書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

外国(タ行の作家)

『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン|何かと折り合いをつけていくのが生きるということ

『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン 斎藤真理子/訳 河出書房新社[河出文庫] 2024.03.13読了 表紙のイラスト、家の洗面台そっくりなんですよね…。これになんだか親近感が湧いてしまう。それに斎藤真理子さんが訳してる!と思ってついつい手に取った。で…

『誘拐の日』チョン・ヘヨン|日本人では到底考えつかないようなストーリー

『誘拐の日』チョン・ヘヨン 米津篤八/訳 ハーパーコリンズ・ジャパン[ハーパーBOOKS] 2023.12.30読了 韓国俳優のイ・ソンギュンさんが亡くなったというニュースを見て驚いた。どうやら自殺だったようだ。韓流にそんなに詳しくはないけれど、『パラサイト…

『結婚/毒 コペンハーゲン三部作』トーヴェ・ディトレウセン|情熱的なトーヴェの生き方こそ詩的だ

『結婚/毒 コペンハーゲン三部作』トーヴェ・ディトレウセン 批谷(ひたに)玲子/訳 ★ みすず書房 2023.12.02読了 デンマークの作家といえば、アンデルセンがぱっと思い浮かぶ。というか、他に誰がいるだろう?首をひねっても出てこない。このトーヴェ・デ…

『亡霊の地』陳思宏|思考すればするほど安楽から遠のく

『亡霊の地』陳思宏(ちんしこう) 三須祐介/訳 早川書房 2023.11.5読了 最近台湾関連の作品は数多い。台湾人が書いたものもあれば日本人が書いたものも多い。どれもがゆるやかで優しいイメージがつきまとう。どこか馴染みのある、妙に落ち着く印象を持つの…

『辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿』莫理斯|中国の歴史や文化、故事成語が興味深い

『辮髪(べんぱつ)のシャーロック・ホームズ 神探福邇(しんたんフーアル)の事件簿』莫理斯(トレヴァー・モリス)舩山むつみ/訳 ★ 文藝春秋 2023.6.29読了 パスティーシュとは「作風の模倣」のことで、文学だけでなく芸術作品に多く用いられている。文学…

『フィフティ・ピープル』チョン・セラン|私たちと同じ普通の人の普通の暮らし|ひそかな司書になる

『フィフティ・ピープル』チョン・セラン 斎藤真理子/訳 ★ 亜紀書房 2023.5.10読了 タイトル通り、50人の人々が登場する作品である。目次を見てあれ?正確には51人なところがまた一興。一人一人にスポットが当てられ、一つ一つの章はほんの数ページだが、読…

『ホワイトノイズ』ドン・デリーロ|突拍子もないストーリーと狂気じみた人間たち

『ホワイトノイズ』ドン・デリーロ 都甲幸治・日吉信貴/訳 水声社 2023.2.26読了 ドン・デリーロの代表作である『ホワイトノイズ』は全米図書賞を受賞した作品である。邦訳は元々集英社から刊行されていたが、絶版となり中古本はかなりの値がついている。こ…

『彼岸の花嫁』ヤンシィー・チュウ|霊婚、または中国社会独自の文化や習わし

『彼岸の花嫁』ヤンシィー・チュウ 圷香織/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2023.1.7読了 マレーシアにある街、マラッカが出てきた!マレーシアは7〜8年前に旅行で訪れて、都市と田舎が合体したような雰囲気と、安価で美味しい料理、多様な文化の融合、なん…

『英国クリスマス幽霊譚傑作集』チャールズ・ディケンズ他 夏来健次編|クリスマスに読みたい怪談

『英国クリスマス幽霊譚傑作集』チャールズ・ディケンズ他 夏来健次編 東京創元社[創元推理文庫] 2022.12.19読了 この手の季節感がある作品(特にタイトルになっているもの)は、時期を外すと一気に読む気が失せてしまうので、クリスマス前になんとか読み…

『インド夜想曲』アントニオ・ダブッキ|幻想的、魅惑的な独特の世界観

『インド夜想曲』アントニオ・ダブッキ 須賀敦子/訳 白水社[白水uブックス] 2022.10.30読了 イタリア人作家の本を続けて読むことに。実はダブッキさんの作品はまだ読んだことがなくて、どれから読もうかと迷っていたが、帯にある「内面の旅行記」という言…

