書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(さ行の作家)

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木紫乃|程よい距離感がちょうどいい

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木紫乃 角川書店 2021.8.29読了 タイトルが表している通り、「俺」を含めた4人が登場する小説である。桜木紫乃さんの作品は、ストーリーがしっかりしていて、いつどんな時でも(忙しくても時間がなくても多少疲れ…

『戦いすんで日が暮れて』佐藤愛子|苦難を乗り切ったからこそ

『戦いすんで日が暮れて』佐藤愛子 講談社文庫 2021.7.31読了 おんとし97歳の佐藤愛子さんは、とても美しく気品に溢れている。もちろん外見が若々しいのもそうだが、内面から湧き上がるこの美しさは、彼女自らが強く気高く生き抜いてきた賜物だと言える。 過…

『舞踏会へ向かう三人の農夫』リチャード・パワーズ|1枚の写真から

『舞踏会へ向かう三人の農夫』上下 リチャード・パワーズ 柴田元幸/訳 河出文庫 2021.6.28読了 2年くらい前だろうか、リチャード・パワーズさんの『オーバーストーリー』という装丁の素晴らしい単行本が書店にずらっと並んでいて、手にとったものの値段もま…

『大阪』岸政彦 柴崎友香|大人の芳しい上質な随筆集

『大阪』岸政彦 柴崎友香 河出書房新社 2021.6.10読了 生まれ育った街を「地元」という。小さい頃から転勤を繰り返していた私は、どんな環境でもある程度馴染めるという術をおぼえて育った。小学生高学年から一つの地域に長く住んだから、私が「地元」と言え…

『破戒』島崎藤村|隠し続けるか苦悩する

『破戒』島崎藤村 新潮文庫 2021.4.29読了 先日読んだ『約束の地』のまえがきでバラク・オバマさんが述べていたように、私も巻末の注釈が大嫌いである。振ってある小さな数字も煩わしいし、後ろの頁をめくり該当の単語を探すもの煩わしい。何よりも本文から…

『ふたりぐらし』桜木紫乃|他人と生活を共にする

『ふたりぐらし』桜木紫乃 新潮文庫 2021.3.31読了 書店の文庫本新刊コーナーに並んでいるのを見てつい買ってしまった。桜木紫乃さんといえば、去年刊行された『家族じまい』がそういえば気になっていたのだった。最近は家族をテーマにした作品を書くことが…

『月夜のミーナ』柴田周平|無名の作家の本を読む

『月夜のミーナ』柴田周平 河出書房新社 2021.3.25読了 何かの文学賞を受賞したわけでも、候補に選ばれたわけでもない、まして初めて見る作家の作品を読んでみるのは少し勇気がいる。まぁ、失敗したら嫌だなとかその程度のことなのだが。それでも期待と不安…

『ロード・ジム』ジョセフ・コンラッド|マーロウの語りからジムを想像する

『ロード・ジム』ジョセフ・コンラッド 柴田元幸/訳 河出文庫 2021.3.20読了 ジムという1人の人間のことを、マーロウの視点で描いた壮大なる物語。マーロウといえば、チャンドラー作品に出てくる探偵フィリップ・マーロウが思い浮かぶけれど、ここではチャ…

『生きるとか死ぬとか父親とか』ジェーン・スー|母が繋ぐ父と娘の絆

『生きるとか死ぬとか父親とか』ジェーン・スー 新潮文庫 2021.3.10読了 このジェーン・スーさんという方、私が知ったのは最近なのだが、なかなかおもしろい方のようだ。自らを「未婚のプロ」と称し、生粋の日本人なのに外国人であるかのような名前をつけて…

『ナイン・ストーリーズ』サリンジャー/読みたくなる類いの爽快な作品たち

『ナイン・ストーリーズ』J.D.サリンジャー 柴田元幸/訳 ヴィレッジブックス 2021.1.14読了 サリンジャーさんの作品は、どこか爽快なイメージがある。例えその小説が悲劇だとしても。読んだ作品の数はそう多くないのに、ふと思い出した時に読みたくなる類…

『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ/そばにいる人のことを大切に

『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ 文春文庫 2021.1.3読了 私がようやく手に取ったのは文庫本だけど、ジャケットのデザインも単行本と同じで、2019年本屋大賞受賞作で書店にもうず高く積み上げられていたから、知らない人はほとんどいないだろう。瀬尾…

『佐藤春夫台湾小説集 女誡扇綺譚』佐藤春夫/表題作は圧巻!

