書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

外国(カ行の作家)

『フェアリー・テイル』スティーヴン・キング|コロナ禍に巨匠が作った大人のためのファンタジー

『フェアリー・テイル』上下 スティーヴン・キング 白石朗/訳 文藝春秋 2025.06.05読了 フェアリーテイル、つまり「おとぎばなし」と名付けられたこの小説。あのキングが「おとぎばなし」というタイトルをつけるなんて、真っ向からファンタジーじゃないの。…

『過去は異国』ジャンリーコ・カロフィーリオ|罪を背負って生きるか、吐き出して償うか

『過去は異国』ジャンリーコ・カロフィーリオ 飯田亮介/訳 扶桑社[扶桑社文庫] 2025.05.20読了 この手のジャンルはアメリカ文学はよく読むけれどイタリアの作品という意味では新鮮だった。なんか良い意味で気取っているように感じ、それはイタリア人的な…

『死せる魂』ニコライ・ゴーゴリ|未完の大作と呼ばれるものを読んでしまう

『死せる魂』上中下 ニコライ・ゴーゴリ 平井肇・横田瑞穂/訳 岩波書店[岩波文庫] 2025.03.28読了 主人公チチコフは、戸籍上では生きていることになっている死んだ農奴を買い集めるという、いささか奇妙なことをしていた。何のためにこんなことをするのだ…

『バベル オックスフォード翻訳家革命秘史』R・F・クァン|言語、語源、翻訳に興味がある人は是非

『バベル オックスフォード翻訳家革命秘史』上下 R・F・クァン 古沢嘉道/訳 早川書房 2025.03.15読了 今から子どもの頃に戻れるのならば、、、私は翻訳家もしくは教師になる夢に向かって学びたい。さすがに今からは現実的に難しい。いくら「何ごともいつか…

『ポアロのクリスマス』アガサ・クリスティー|王道作品を王道に楽しませる絶大なる信頼感

『ポアロのクリスマス』アガサ・クリスティー 川副智子/訳 早川書房[クリスティー文庫] 2025.01.05読了 クリスティー作品のなかで超有名作品は読んだつもりなので、ちびちびと未読の作品を読んでいる。かなり久しぶりだった(なんと去年はクリスティー作…

『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』メイソン・カリー|誰にでもある日常のルーティーン、うまくいかせるか?

『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』メイソン・カリー 金原瑞人、石田文子/訳 フィルムアート社 2024.11.09読了 あまりにも物語世界に浸り続けると疲れてしまうので、ちょっと休憩してエッセイを読んだ。少し前にX…

『三つ編み』レティシア・コロンバニ|女性の生きづらさ、そして強さ

『三つ編み』レティシア・コロンバニ 齋藤可津子/訳 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2024.11.02読了 私は今までの人生のほとんどをショートヘアで過ごしてきた。長くしていた時でも、やっと結えるくらいの長さ。だから、表紙のイラストのようないわゆるお下げ…

『死者は嘘をつかない』スティーヴン・キング|ホラー要素満載だけど怖くないよ

『死者は嘘をつかない』スティーヴン・キング 土屋晃/訳 文藝春秋[文春文庫] 2024.10.22読了 この作品は、キングお得意の幽霊ものでホラー要素満載だ。キングの初期作品に原点回帰したようで、ストーリーもなかなか良かった。とはいえ米国で2021年に刊行…

『ビリー・サマーズ』スティーヴン・キング|それなりの真実が含まれているとおもしろくなる

『ビリー・サマーズ』上下 スティーヴン・キング 白石朗/訳 文藝春秋 2024.09.03読了 圧巻の物語だ。やはりキングって桁違いだなと唸らされる。キングの作品は外れが少ないので読む前からどうしてもハードルが上がってしまうのだが、その期待が損なわれるこ…

『失われたものたちの国』ジョン・コナリー|「儚くなる」という表現がいいなぁ

『失われたものたちの国』ジョン・コナリー 田内志文/訳 東京創元社 2024.08.05読了 ファンタジーを単行本で買うことは滅多にないのだけれど、去年読んだ『失われたものたちの本』がめちゃくちゃおもしろくて、「あ!続編出たんだー」と書店で小踊りしてし…

