書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

外国(マ行の作家)

『ミステリウム』エリック・マコーマック|この幻想的、怪奇的、魅惑的な雰囲気を味わうべし

『ミステリウム』エリック・マコーマック 増田まもる/訳 東京創元社[創元ライブラリ] 2024.01.21読了 こういう幻想的かつ怪奇的、そして魅惑的な世界観ってどうやったら書けるのだろう。イギリスを筆頭にして幻想文学というジャンルがあるけれど、彼もス…

『コスモポリタンズ』サマセット・モーム|毎日寝る前に1作づつ読みたい

『コスモポリタンズ』サマセット・モーム 龍口直太郎/訳 筑摩書房[ちくま文庫] 2023.10.29読了 アメリカの月刊雑誌『コスモポリタン』に1924年から1929年にかけて掲載された短編をまとめたものである。序文のなかでモームは「ただこれらの物語を面白いと…

『レイチェル』ダフネ・デュ・モーリア|愛する相手への疑惑を抱え続ける

『レイチェル』ダフネ・デュ・モーリア 務台夏子/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2023.8.7読了 大好物の19世紀のイギリスを舞台としたゴシックロマンスミステリーである。刊行当時も絶大なる人気を誇ったダフネ・デュ・モーリア。私は過去に『レベッカ』を…

『同調者』アルベルト・モラヴィア|正常さを追い求めたその先には

『同調者』アルベルト・モラヴィア 関口英子/訳 ★★ 光文社[光文社古典新訳文庫] 2023.5.22読了 世の中には、生き物を虐めたり、人を痛めつけ殺すことに快感を持つ人が少なからず存在する。犯罪者の告白や犯罪学の本などを読むと、そういった性癖が実際に…

『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』コーマック・マッカーシー|世界は残酷で、無慈悲で、報われない

『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』コーマック・マッカーシー 黒川敏行/訳 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2023.4.17読了 いやはや、とても苦しい読書だった。逃げ続けて、撃たれて、撃って、多くの人が血を流し、死に絶えて、もう絶望しかないん…

『ミダック横町』ナギーブ・マフフーズ|一人一人に起きる出来事の集まりが地域の息吹となる

『ミダック横町』ナギーブ・マフフーズ 香戸精一/訳 作品社 2023.3.2読了 ピラミッドや古代エジプトをテーマにしたミステリ小説は見かけるが、エジプト人作家が書いた本なんて読んだことあるだろうか。書店の新刊コーナーにあったこの本の帯に「カイロの下…

『キルケ』マデリン・ミラー|神も人間も痛みは同じ

『キルケ』マデリン・ミラー 野沢佳織/訳 作品社 2023.1.19読了 ギリシャ神話は、ところどころのエピソードは聞いたことがあるけれど、ちゃんと読んだことはない。岩波文庫から『イリアス』や『オデュッセイア』が刊行されておりいつかは読みたいとは思うの…

『タール・ベイビー』トニ・モリスン|同じ人種でも価値観がこうも異なるとは

『タール・ベイビー』トニ・モリスン 藤本和子/訳 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2022.12.24読了 まるで2章分くらいカットされたものを途中から読んでいるのかと思うほど、最初の方は誰と誰の会話なのか、何をしているのか、彼らの関係性はどうなってるのか…

『人間のしがらみ』サマセット・モーム|幸せは苦しみと同様に意味がないもの

『人間のしがらみ』上下 サマセット・モーム 河合祥一郎/訳 ★★ 光文社[光文社古典新訳文庫] 2022.11.18読了 まさか年に2回も同じ小説を読むとは!どれだけこの作品が好きなんだろう。『人間の絆』という邦題で広く知られる名作であるが、今回訳者の河合祥…

『ジゴロとジゴレット モーム傑作選』サマセット・モーム|極上の短編集ここにあり

『ジゴロとジゴレット モーム傑作選』サマセット・モーム 金原瑞人/訳 新潮社[新潮文庫] 2022.4.21読了 イギリスの文豪モームさんの小説はどれもおもしろく、なかでも名作『月と六ペンス』『人間の絆』は私にとって大切な作品である。実はまだ短編を読ん…

