書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(あ行の作家)

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼|話題作は気になりますね

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼 講談社文庫 2021.10.9読了 単行本が刊行された2年前、かなり話題になっていたのも知っていたが、私は読まないだろうと思っていた。美少女チックな表紙のイラスト、城塚翡翠(じょうづかひすい)なんていうキラキラネー…

『満潮の時刻』遠藤周作|入院生活でみえてくるもの

『満潮の時刻』遠藤周作 新潮文庫 2021.9.24読了 久しぶりに遠藤周作さんの小説を読んだ。この作品は没後2年してから上梓されたようで、長編であるのにあまり有名ではない。作品の中にある欠点(時間経過がそぐわない箇所がある等の違和感程度)を補ってから…

『生き物の死にざま』稲垣栄洋|自然界を懸命に生きる

『生き物の死にざま』稲垣栄洋 草思社 2021.9.2読了 先日、家の中に入り込んできた蚊を掃除機で吸い込んだ。なかなか叩くチャンスがなく(本当は潰したくないけど家にいるのが気になる)、天井付近にいたのをなんとか仕留めた。蚊は掃除機の中で息絶えると思…

『黒い雨』井伏鱒二|被爆してもなお日常を生きる

『黒い雨』井伏鱒二 新潮文庫 2021.8.12読了 井伏鱒二さんの『山椒魚』は高校の現代文の教科書に載っていると言われているが、私は学んだ記憶がない。教科書の種類が違ったのか、時代が違ったのか。そもそも小中学校とは違って、高校では先生の好みで教科書…

『ブラック・チェンバー・ミュージック』阿部和重|エンタメ感満載|オリンピック卓球女子、文学的解説者のこと

『ブラック・チェンバー・ミュージック』阿部和重 毎日新聞出版 2021.7.29読了 待ってました、阿部和重さん!新刊が出ると必ず読んでいる作家の1人。阿部和重さんと川上未映子さんのご夫婦は最強すぎる。今回の本は毎日新聞出版からということで珍しいと思っ…

『貝に続く場所にて』石沢麻依|大切なものを失ってもなお

『貝に続く場所にて』石沢麻依 ☆ 講談社 2021.7.25読了 先日、第165回芥川賞・直木賞が発表された。ついこの間『推し、燃ゆ』で宇佐見りんさんが盛り上がっていたのに、もう半年経ったのか。個人的には年に1回でいいと思うのだけど、出版業界を盛り上げてい…

『夜の側に立つ』小野寺史宜|スマートな会話が心地よい

『夜の側に立つ』小野寺史宜 新潮文庫 2021.7.18読了 書店で本を見かけることがあるので名前は知っていたが小野寺史宜さんの小説を読むのは初めてだ。過去に本屋大賞にノミネートされたのは『ひと』という作品である。たまたま文庫の新刊が目に止まり、本作…

『星月夜』伊集院静|推理小説かなぁ?|大谷翔平選手は日本の星!

『星月夜』伊集院静 文春文庫 2021.7.13読了 星月夜(ほしづきよ)と聞くと、私はフィンセント・ファン・ゴッホ作の絵画を思い浮かべてしまう。現実にあるような星空ではなく、油絵の具を塗りたくった肉厚の空と大きな星たち。でもこの作品を読んだ後に思う…

『椿の海の記』石牟礼道子|この文体は大自然の中から生まれた

『椿の海の記』石牟礼道子 河出文庫 2021.7.1読了 文庫本の表紙カバーに描かれた画は別の方の作品であるが、頁をめくったところにある装画は石牟礼道子さん作とある。石牟礼さん、絵も描いていたんだ。ふくよかな葉っぱをつけた椿の、なかなか素敵な趣である…

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳|在日韓国人について考える

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳(イ・ヨンドク) 河出書房新社 2021.3.1読了 なかなか衝撃的なタイトルである。竹槍で突き殺すなんて、いったいどんな戦いが始まるのかと身構えてしまうが、これは「ヘイトクライム」を扱ったディストピア小説だ。…