『ザ・クイーン エリザベス女王とイギリスが歩んだ100年』マシュー・デニソン|特別な能力のおかげで長く君臨できた

『ザ・クイーン エリザベス女王とイギリスが歩んだ100年』マシュー・デニソン 実川元子/訳 カンゼン 2022.10.13読了 エリザベス女王のノンフィクションで、在位70周年間近の2021年に英国で刊行された本である。日本で邦訳が出版されたのは今年の6月だ。…

『長い別れ』レイモンド・チャンドラー|ギムレットと男の友情

『長い別れ』レイモンド・チャンドラー 田口俊樹/訳 ★ 東京創元社[創元推理文庫] 2022.6.15読了 去年村上春樹さん訳『ロング・グッドバイ』を読んだばかりなのに。過去に清水俊二さん訳『長いお別れ』も読んだことがあるから、この作品を読むのは訳者を変…

『時のかなたの恋人』ジュード・デヴロー|夢見る乙女のためのタイムトラベル・ロマンス

『時のかなたの恋人』ジュード・デヴロー 久賀美緒/訳 二見書房[二見文庫] 2022.4.23読了 タイムトラベルで恋愛ものって、もうそれだけで甘ったるいんだろうな、昼ドラみたいなのかなと予想していたけれど、読んでみると意外とドロドロした感じはなくサラ…

『異常』エルヴェ・ル・テリエ|この異常事態、どうする?

『異常(アノマリー)』エルヴェ・ル・テリエ 加藤かおり/訳 早川書房 2022.3.28読了 この小説は、フランス本国で100万部超え、2020年にゴングール賞を受賞されている。ゴングール賞とはよく聞くけれど、フランスの最高峰の文学賞らしい。2016年には、先日…

『リトル・シスター』レイモンド・チャンドラー|マーロウ、余裕がないぞ|突然の山本文緒さんの訃報

『リトル・シスター』レイモンド・チャンドラー 村上春樹/訳 ハヤカワ文庫 2021.10.18読了 雑誌『BRUTUS』とても売れているみたい。それもそのはず、村上春樹さんの特集が組まれているから。やっぱり彼の人気は改めてものすごい。村上主義者(本人はハルキ…

『トム・ソーヤーの冒険』マーク・トウェイン|子どもの心と行動

『トム・ソーヤーの冒険』マーク・トウェイン 土屋京子/訳 光文社古典新訳文庫 2021.9.23読了 誰もがこの少年の名前は知っているだろう。私は子供の頃に本を読んだことがあり、いかだに乗っているシーンとペンキ塗りのシーンだけは記憶にあった。 トムはい…

『はつ恋』ツルゲーネフ|初恋なのに冷静さがある

『はつ恋』ツルゲーネフ 神西清/訳 新潮文庫 2021.9.19読了 小説の中での初恋の相手は、ほぼ100%美男もしくは美女である。若い頃には内面から人をみることが出来ず、まずは外面から入るから仕方のないことだとは思うけれど、容姿が普通以下という場合がない…

『少年は世界をのみこむ』トレント・ダルトン|ディテールの積み重ねが人生を彩る

『少年は世界をのみこむ』トレント・ダルトン 池田真紀子/訳 ハーパーコリンズ・ジャパン 2021.5.31読了 全く知らない作家だし、なんなら出版社も聞いたことがない。2019年にオーストラリアで1番売れた小説らしい。壮大なタイトルと、ペラペラめくった時の…

『シーラという子 虐待されたある少女の物語』トリイ・ヘイデン|人が人に与えられる素晴らしいものを胸に

『シーラという子 虐待されたある少女の物語』トリイ・ヘイデン 入江真佐子/訳 ★★ ハヤカワ文庫 2021.1.31読了 新版ということで書店に並んでいたが、過去にベストセラーになったノンフィクションだ。ネットで調べてみると、昔刊行された本のジャケットは確…

『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』タラ・ウェストーバー/ウェストーバー家の大きな愛を感じた