『佐藤春夫台湾小説集 女誡扇綺譚』佐藤春夫 中公文庫 2020.12.19読了 大正・昭和の文豪佐藤春夫さんが、1920年の台湾旅行をきっかけにして執筆された短編が9つ収められている。100年前の台湾の情景。私は10年以上前に一度台湾を訪れたことがあるが、その時…

『カタストロフ・マニア』島田雅彦/かなり文学よりのSFか

『カタストロフ・マニア』島田雅彦 新潮文庫 2020.12.17読了 最近の島田雅彦さんは未来を描くSF・ディストピアチックな作品が多くなってきたように思う。私の中ではどちらかといえば『退廃姉妹』や『傾国子女』のような大正・昭和の女性を描いた古典的なイメ…

『夏の災厄』篠田節子/感染症の小説は今は重い/祝・全米図書賞受賞の柳美里さん

『夏の災厄』篠田節子 角川文庫 2020.11.21読了 日本脳炎は、1920年代に岡山県で死者が多数発生したことからその名が付けられた。日本脳炎ウイルスを保有する蚊に刺されて発症する感染症である。今はあまり聞かないが、それでも年に10人程度は感染者が存在す…

『千の扉』柴崎友香/無機質な数多の引き出しの中に無数の生き方がある

『千の扉』柴崎友香 中公文庫 2020.11.10読了 東京の古い団地に引っ越してきた千歳と夫の一俊。その部屋は元々一俊の祖父が住んでいた部屋で、療養中のため戻るまで夫婦で住んで欲しいと言う。千歳は祖父から、団地内のある人物を探して欲しいとこっそりと頼…

『家族のあしあと』椎名誠/ほっこり、ほっこり

『家族のあしあと』椎名誠 集英社文庫 2020.9.17読了 藤井聡太さんが最初にメディアに登場するようになったのは、2016年に史上最年少でプロ棋士になった時だ。今の二冠タイトルも仰天、快挙だが、当時は14歳でまだ素朴な少年だったからより目立っていたと思…

『かの子撩乱』瀬戸内寂聴/溢れ出る生命力

『新装版 かの子撩乱』瀬戸内寂聴 講談社文庫 2020.8.29読了 先日井上荒野さんの『あちらにいる鬼』を読んで、瀬戸内寂聴さんの小説を読みたいと思っていた。本当は代表作『夏の終わり』を先に読もうとしていたのだが、本屋でパラパラ見ていたら講談社文庫か…

『エドウィン・マルハウス』スティーヴン・ミルハウザー/子供による子供の伝記

『エドウィン・マルハウス』スティーヴン・ミルハウザー 岸本佐知子/訳 河出文庫 2020.8.4読了 柴田元幸さんはおそらく文学界の中では一番有名な翻訳家であり、イコールポール・オースターさんの作品、というイメージの方も多いだろう。他に、柴田さんが影…

『ブルックリン・フォリーズ』ポール・オースター/希望を失わずに生きる

『ブルックリン・フォリーズ』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★ 新潮文庫 2020.7.25読了 文庫になるのを楽しみにしていたのだけれど、表紙を見て単行本と印象が違い少し戸惑ってしまった。単行本のジャケットは線画で描かれていて、、何というかもっとお洒…

『MONKEY vol.20』柴田元幸責任編集/センスの良さが光る文芸誌

『MONKEY vol.20』柴田元幸責任編集 スイッチ・パブリッシング 2020.6.23読了 雑誌である。タイトルがMONKEYだが、別に猿に特化した読み物というわけではなく、柴田元幸さんが責任編集を務める文芸誌だ。「いい文学とは何か、人の心に残る言葉とは何か、その…