『街場の天皇論』内田樹|天皇制について考えてみよう

『街場の天皇論』内田樹 文春文庫 2021.2.19読了 2016年8月、当時の天皇陛下が「おことば」を述べられた。著者の内田樹さんは、陛下の「おことば」は、日本人が天皇制について根源的に考えるための絶好の機会を提供してくれたものと感謝の気持ちを以て受け止…

『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東浩紀|失敗力をいかす

『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東浩紀 中公新書 2021.2.13読了 多くの方がこの本を紹介され、かつ絶賛されているため、私も気になり読んでみた。「ゲンロン」という思想誌や「ゲンロンカフェ」という企画が存在することは知っていたが何をやっている…

『推し、燃ゆ』宇佐見りん|若い才能花開け|本を自分で選ぶ楽しさ

『推し、燃ゆ』宇佐見りん 河出書房新社 2021.1.29読了 1月20日に芥川賞受賞作が発表されてからしばらくは書店から姿を消していた。ノミネート時から有力候補となっていた宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』である。宇佐見さんについては、デビュー作『かか』を…

『こちらあみ子』今村夏子|相手の気持ちを考えることの大切さ

『こちらあみ子』今村夏子 ちくま文庫 2021.1.27読了 私が通っていた小学校では「特別支援学級」なるものがあった。普通のクラスに所属はしているが、授業だけはみんなと違う別の教室で受ける。知的障害または身体障害があり、支援を受けないと生活ができな…

『ペルソナ 三島由紀夫伝』猪瀬直樹/生と死に誰よりも執着していた

『日本の近代 猪瀬直樹著作集2 ペルソナ 三島由紀夫伝』猪瀬直樹 ★ 小学館 2020.12.12読了 三島文学が大好きと豪語しているわりには、彼のことを外から評したものをちゃんと読んだことがなかった。特集を映画やテレビで観たり、文芸誌などで読む程度だ。こ…

『ミッドナイトスワン』内田英治/白鳥の湖は悲劇であるけれど

『ミッドナイトスワン』内田英治 文春文庫 2020.11.28読了 草彅剛さんの演技が素晴らしいと評判の映画『ミッドナイトスワン』を、監督自ら小説にした。本当は原作があって映画化、という流れでないとどうも納得できない(原作を大事にしたい)のだけれど、過…

『野球盲導犬チビの告白』井上ひさし/野球アニメを観ているかのよう

『野球盲導犬チビの告白』井上ひさし 実業之日本社文庫 2020.11.14読了 身体に障害を抱えている人でも競技ができ、かつメダルを競えるという素晴らしいスポーツのイベント、パラリンピック。オリンピックの直後に開催される世界大会である。もちろん、障害を…

『非色』有吉佐和子/結局どこでも差別は起こる

『非色(ひしょく)』有吉佐和子 河出文庫 2020.11.12読了 この作品のことは知らなかった。というのも、長らく重版未定状態にあったからだ。使われている言葉に、差別と捉えかねない表現が多くあるのだ。巻末に有吉さんのお嬢様のよせがきがあるが、戸惑いな…

『家霊』岡本かの子/粋のいい短編たち、280円文庫

『家霊(かれい)』岡本かの子 ハルキ文庫 2020.10.26読了 岡本かの子さんの作品を読むのは初めてだ。芸術家岡本太郎さんの母親である岡本かの子さんは、壮絶な人生を歩んだ。瀬戸内寂聴さんの『かの子繚乱』を読んだことが彼女を知ったきっかけだ。熱を帯び…

『星の子』今村夏子/読んでいてずっと苦しい

『星の子』今村夏子 ★ 朝日文庫 2020.10.9読了 人気番組「アメトーーク!」の「読書芸人」で、芸人であり作家でもある又吉直樹さんが一推ししていたのが今村夏子さんの『こちらあみ子』だ。その後『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した時には、やは…

