書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

◇ノンフィクション・ドキュメンタリー

『冬の日誌/内面からの報告書』ポール・オースター|若かりし日から思慮深かった彼は、最初から言語の世界にいた

『冬の日誌/内面からの報告書』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★ 新潮社[新潮文庫] 2024.01.15読了 もともと単行本は1冊づつ刊行されていたが、文庫化に伴い1冊に収められた。ノンフィクションだけど私小説やエッセイとも取れる。自身の身体のことを書…

『関東大震災』吉村昭|天災には怒りや恨みをぶつける相手がいない

『関東大震災』吉村昭 文藝春秋[文春文庫] 2023.12.17読了 今年は関東大震災から100年が経ったということで、装い新たに(というか文庫カバーの上にぐるりと更なるカバーがかけられている)書店に並べられていた。天災は人間の力で防ぎようがない。それで…

『ルポ路上生活』國友公司|太ったホームレスがいるんです

『ルポ路上生活』國友公司 彩図社 2023.11.20読了 住む場所の近くに、散歩やジョギングが出来るような道があるかどうかは私にとって結構大きなポイントになる。できれば信号を渡る回数が少なく、なるべく見晴らしがいいコースが良い。そうでないと、家を出る…

『高熱隧道』吉村昭|自然の脅威、人間との確執

『高熱隧道』吉村昭 新潮社[新潮文庫] 2023.8.27読了 数年前に黒部・立山アルペンルートを含めて富山を旅行した。黒部ダムの勢いよく放出される水に圧倒された。なかでも、立山の景色の素晴らしさが本当に忘れがたく、なんなら日本で観光した景色で一番と…

『くもをさがす』西加奈子|大切なのは自分の身体と心を愛おしく思うこと

『くもをさがす』西加奈子 河出書房新社 2023.6.26読了 『夜が明ける』が刊行された少しあと(私自身も読み終えたあと)に、NHKの「ニュースウォッチナイン」で西さんがインタビューを受けているのを観た。顔がちっちゃくてキュートで、なによりも芯が強いと…

『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』小野一光|想像を絶する凄惨な虐待

『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』小野一光 ★ 文藝春秋 2023.4.2読了 この事件は記憶に残っている人が多いだろう。17歳の少女を監禁・傷害したとして中年男女が逮捕されたことから端を発して暴かれた連続殺人事件だ。しかし、あまりにも残忍だっ…

『天路の旅人』沢木耕太郎|未知の土地を歩くことが全てに勝る

『天路の旅人』沢木耕太郎 新潮社 2022.12.22読了 第二次世界大戦末期、敵国である中国の奥深くまで潜入した諜報員西川一三(にしかわかずみ)さんのことを書いたノンフィクション作品である。西川さんは諜報員であることを隠すため、巡礼と称して蒙古人ラマ…

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒|誰かと一緒に過ごして得られるもの

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒 集英社インターナショナル 2022.12.5読了 この作品は去年の9月に刊行され、私が買った本の奥付を見ると既に9刷の版を重ねている。2022年Yahoo!ニュース|本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した、ほ…

『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』ロバート・コルカー|家族とは何か

『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』ロバート・コルカー 柴田裕之/訳 ★★ 早川書房 2022.11.27読了 こんな家族が実在したなんて信じられない。統合失調症以前に、今どき12人も子供を産む夫婦がいることにまず驚く。その子供のうち半数が統合失調症になって…

『みんなが手話で話した島』ノーラ・エレン・グロース|ある共同体に生まれた文化を紐解く

『みんなが手話で話した島』ノーラ・エレン・グロース 佐野正信/訳 早川書房[ハヤカワ・ノンフィクション文庫] 2022.11.19読了 コミュニケーション手段のメインが「言葉を発する会話」によるものだという概念を覆す作品だった。アメリカ東海岸・マサチュ…

『教誨師』堀川惠子|人間はみな弱い生き物である

『教誨師(きょうかいし)』堀川惠子 ★ 講談社[講談社文庫] 2022.10.24読了 以前から書店で目にして気になっていた本である。教誨師とは「処刑される運命を背負った死刑囚と対話を重ね、最後はその死刑執行の現場に立ち会うという役回りであり、報酬もない…

『ザ・クイーン エリザベス女王とイギリスが歩んだ100年』マシュー・デニソン|特別な能力のおかげで長く君臨できた

『ザ・クイーン エリザベス女王とイギリスが歩んだ100年』マシュー・デニソン 実川元子/訳 カンゼン 2022.10.13読了 エリザベス女王のノンフィクションで、在位70周年間近の2021年に英国で刊行された本である。日本で邦訳が出版されたのは今年の6月だ。…

『天才』石原慎太郎|鋭い先見の明で日本を立て直す|そして、絶筆

『天才』石原慎太郎 幻冬社[幻冬舎文庫] 2022.5.22読了 大物になる人物は得てしてそうであるが、子供の頃の角栄さんも飛び抜けて頭が良く、小さいうちから物事の道理をわきまえ、根回しといったものを自然と覚え骨肉としていった。 何がすごいって、角栄さ…

『食べて、祈って、恋をして』エリザベス・ギルバート|自分を見つめ直し精神のバランスを取る

『食べて、祈って、恋をして』エリザベス・ギルバート 那波かおり/訳 早川書房[ハヤカワノンフィクション文庫] 2022.5.15読了 ジュリア・ロバーツ主演の同名映画がとても良かったと最近私の耳に入った。映画自体は2010年に放映された。その原作がこの本で…

