自ら死を選んだ人が書いた小説に対して、独特の緊張感を持って読み始めるのは私だけだろうか。昔は自死する作家が多かった。かつての文豪たちは、死ぬ方法は違えど、自死をすることが誉れと信じて、そうするのがさも綺麗な終わり方だと思い旅立った。今はそういう風潮はほとんどない。
佐藤泰志さんは41歳という若さで自ら死を選んだ。彼の作品は芥川賞候補に何度も選ばれている。何が彼を死に向かわせたのか。Wikipediaで彼の名前を検索したが自死の理由はわからない。たとえ記載があったとしても、本当のことは本人にしかわからないだろうけれど。この小説は佐藤さん唯一の長編小説で代表作である。
一文一文がとても短く言葉も易しい。それなのに、文体から立ち昇るものは熱量を帯びている。文章が似ているわけではないのに、中上健次さんの小説から受けるエネルギーに近い。無性に男臭くて獣じみていて、土の匂いや人間臭さがある。そして近親相姦的なもの。もう数頁読んで嗅ぎ取ったのだが、解説にも中上健次作品との関連性に触れられていて「やっぱり」となった。
登場する男たちがみな魅力的だ。主人公達夫、少年のような拓児はもちろんのこと、拓児とサウナで知り合った松本もまた陰がありながらも色気を感じる。ストーリとしてはそんなに特異なものはないが、不思議と真に迫るものがあって魔力が潜んでいるようだ。読んだことを忘れられない作品になることは間違いない。
佐藤さんの作品は刊行当時よりもむしろここ数年で評価され映画化されるものが多い。この『そこのみにて光輝く』は綾野剛さん、池脇千鶴さん主演で結構話題になったようだ。映画も気になるし他も作品も読んでみたい。