『童の神』今村翔吾/エンタメ全開の歴史小説

『童の神』今村翔吾 ハルキ文庫 2020.10.2読了 第163回直木賞は馳星周さんの『少年と犬』が受賞となったが、有力候補と言われていたのは今村翔吾さんの『じんかん』である。選考当時からこの『じんかん』気になっていたのだが、読んだことのない作家さんだか…

『ワカタケル』池澤夏樹/神話ファンタジー

『ワカタケル』池澤夏樹 日本経済新聞出版 2020.9.26読了 近未来SFを読んでいたから、今度は古典的な作品を味わおう。昔も昔、古事記でいう上・中巻あたりの物語だ。池澤夏樹さんは、河出書房から世界文学全集と日本文学全集を個人編集し出版している。日本…

『死神の棋譜』奥泉光/読んでいて詰んだかも

『死神の棋譜』奥泉光 ★ 新潮社 2020.9.21読了 藤井聡太二冠の誕生、羽生善治九段はタイトル通算100期の記録がかかる竜王戦に挑戦するなど、将棋界を取り巻く話題に事欠くことがない昨今。そんな中、将棋を愛してやまない著者の奥泉さんが見事な現代ミステリ…

『日本の血脈』石井妙子/女性は強し

『日本の血脈』石井妙子 文春文庫 2020.9.8読了 石井妙子さんといえば、現東京都知事小池百合子さんを描いた『女帝 小池百合子』がベストセラーになった。それも、ちょうど都知事選のさなかだったからなおのこと話題となった。本作はその石井妙子さんが過去…

『十二人の手紙』井上ひさし/極上の漫才や落語を思わせる

『十二人の手紙』井上ひさし 中公文庫 2020.9.6読了 井上ひさしさんの本を読むたびに、なんて上手いんだろうといつも唸らさせる。ストーリーもさることながら、日本語一つ一つの言葉や文の技巧が際立ち、お手本となるような文章なのだ。まるで国語の教科書に…

『百年泥』石井遊佳/インドの生活と文化

『百年泥』石井遊佳 新潮文庫 2020.8.23読了 この作品は、第158回芥川賞受賞作だ。作品以上に当時話題をさらったのは、著者の石井さんと同時受賞の若竹千佐子さんが、かつて根本昌夫先生の小説講座に通っていたこと。もちろん同じタイミングではないけれど。…

『鯖』赤松利市/目が光る

『鯖(さば)』赤松利市 徳間文庫 2020.7.31読了 赤松さんのデビュー作は中編『藻屑蟹』、続いて書いた長編は本作『鯖』であり、山本周五郎賞候補にも選ばれた。ジャケットの文字が強く主張している。ただ大きいのではなく、なんだかこちらを睨んでるように…

『あちらにいる鬼』井上荒野/憎しみも独占もなく

『あちらにいる鬼』井上荒野 ★ 朝日新聞出版 2020.6.8読了 読みたかった本。期待して読んで、本当に思い通りに満足できた一冊だった。しとしとと雨の降る午後に、雨音だけが響く中、静かに読み浸っていたいような作品だ。この小説は刊行当時から話題になって…

『けものたちは故郷をめざす』安部公房/極限下で生きていく様はまるでケモノ

『けものたちは故郷をめざす』安部公房 岩波文庫 2020.5.15読了 安部公房さんの本は多分『砂の女』しか読んだことがないはず。それも20年ほど前だからほとんど覚えていない。この作品は元々絶版になっていたようだが、岩波文庫から復刻版として刊行された。…

『アウターライズ』赤松利市/東北への強い想い

『アウターライズ』赤松利市 中央公論新社 2020.5.7読了 2か月ほど前に、赤松さんのデビュー作『藻屑蟹』を読みその筆致に圧倒されたので、新刊を思わず購入。どうやらこれも東日本大地震をテーマにした作品のようだ。赤松さん自らが原発の除染作業員の経験…