書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『TIMELESS』朝吹真理子|たいせつになったなりゆき

f:id:honzaru:20240411152421j:image

『TIMELES』朝吹真理子

新潮社[新潮文庫] 2024.04.15読了

 

吹真理子さんの芥川賞受賞作『きことわ』を実はまだ読んでいない。芥川賞作品は思いたったら速攻読まないと結構忘れてしまうことが多い。確か親族だったと思うけど朝吹さんという方の翻訳された作品を目にしたことがある。Wikipediaを見たら、親族欄に多くの名前が載っているのに驚いた。文化人家系。

 

みとアミは女性同士だと勝手に想像していた。なんでだろう、『きことわ』が「きこ」と「とわこ」の女性2人のストーリーだからだろうか。そしてなんと「うみ」が女性で「アミ」が男性だった。2人は、恋愛をすっ飛ばして結婚をする。結婚の意味、人を好きになること、大切にするという意味を考えさせられた。

 

オダイショウが家のそばに現れるって、どんな田舎なんだろうかと思う。しかしこれは東京の中心、渋谷区代官山のことなんだ。本当に蛇が出たのか?夢の中か想像の世界のことが書かれていたり、そういう説明はないのだけどたぶんそうだろうと思える場面がいくつかある。

 

の小説は2部構成で、1部はうみの視点、2部では急に未来になり2人の子どもの「アオ」の時点で語られる。2035年の近未来のことが書かれているのにそんな気がしないのは、スマホやらSNSやらAIやら近代さを象徴するアイテムが一切登場しないからだろうか。

 

 

い文章の連続から一瞬一瞬の出来事や想いが細かく正確に表されている。そんな文体の中に突然過去の情景が舞い込んでくる印象だ。だからいつのことなのかぐちゃっとなってしまうが、数行進むと理解できる。この、時の空中分解が『TIMELESS』なんだろう。であれば、朝吹さんの他の小説はまた文体が異なるのかしら。

 

みとアオの関係性はもしかしたらこの先のスタンダードとは言えないまでも、これがあり得るべき夫婦関係の選択肢になるかもしれない。とてつもなく美しくて優しくて、けれどよそよそしい関係。ぜんぶがなりゆきでこうなったけれど「たいせつになったなりゆき」という言葉がとてもしっくりきた。

 

國香織さんが文庫本の解説を書いているのだけど、そういえば2人の文体は少し似ている気がする。回想の回想という意味では滝口悠生さんにも通じるものがあるかな。それにしても、江國さんの解説はうっとりするほどの文章で贅沢すぎる。