『台北プライベート・アイ』紀蔚然|台北を感じながら、愛くるしいこの私立探偵を応援する

『台北プライベート・アイ』紀蔚然(き・うつぜん) 舩山むつみ/訳 ★ 文藝春秋[文春文庫] 2024.06.20読了 単行本刊行時から気になっていた本がついに文庫本になり早速ゲットした。どうやら第二弾が刊行されたのでそれにあわせてこの第一弾が文庫化された…

『死刑執行のノート』ダニヤ・クカフカ|アンセルの孤独、人生のままならなさ

『死刑執行のノート』ダニヤ・クカフカ 鈴木美朋/訳 集英社[集英社文庫] 2024.05.26読了 こういった海外の名前を知らない作家の本は、すぐに読まないと積読まっしぐらになるよなぁ。エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)を受賞したこの小説の著者はダ…

『アウトサイダー』スティーヴン・キング|事件はどう解決するのか|もはや「ホッジズ」シリーズものでは!

『アウトサイダー』上下 スティーヴン・キング 白石朗/訳 文藝春秋[文春文庫] 2024.04.11読了 さすがのキング!冒頭から疾走感がありおもしろかった。何より上下巻ぎっしりと読み応え満載で、キングを読むときは次の本選びを気にしなくて良い(というか楽…

『ミヒャエル・コールハース チリの地震 他一篇』クライスト|翻訳家も読者も熟練でないとなかなか難しい

『ミヒャエル・コールハース チリの地震 他一篇』ハインリヒ・フォン・クライスト 岩波書店[岩波文庫] 2024.04.06読了 ドイツ人作家の小説を読むのはなんと久しぶりだろう。名前は知っていたがクライストの作品は初めてだ。作家たちが好む、つまりプロの文…

『化学の授業をはじめます。』ボニー・ガルマス|自分が自分になるために

『化学の授業をはじめます。』ボニー・ガルマス 鈴木美朋/訳 ★ 文藝春秋 2024.02.21読了 文章になっていて句点もついているし「なんだかタイトルがださいな〜」と思っていたけれど、全世界で600万部も売れているというこの小説。よくX(旧Twitter)で読む本…

『哀れなるものたち』アラスター・グレイ|生きることは哀れさを競うようなもの

『哀れなるものたち』アラスター・グレイ 高橋和久/訳 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2024.02.17読了 映画でエマ・ストーン演じるベラと、圧倒される衣装やセットが話題になっている『哀れなるものたち』の原作を読んだ。旅の道連れとして選んだ本だったのだ…

『パディントン発4時50分』アガサ・クリスティー|隣を走る列車の殺害現場を見てしまったら

『パディントン発4時50分』アガサ・クリスティー 松下祥子/訳 早川書房[クリスティー文庫] 2024.01.19読了 並行して走る電車をぼうっと見てしまうことは誰しもがあるはずだ。私が住む関東では、JR東海道線と京浜東北線はほぼ同じ車窓、隣の線路を走るから…

『失われたものたちの本』ジョン・コナリー|子どもの心に戻り夢中になれるファンタジー

『失われたものたちの本』ジョン・コナリー 田内志文/訳 ★★ 東京創元社[創元推理文庫] 2023.9.10読了 プラスチックゴミ削減のために、スーパーやコンビニのビニール袋が有料になってから結構経つが、最近は削減のためというよりも、節約しようという思い…

『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ|お洒落で都会的、ポップなアメリカ文学

『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ 村上春樹/訳 新潮社[新潮文庫] 2023.7.23読了 ポップで爽快感のあるアメリカ文学を読みたくなった。村上春樹さんが訳したものを欲していたという理由もある。新潮文庫の100冊とか、今回のようなプレミア…

『ローラ・フェイとの最後の会話』トマス・H・クック|父親と息子の確執、記憶のたぐり寄せ

『ローラ・フェイとの最後の会話』トマス・H・クック 村松潔/訳 早川書房[ハヤカワ・ミステリ文庫] 2023.7.19読了 語り手のルークは、自身とその家族を悲しみの底に突き落とす原因となったローラ・フェイと再会しお酒を飲み交わすことになった。事件が起…

