書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(あ行の作家)

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳|在日韓国人について考える

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳(イ・ヨンドク) 河出書房新社 2021.3.1読了 なかなか衝撃的なタイトルである。竹槍で突き殺すなんて、いったいどんな戦いが始まるのかと身構えてしまうが、これは「ヘイトクライム」を扱ったディストピア小説だ。…

『街場の天皇論』内田樹|天皇制について考えてみよう

『街場の天皇論』内田樹 文春文庫 2021.2.19読了 2016年8月、当時の天皇陛下が「おことば」を述べられた。著者の内田樹さんは、陛下の「おことば」は、日本人が天皇制について根源的に考えるための絶好の機会を提供してくれたものと感謝の気持ちを以て受け止…

『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東浩紀|失敗力をいかす

『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東浩紀 中公新書 2021.2.13読了 多くの方がこの本を紹介され、かつ絶賛されているため、私も気になり読んでみた。「ゲンロン」という思想誌や「ゲンロンカフェ」という企画が存在することは知っていたが何をやっている…

『推し、燃ゆ』宇佐見りん|若い才能花開け|本を自分で選ぶ楽しさ

『推し、燃ゆ』宇佐見りん 河出書房新社 2021.1.29読了 1月20日に芥川賞受賞作が発表されてからしばらくは書店から姿を消していた。ノミネート時から有力候補となっていた宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』である。宇佐見さんについては、デビュー作『かか』を…

『こちらあみ子』今村夏子|相手の気持ちを考えることの大切さ

『こちらあみ子』今村夏子 ちくま文庫 2021.1.27読了 私が通っていた小学校では「特別支援学級」なるものがあった。普通のクラスに所属はしているが、授業だけはみんなと違う別の教室で受ける。知的障害または身体障害があり、支援を受けないと生活ができな…

『ペルソナ 三島由紀夫伝』猪瀬直樹/生と死に誰よりも執着していた

『日本の近代 猪瀬直樹著作集2 ペルソナ 三島由紀夫伝』猪瀬直樹 ★ 小学館 2020.12.12読了 三島文学が大好きと豪語しているわりには、彼のことを外から評したものをちゃんと読んだことがなかった。特集を映画やテレビで観たり、文芸誌などで読む程度だ。こ…

『ミッドナイトスワン』内田英治/白鳥の湖は悲劇であるけれど

『ミッドナイトスワン』内田英治 文春文庫 2020.11.28読了 草彅剛さんの演技が素晴らしいと評判の映画『ミッドナイトスワン』を、監督自ら小説にした。本当は原作があって映画化、という流れでないとどうも納得できない(原作を大事にしたい)のだけれど、過…

『野球盲導犬チビの告白』井上ひさし/野球アニメを観ているかのよう

『野球盲導犬チビの告白』井上ひさし 実業之日本社文庫 2020.11.14読了 身体に障害を抱えている人でも競技ができ、かつメダルを競えるという素晴らしいスポーツのイベント、パラリンピック。オリンピックの直後に開催される世界大会である。もちろん、障害を…

『非色』有吉佐和子/結局どこでも差別は起こる

『非色(ひしょく)』有吉佐和子 河出文庫 2020.11.12読了 この作品のことは知らなかった。というのも、長らく重版未定状態にあったからだ。使われている言葉に、差別と捉えかねない表現が多くあるのだ。巻末に有吉さんのお嬢様のよせがきがあるが、戸惑いな…

『家霊』岡本かの子/粋のいい短編たち、280円文庫

『家霊(かれい)』岡本かの子 ハルキ文庫 2020.10.26読了 岡本かの子さんの作品を読むのは初めてだ。芸術家岡本太郎さんの母親である岡本かの子さんは、壮絶な人生を歩んだ。瀬戸内寂聴さんの『かの子繚乱』を読んだことが彼女を知ったきっかけだ。熱を帯び…