『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』鈴木忠平|他の人には見えないものを見ている

『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』鈴木忠平 ★ 文藝春秋 2022.1.27読了 もうすぐプロ野球シーズンが始まる。私も某球団のファンで、年に何度も球場に足を運ぶ。チームの勝利、活躍した選手や思い入れのある選手のプレーや行動に一喜一憂する。…

『からゆきさん 異国に売られた少女たち』森崎和江|こんなことが150年前の日本であった

『からゆきさん 異国に売られた少女たち』森崎和江 朝日文庫 2021.11.27読了 何年も前に新聞の書評にこの本が載っていた。気になってすぐに購入していたのだが長く家に眠っていた。このタイミングで読んだのは、つい先日岩波文庫から、『まっくら』という同…

『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』渡辺一史|わがままも自己主張のうち

『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』渡辺一史 文春文庫 2021.7.17読了 この本の存在を知っている方は多いだろう。ドラマ化・映画化もされたので映像として観た方もいるだろう。2003年に刊行されたこの作品は反響を呼びノンフィ…

『謎の独立国家ソマリランド』高野秀行|知らない世界を知る楽しさ

『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』高野秀行 集英社文庫 2021.5.26読了 ずっと前から高野秀行さんの本を読んでみたくてようやく手にしたのがこの本。書店には数多くの文庫本が並んでいた。1番分厚くて躊躇したけれ…

『約束の地 大統領回顧録 Ⅰ 』バラク・オバマ|選挙戦と第1期めの任期|隠れた英雄を讃えよう

『約束の地 大統領回顧録 Ⅰ 』上下 バラク・オバマ 山田文 三宅康雄・他/訳 ★ 集英社 2021.4.24読了 発売されてすぐに購入していたのが、なんだか読むのが勿体ないような、心を落ち着けてこれに挑む準備をしてからにしよう、など思っているうちに2ヶ月くら…

『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東浩紀|失敗力をいかす

『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東浩紀 中公新書 2021.2.13読了 多くの方がこの本を紹介され、かつ絶賛されているため、私も気になり読んでみた。「ゲンロン」という思想誌や「ゲンロンカフェ」という企画が存在することは知っていたが何をやっている…

『アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』シェーン・バウアー|民間刑務所の驚くべき実態

『アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』シェーン・バウアー 満園真木/訳 東京創元社 2021.2.4読了 アメリカの人口は世界の5%であるのに、囚人数はなんと世界の25%を占めている。序章で語られたこの数字を見て驚く。確かに銃社会…

『シーラという子 虐待されたある少女の物語』トリイ・ヘイデン|人が人に与えられる素晴らしいものを胸に

『シーラという子 虐待されたある少女の物語』トリイ・ヘイデン 入江真佐子/訳 ★★ ハヤカワ文庫 2021.1.31読了 新版ということで書店に並んでいたが、過去にベストセラーになったノンフィクションだ。ネットで調べてみると、昔刊行された本のジャケットは確…

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』河野啓/ひとりの人間としての栗城劇場

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』河野啓 集英社 2021.1.20読了 約3年前に、ある日本人登山家がエベレストで亡くなった。そのニュースはよく憶えている。なぜなら、その登山家は指を9本失くしていたから。登山中に亡くなったことよりも、指を9本切…

『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』タラ・ウェストーバー/ウェストーバー家の大きな愛を感じた

『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』タラ・ウェストーバー 村井理子/訳 ★★ 早川書房 2020.12.4読了 タラさんが偉大な小説家で、読ませる作品を次々と生み出す希代のストーリーテラーなのではと勘違いしてしまうほど、おもしろい作品だった。フィク…

『ママ、最後の抱擁 わたしたちに動物の情動がわかるのか』フランス・ドゥ・ヴァール/地球規模で考えよう

『ママ、最後の抱擁 わたしたちに動物の情動がわかるのか』フランス・ドゥ・ヴァール 柴田裕之/訳 紀伊国屋書店 2020.11.25読了 情動は感情とは別物であると著者は言う。「感情」は内面の主観的状態であり、自分の感情については言葉で伝え合う。一方、「情…

『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル/極限状態から見えてくるもの

『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル 池田香代子/訳 みすず書房 2020.9.19読了 アウシュヴィッツ強制収容所。その名を聞くだけで恐ろしく震えそうな気持ちになる。ナチスが捕虜になった人を大量虐殺したと言われている場所だ。この強制収容所から奇跡的…

『森の生活 ウォールデン』H.D.ソロー/自然界で生きよ

『森の生活(ウォールデン)』上下 H.D.ソロー 飯田実/訳 岩波文庫 2020.9.11読了 ウォールデンとはアメリカ・マサチューセッツ州にある湖のことである。この作品は、約170年前にヘンリー・デイヴィッド・ソローさんが2年2ヶ月に渡りウォールデン湖畔で自給…

『日本の血脈』石井妙子/女性は強し

『日本の血脈』石井妙子 文春文庫 2020.9.8読了 石井妙子さんといえば、現東京都知事小池百合子さんを描いた『女帝 小池百合子』がベストセラーになった。それも、ちょうど都知事選のさなかだったからなおのこと話題となった。本作はその石井妙子さんが過去…

『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』ミシェル・クオ/誰かと一緒に本を読む

『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』ミシェル・クオ 神田由布子/訳 白水社 2020.8.20読了 私は読書が大好きでもはや日常の一部となっているが、いわゆる「読書会」というものに参加したことはない。読書は自分が好きな時に、好きな本…

『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』ジェレミー・マーサー/本に囲まれて暮らす

『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』ジェレミー・マーサー 市川恵理/訳 河出文庫 2020.7.29読了 フランス・パリにある「シェイクスピア&カンパニー書店」は本好きな人の聖地である。名だたる作家たちが集い、生活してきた場所だ。とは言っても私…