『モイラ』ジュリアン・グリーン|運命の女モイラ、そして青年たち

『モイラ』ジュリアン・グリーン 石井洋二郎/訳 岩波書店[岩波文庫] 2023.5.30読了 信仰心の篤い赤毛のジョセフは、ミセス・デアの家に下宿することになり、ここから大学に通う。このジョセフという主人公がまた独特の人物だ。極度の潔癖というか、真面目…

『狼の幸せ』パオロ・コニェッティ|透き通ったビー玉みたいで、冬山なのにあたたかい小説

『狼の幸せ』パオロ・コニェッティ 飯田亮介/訳 早川書房 2023.5.26読了 フォンターナ・フレッダというイタリアンアルプスにある集落を舞台にした作品。山岳小説なのに最初は不思議とそんな感じがしなくて、小さな田舎町の出来事といった印象だった。しかし…

『緋色の記憶』トマス・H・クック|緊迫感のある回想

『緋色の記憶』トマス・H・クック 鴻巣友季子/訳 ★ 早川書房[ハヤカワ・ミステリ文庫] 2023.5.7読了 なんだ、これは…。ざわざわした感覚でこの世界観に入り込み、最後の最後までこのスリルな文体に引き込まれた。著者トマス・H・クックの作品に対しては、…

『破果』ク・ビョンモ|強烈なインパクトを残す韓国発信文化

『破果』ク・ビョンモ 小山内園子/訳 岩波書店 2023.4.29読了 なかなか圧倒される文体である。一文もやや長めで、ひとつひとつの描写がとんでもなく細かく、豊富な比喩表現が多用されている。他人を見る観察眼が鋭い。著者のク・ビョンモさんは、文章に関し…

『転落』アルベール・カミュ|自分の中にある二面生

『転落』アルベール・カミュ 前山 悠/訳 光文社[光文社古典新訳文庫] 2023.3.29読了 オランダ・アムステルダムにあるバー「メキシコ・シティ」に足を踏み入れると、クラマンスが「どうぞどうぞ」と待っていましたとばかりに語りかけてくる。バーで知り合…

『頬に哀しみを刻め』S・A・コスビー|失念深い復讐の果てに

『頬に哀しみを刻め』S・A・コスビー 加賀山拓朗/訳 ハーパーコリンズ・ジャパン[ハーパーBOOKS]2023.2.21読了 ひたすら暴力的で、血のにおいがつきまとう。読んでいて目を覆うような場面も多かったが、ミステリーとしての仕掛けや疾走感あふれるストーリ…

『望楼館追想』エドワード・ケアリー|ケアリーが描く愛おしい人たちとその物語

『望楼館追想』エドワード・ケアリー 古屋美登里/訳 ★ 東京創元社[創元文芸文庫] 2023.2.18読了 どうやら東京創元社の文庫レーベルに新しく「創元文芸文庫」というものが刊行されたようで、翻訳部門の第一弾がこの作品だ。エドワード・ケアリーといえばア…

『眠れる美女たち』スティーヴン・キング オーウェン・キング|キング親子によるパニック小説

『眠れる美女たち』上下 スティーヴン・キング オーウェン・キング 白石朗/訳 文藝春秋[文春文庫] 2023.1.31読了 久しぶりのキング作品!本の最初にある登場人物紹介は、どんな人が出てくるのかな(名前というより関係性やら職業やらの事前知識として)と…

『ジュラシック・パーク』マイクル・クライトン|なぜこんなにも恐竜に魅了されるのか|withコロナ小説 

『ジュラシック・パーク』上下 マイクル・クライトン 酒井昭伸/訳 早川書房[ハヤカワ文庫] 2023.1.17読了 同名の映画を知らない人はいないだろう。私は確か中学生の時に映画館で観て、未知なる恐竜のうごめく姿とその映像技術の高さに圧倒されて、めちゃ…

『真珠湾の冬』ジェイムズ・ケストレル|読みやすい歴史ロマン大作

『真珠湾の冬』ジェイムズ・ケストレル 山中朝晶/訳 早川書房[ハヤカワポケットミステリー] 2023.1.9読了 ポケミスは手にして読んでいるだけでもやっぱりワクワクする。でも文庫に比べて高価だから、よほど好きな作家以外はチェックしていない。この作品…