『片隅の人生』サマセット・モーム|人生も船旅のように

『片隅の人生』サマセット・モーム 天野隆司/訳 ちくま文庫 2022.2.1読了 モームさんの作品の中ではあまりメジャーではない『片隅の人生』を読んだ。中国福州で医師を務めるサンダースは、ある患者の白内障手術をするためにマレー諸島南端に長期出張をする…

『人間の絆』サマセット・モーム|自分を意識し、人生をどう生きるか

『人間の絆』上下 サマセット・モーム 金原瑞人/訳 ★★ 新潮文庫 2022.1.19読了 フィリップは知らないうちに、世界で最高の楽しみ、本の楽しみを知ってしまった。(上巻64頁) 叔父の書斎で一人本を探していくうちに魅力的な本に出逢い、最高の楽しみを見出…

『お菓子とビール』モーム|人生を楽しくするもの

『お菓子とビール』サマセット・モーム 行方昭夫/訳 ★ 岩波文庫 2021.7.11読了 モーム氏の小説は『月と六ペンス』『人間の絆』を過去に読んでいる。それらに並ぶ代表作がこの『お菓子とビール』だ。なんでも本人が1番好きな作品として挙げているため、以前…

『パチンコ』ミン・ジン・リー/誰もが産まれる国を選べない

『パチンコ』上下 ミン・ジン・リー 池田真紀子/訳 ★★ 文藝春秋 2020.10.30読了 まるでペルシャ絨毯を思わせるような装幀、色使いは花札のようだ。書店で見かけた時に表紙に一目惚れしたのだが、よく見ると全米図書賞最終候補、オバマ前大統領推薦とある。…

『赤毛のアン』モンゴメリ/「想像の余地」を活かそう

『赤毛のアン』L・M・モンゴメリ 松本侑子/訳 文春文庫 2020.10.12読了 これもまた、遥か昔小学生の時に読んだ本だ。アニメでも観たような。少女の成長物語だったと覚えているけど、中身はすっかり忘れている。いまNHKで「アンという名の少女」という『赤毛…

『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』ミシェル・クオ/誰かと一緒に本を読む

『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』ミシェル・クオ 神田由布子/訳 白水社 2020.8.20読了 私は読書が大好きでもはや日常の一部となっているが、いわゆる「読書会」というものに参加したことはない。読書は自分が好きな時に、好きな本…

『極北』マーセル・セロー/生まれた世界に生きるしかない

『極北』マーセル・セロー 村上春樹/訳 中公文庫 2020.2.19読了 先日書店で目に留まった一冊。なんだか最近、寒い感じの本を選んでしまう。冬だからかなぁ。でも寒さを感じる本の中に熱いエネルギーを感じられる、そんな作品は素敵だ。 不思議な作品である…

『マイ・ストーリー』ミシェル・オバマ/自分のことを知り、語り、相手を受け入れれば道は開ける

『マイ・ストーリー』 ミシェル・オバマ 長尾莉紗・柴田さとみ/訳 ★★★ 集英社 2020.1.18読了 世界45言語で翻訳され、1千万部突破のベストセラー。前アメリカ合衆国大統領、バラク・オバマ氏の妻、ミシェル・オバマさんの自伝である。現在のトランプ大統領の…

『服従』ミシェル・ウエルベック/政治への服従、男女間の服従

『服従』ミシェル・ウエルベック 大塚桃/訳 河出文庫 2019.11.28読了 先日読んだ『プラットフォーム』に次いで、ウエルベックは2冊目である。1冊読んで、なんとなく読んでいて私にはしっくりくる空気感だった。いつも言っている、読み心地のこと。 2022年の…

『プラットフォーム』ミシェル・ウエルベック / 虚無を抱えて生きる

『プラットフォーム』ミシェル・ウエルベック 中村佳子/訳 河出文庫 2019.11.9読了 書店でミシェル・ウエルベック氏の本をたまに見かけるが、こんなに有名な人だったのか。そして、なかなか面白い本を書く人だな、さすが現代ヨーロッパを代表する作家だと感…

『昏き目の暗殺者』マーガレット・アトウッド / 皮肉たっぷりの老女アイリスの回想記

『昏き目の暗殺者』上・下 マーガレット・アトウッド 鴻巣友季子/訳 ハヤカワepi文庫 2019.10.26読了 10月10日に、今年のノーベル文学賞が発表された。去年の分と合わせて2名、ポーランドの女性作家オルガ・トカルチュク氏と、オーストリアの男性作家ピータ…