書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『百年の子』古内一絵|小学館の矜持

『百年の子』古内一絵 小学館 2023.9.25読了 この本の出版元である小学館を舞台にした100年に渡る大河小説である。書き下ろし作品だしなんとなく小学館なんだろうなという予想はしていが、猫型ロボットに触れられている箇所で「あぁ、やっぱり小学館だ!」と…

『琥珀の夏』辻村深月|大人の理想と子どもの期待

『琥珀の夏』辻村深月 文藝春秋[文春文庫] 2023.9.24読了 子どもの頃は自分の周りだけが世界の全てだ。小学生のほとんどは、家族と学校だけでそれ以外の世界は知らない。その小さな世界で自分がどう思われているか、一人ぼっちになったら、嫌われたら、親…

『フリアとシナリオライター』マリオ・バルガス=リョサ|大人が青春を懐かしみながら読むコメディタッチの物語

『フリアとシナリオライター』マリオ・バルガス=リョサ 野谷文昭/訳 ★ 河出書房新社[河出文庫] 2023.9.21読了 これがリョサの作品だとは思えないほどポップな青春ものだった。どうやら半自伝的小説とのことで、主人公の名もマリオ(リョサ自身)そのもの…

『未見坂』堀江敏幸|心が和みある種の懐かしさを感じる

『未見坂』堀江敏幸 新潮社[新潮文庫] 2023.9.18読了 ふとした時に読みたくなる作家の一人が堀江敏幸さんである。心が落ち着く時間、それだけをただ欲して堀江さんの奏でる小説世界に足を踏み入れる。 この本は『雪沼とその周辺』に連なる連作短編集であり…

『グレート・サークル』マギー・シプステッド|壮大な愛の物語

『グレート・サークル』マギー・シプステッド 北田絵里子/訳 ★ 早川書房 2023.9.16読了 飯嶋和一さんの作品に、江戸時代に初めて飛行機を飛ばした人を描いた『始祖鳥記』という小説がある。大空を自由のまま鳥のように飛びまわりたいという願い。この『グレ…

『失われたものたちの本』ジョン・コナリー|子どもの心に戻り夢中になれるファンタジー

『失われたものたちの本』ジョン・コナリー 田内志文/訳 ★★ 東京創元社[創元推理文庫] 2023.9.10読了 プラスチックゴミ削減のために、スーパーやコンビニのビニール袋が有料になってから結構経つが、最近は削減のためというよりも、節約しようという思い…

『湖の女たち』吉田修一|異質だと思っていたものがそうではなくなる

『湖の女たち』吉田修一 新潮社[新潮文庫] 2023.9.5読了 吉田修一さんの小説を読むのは久しぶりだったけれど、やはり文章もストーリーも淀みなく上手いなぁという印象だ。作品としては『悪人』や『怒り』には到底及ばないがさすがの筆致で読ませるものがあ…

『八月の御所グラウンド』万城目学|青春香る成長譚、大人にこそ読んでほしい

『八月の御所グラウンド』万城目学 文藝春秋 2023.9.3読了 まだまだ猛暑が続いているから9月に入ったとは到底思えない。今日は台風の影響で関東地方は比較的ひんやりとしている。本当は8月中に読もうとしていたのにうっかりしていた。万城目さん自身もきっと…

『恐るべき太陽』ミシェル・ビュッシ|騙された!を味わいたかった

『恐るべき太陽』ミシェル・ビュッシ 平岡敦/訳 集英社[集英社文庫] 2023.9.1読了 クリスティーへの挑戦作なんて帯に書かれていたら、クリスティー好き、英国ミステリ好きとしては放っておけなくなる(これはフランス人作家の作品だけれど)。表紙のイラ…

『魯肉飯のさえずり』温又柔|心が繋がっていれば、言葉が通じなくてもわかりあえる

『魯肉飯(ロバプン)のさえずり』温又柔(おん・ゆうじゅう) 中央公論新社[中公文庫] 2023.8.29読了 あれ、魯肉飯って「ルーロンハン」って読むんじゃなかったかな。日本には台湾料理店も多く魯肉飯は結構浸透していてルーロンハンで通ってる。「ロバプ…