『星の子』今村夏子/読んでいてずっと苦しい

『星の子』今村夏子 ★ 朝日文庫 2020.10.9読了 人気番組「アメトーーク!」の「読書芸人」で、芸人であり作家でもある又吉直樹さんが一推ししていたのが今村夏子さんの『こちらあみ子』だ。その後『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した時には、やは…

『童の神』今村翔吾/エンタメ全開の歴史小説

『童の神』今村翔吾 ハルキ文庫 2020.10.2読了 第163回直木賞は馳星周さんの『少年と犬』が受賞となったが、有力候補と言われていたのは今村翔吾さんの『じんかん』である。選考当時からこの『じんかん』気になっていたのだが、読んだことのない作家さんだか…

『ワカタケル』池澤夏樹/神話ファンタジー

『ワカタケル』池澤夏樹 日本経済新聞出版 2020.9.26読了 近未来SFを読んでいたから、今度は古典的な作品を味わおう。昔も昔、古事記でいう上・中巻あたりの物語だ。池澤夏樹さんは、河出書房から世界文学全集と日本文学全集を個人編集し出版している。日本…

『死神の棋譜』奥泉光/読んでいて詰んだかも

『死神の棋譜』奥泉光 ★ 新潮社 2020.9.21読了 藤井聡太二冠の誕生、羽生善治九段はタイトル通算100期の記録がかかる竜王戦に挑戦するなど、将棋界を取り巻く話題に事欠くことがない昨今。そんな中、将棋を愛してやまない著者の奥泉さんが見事な現代ミステリ…

『日本の血脈』石井妙子/女性は強し

『日本の血脈』石井妙子 文春文庫 2020.9.8読了 石井妙子さんといえば、現東京都知事小池百合子さんを描いた『女帝 小池百合子』がベストセラーになった。それも、ちょうど都知事選のさなかだったからなおのこと話題となった。本作はその石井妙子さんが過去…

『十二人の手紙』井上ひさし/極上の漫才や落語を思わせる

『十二人の手紙』井上ひさし 中公文庫 2020.9.6読了 井上ひさしさんの本を読むたびに、なんて上手いんだろうといつも唸らさせる。ストーリーもさることながら、日本語一つ一つの言葉や文の技巧が際立ち、お手本となるような文章なのだ。まるで国語の教科書に…

『百年泥』石井遊佳/インドの生活と文化

『百年泥』石井遊佳 新潮文庫 2020.8.23読了 この作品は、第158回芥川賞受賞作だ。作品以上に当時話題をさらったのは、著者の石井さんと同時受賞の若竹千佐子さんが、かつて根本昌夫先生の小説講座に通っていたこと。もちろん同じタイミングではないけれど。…

『鯖』赤松利市/目が光る

『鯖(さば)』赤松利市 徳間文庫 2020.7.31読了 赤松さんのデビュー作は中編『藻屑蟹』、続いて書いた長編は本作『鯖』であり、山本周五郎賞候補にも選ばれた。ジャケットの文字が強く主張している。ただ大きいのではなく、なんだかこちらを睨んでるように…

『あちらにいる鬼』井上荒野/憎しみも独占もなく

『あちらにいる鬼』井上荒野 ★ 朝日新聞出版 2020.6.8読了 読みたかった本。期待して読んで、本当に思い通りに満足できた一冊だった。しとしとと雨の降る午後に、雨音だけが響く中、静かに読み浸っていたいような作品だ。この小説は刊行当時から話題になって…

『けものたちは故郷をめざす』安部公房/極限下で生きていく様はまるでケモノ

『けものたちは故郷をめざす』安部公房 岩波文庫 2020.5.15読了 安部公房さんの本は多分『砂の女』しか読んだことがないはず。それも20年ほど前だからほとんど覚えていない。この作品は元々絶版になっていたようだが、岩波文庫から復刻版として刊行された。…