『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』タラ・ウェストーバー 村井理子/訳 ★★ 早川書房 2020.12.4読了 タラさんが偉大な小説家で、読ませる作品を次々と生み出す希代のストーリーテラーなのではと勘違いしてしまうほど、おもしろい作品だった。フィク…

『ゴールドフィンチ』ドナ・タート/未来の神秘・名画と共に

『ゴールドフィンチ』1〜4 ドナ・タート 岡真知子/訳 ★ 河出書房新社 2020.7.20読了 村上春樹さんが『村上さんのところ』でドナ・タートさんの作品を絶賛していた。手始めに文庫本で手に入る『黙約』を去年読んだら、やばい!ほど面白く、去年読んだ小説…

『あなたの人生の物語』テッド・チャン/粒揃いのSF短編集

『あなたの人生の物語』テッド・チャン 浅倉久志・他/訳 ハヤカワ文庫 2020.6.4読了 バラク・オバマ氏が2019年に読んだ本の中で絶賛している『息吹』という短編集が去年末から日本でもベストセラーとなっている。買おうか迷って、でも初めて読む作家だし、…

『アメリカーナ』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ/米国における人種格差

『アメリカーナ』上下 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ くぼたのぞみ/訳 ★ 河出文庫 2020.5.24読了 ナイジェリアの女性作家さんの小説。単行本刊行時から気になっていたのだけれどいかんせん分厚過ぎて断念…。私は読みかけの本は出かける時は必ず持ち歩…

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ/大自然の中で孤独に生きる

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ 友廣純/訳 ★★ 早川書房 2020.3.25読了 今、この本はたいていの書店で平積みされている。なんせ全米で500万部突破、2019年にアメリカで一番売れた本なのだ(と帯にある)。ということは、去年、ミシェル・オ…

『オリヴァー・ツイスト』チャールズ・ディケンズ/生まれ育った環境にも屈しない善良な心

『オリヴァー・ツイスト』チャールズ・ディケンズ 加賀山卓朗/訳 新潮文庫 2020.1.20読了 イギリスの小説は大好きである。ディケンズ、ブロンテ姉妹、サマセット・モーム、ヘンリー・ジェイムズが描くような、古き良き時代の格調高い英国の雰囲気漂うものが…

『トルストイ民話集 人はなんで生きるか 他四篇』トルストイ/人間の本質を見極める

『トルストイ民話集 人はなんで生きるか 他四篇』トルストイ 中村白葉/訳 岩波文庫 2020.1.2読了 トルストイの晩年の短編が収められている。長編はほとんど読んでしまっているため、最近は短編を読むことが多い。ここにある5編はどれも数十ページ程で内容的…

『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』トルストイ / トルストイの中編小説を噛み締める

『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』 トルストイ 望月哲男/訳 光文社古典新訳文庫 2019.11.25読了 トルストイの後期中編が2作収められている。私はロシアの小説家ではドストエフスキーよりもトルストイの方が好きだ。まだ、ドストエフスキーの…

『 凍 』 トーマス・ベルンハルト / 色々な国の小説を読もう

『凍』(いて) トーマス・ベルンハルト 池田信雄/訳 河出書房新社 2019.7.1読了 これで、「いて」と読むらしい。まるで雪の結晶であるかのように、タイトルが凍えている。オーストリアの作家、トーマス・ベルンハルトさんのことは今まで知らなかった。そもそ…

『羊たちの沈黙』 トマス・ハリス / これは映画に分配があがりますな

『羊たちの沈黙』 上下 トマス・ハリス 高見 浩/訳 新潮文庫 2019.5.5読了 映画のレクター4部作は、私の中ではサスペンス映画のベスト3に入り、どの作品も観た時大変興奮したことを覚えている。内容も知っているが何となく手にしたのが、映画上映では最初の…

『黙約』 ドナ・タート / 人の気持ちは変わるけれど変わらない

『黙約』 上下 ドナ・タート 吉浦澄子/訳 ★★★ 新潮文庫 2019.3.2 読了 読んでいる間は勿論のこと、読み終えた後しばらくの間も興奮が冷めやらないほど、久しぶりに夢中になれる本に出会えた。1月に『村上さんのところ』を読んで村上春樹さんがドナ・タート…