『サンセット・パーク』ポール・オースター/過去に決着をつけていく群像劇

『サンセット・パーク』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮社 2020.6.11読了 ニューヨーク・ブルックリンにあるサンセット・パーク(実在する地名らしい)のある廃屋に、4人の男女が不法滞在する。今までのオースターさんの小説と何か違うなと思っていた…

『志村流』志村けん/コント以上に笑顔が好きかもしれない

『志村流』志村けん 三笠書房 王様文庫 2020.5.8読了 新型コロナウイルス感染が原因で3月29日に亡くなられた志村けんさん。このニュースを聞いた時は本当に驚いた。その時は残念な気持ちになっただけで、本当にじわじわと心に重くのしかかってきたのはしばら…

『ガラスの街』ポール・オースター/ニューヨークをあてどもなく歩く

『ガラスの街』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮文庫 2020.5.3読了 オースターさんのニューヨーク3部作のうち第1作目がこの『ガラスの街』である。主人公クインの家に、深夜に電話がかかってくる。「ポール・オースターさんですね?」クインはポールに…

『幻影の書』ポール・オースター/小説の中で映画を観るような

『幻影の書』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮文庫 2020.3.19読了 やはりオースターさんはいいなぁ。どこに連れて行ってくれるかわからないストーリーと洗練された文体(これは柴田氏の力によるところも大きいが)、流れる時間が読書の楽しさを充分に味…

『革命前夜』須賀しのぶ/監視社会の中で生きる/読書の楽しみ方

『革命前夜』須賀しのぶ 文春文庫 2020.3.16読了 今年に入ってすぐに、須賀しのぶさんの『また、桜の国で』を読んだ。須賀さんが描く文章と壮大なストーリーは期待を超えていて夢中になれた。今回の作品のほうが過去に書かれたもので、これもなかなか評判が…

『雲』エリック・マコーマック/全ては神秘に包まれている

『雲』エリック・マコーマック 柴田元幸/訳 ★★ 東京創元社 2020.3.8読了 ひときわ目を惹く素敵な装幀である。いつも本には書店の紙のカバーをかけてもらい持ち歩いているのだけれど、素敵な表紙がカバーの中に包まれていると思うだけでもなんだかウキウキす…

『君が異端だった頃』島田雅彦/いけ好かないけどやりおるな

『君が異端だった頃』島田雅彦 ★ 集英社 2020.3.1読了 「君」とは作者である島田さん自身のことで、この本は自伝的私小説である。一度島田さんの対談を聴きに行ったことがあるが、巧みな話術と知性、そしてあのルックス、やはりモテそうな人だと思った。この…

『若冲』澤田瞳子/奇抜で美しい独特の絵を描き続けた

『若冲』澤田瞳子 文春文庫 2020.1.11読了 数年前に上野にある東京都美術館で開催された「若冲展」、行きたいと思っていたのだが、4時間も並ぶのは耐えきれないなと結局行かずに終わってしまった。数点は何かの展示会で観たことはあるが、若冲氏の作品を飽く…

『孤独の発明』ポール・オースター/孤独でないと物語は書けない

『孤独の発明』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮文庫 2020.1.6読了 年末に読んだ『ムーン・パレス』に次いで、オースター2作目である。本作品は、作家として名を馳せる前に書かれたもののようで、初期の作品と言える。この物語は大きく2部構成になって…

『また、桜の国で』須賀しのぶ/激動の時代を生き抜いたポーランド

『また、桜の国で』須賀しのぶ 祥伝社文庫 2020.1.5読了 名前もよく見かけるし、少し前から気になっていた作家の1人だったが、ライトノベルで有名な人だし、と億劫になっていた。しかしここ数年は一般文芸書を執筆しているようで、数年前の直木賞候補になっ…