文学とは何か、人の心に残る言葉とは何か、その…

『サンセット・パーク』ポール・オースター/過去に決着をつけていく群像劇

『サンセット・パーク』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮社 2020.6.11読了 ニューヨーク・ブルックリンにあるサンセット・パーク(実在する地名らしい)のある廃屋に、4人の男女が不法滞在する。今までのオースターさんの小説と何か違うなと思っていた…

『ガラスの街』ポール・オースター/ニューヨークをあてどもなく歩く

『ガラスの街』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮文庫 2020.5.3読了 オースターさんのニューヨーク3部作のうち第1作目がこの『ガラスの街』である。主人公クインの家に、深夜に電話がかかってくる。「ポール・オースターさんですね?」クインはポールに…

『幻影の書』ポール・オースター/小説の中で映画を観るような

『幻影の書』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮文庫 2020.3.19読了 やはりオースターさんはいいなぁ。どこに連れて行ってくれるかわからないストーリーと洗練された文体(これは柴田氏の力によるところも大きいが)、流れる時間が読書の楽しさを充分に味…

『雲』エリック・マコーマック/全ては神秘に包まれている

『雲』エリック・マコーマック 柴田元幸/訳 ★★ 東京創元社 2020.3.8読了 ひときわ目を惹く素敵な装幀である。いつも本には書店の紙のカバーをかけてもらい持ち歩いているのだけれど、素敵な表紙がカバーの中に包まれていると思うだけでもなんだかウキウキす…

『孤独の発明』ポール・オースター/孤独でないと物語は書けない

『孤独の発明』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮文庫 2020.1.6読了 年末に読んだ『ムーン・パレス』に次いで、オースター2作目である。本作品は、作家として名を馳せる前に書かれたもののようで、初期の作品と言える。この物語は大きく2部構成になって…

『ムーン・パレス』ポール・オースター/何度も読み返したい本

『ムーン・パレス』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★★ 新潮文庫 2019.12.26読了 なんて心地良いんだろう。読んでいる時間が愛おしくなる。ポール・オースターの名前はもちろん知っていたが、実はまだ読んだことがなかった。もっと早く読めばよかった!こう…