『アウターライズ』赤松利市/東北への強い想い

『アウターライズ』赤松利市 中央公論新社 2020.5.7読了 2か月ほど前に、赤松さんのデビュー作『藻屑蟹』を読みその筆致に圧倒されたので、新刊を思わず購入。どうやらこれも東日本大地震をテーマにした作品のようだ。赤松さん自らが原発の除染作業員の経験…

『よその島』井上荒野/深く真摯な愛の話

『よその島』井上荒野 中央公論新社 2020.4.20読了 実の父親と瀬戸内寂聴さんの不倫を扱った話題の本『あちらにいる鬼』を読もうとしていたのに、書店に平積みされた新刊に何故か手が伸びてしまった。これって、本好き・書店好きあるあるですよね、きっと。…

『藻屑蟹』赤松利市/モズクでなくてモクズ/ミステリと純文学の融合

『藻屑蟹(もくずがに)』赤松利市 ★ 徳間文庫 2020.3.21読了 気になっていた作家である。というのも、彼は「62歳、無職、住所不定」から鮮烈なる文壇デビューを果たしたからだ。この作品がデビュー作、そして徳間書店が主催する第一回大藪春彦新人賞を受賞…

『天上の葦』太田愛/戦争体験者の想いと報道の在り方を問う

『天上の葦(あし)』上下 太田愛 ★ 角川文庫 2020.2.27読了 太田愛さんの作品は『犯罪者』『幻夏』に次ぐ3作目だ。期待通りの作品だった。陳腐で使い回された表現だが、まさに極上のエンターテイメント!と言えるだろう。 渋谷のスクランブル交差点で、突如…

『ゲームの王国』小川哲/洞察力に優れた登場人物に魅せられる

『ゲームの王国』上下 小川哲 ★ ハヤカワ文庫 2020.1.1読了 いつも帯に騙されるから、大きな期待はせずに(でも新聞やネットで絶賛されているから少しだけ期待)いたけれど、本当にすごい才能の方が現れたと私も思った。そもそも私自身、個人的にSFに苦手意…

『幻夏』太田愛 / 冤罪によるその後の人生

『幻夏』太田愛 ★ 角川文庫 2019.12.17 読了 先月読んだ『犯罪者』シリーズの2作目である。1作目を読んだのが1か月前だし、その後家族に貸して本についても会話をしたからか、内容はほぼ鮮明に覚えている。今回の話は、交通課刑事、相馬に視点をおいた物語だ…

『犯罪者』太田愛 / 脚本家が小説を書くとこうなる

『犯罪者』上下 太田愛 ★ 角川文庫 2019.11.14読了 最近、文庫本に掛けてある本の紹介帯が本全体を覆うようになっていて、カバーが二重になっているようなものをたまに見かける。出版社が作っているものもあれば、書店独自のものもあるようだ。私は全面を覆…

『オーガ(ニ)ズム』阿部和重 / 阿部ワールド全開

『オーガ(ニ)ズム』阿部和重 文藝春秋 2019.11.2読了 阿部さんの新刊は読む前から楽しみ過ぎる。しかも神町シリーズなんて。分厚くて重くて持ち歩くのが大変だけど、期待を胸に込めて、さて読むぞ!と読み始める時のウキウキ感が半端ない。こういう気持ち…

『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』大島真寿美 / もっと浄瑠璃の世界にいざなえたまえ

『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』 大島真寿美 文藝春秋 2019.9.26読了 第161回直木賞受賞作。大島さんの名前は初めて知った。と、カバー裏表紙を見たら、過去の小説に『ピエタ』とあった。あ、この作品は書店に並んでるのを見たことがある。読んでない作品でも見…

『罪の轍』奥田英朗 / 現代だからこそ読むべき昭和のミステリ

『罪の轍』奥田英朗 ★ 新潮社 2019.9.19読了 頁をめくる手が止まらない、だけどじっくり読みたい、そんな読み応えのある小説だった。奥田さんの作品は、『最悪』、『邪魔』、『オリンピックの身代金』は良かったのだが、それ以降は筆力が落ちてしまったのか…