書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(あ行の作家)

『華岡青洲の妻』有吉佐和子|憧れが憎悪に変わる時

『華岡青洲の妻』有吉佐和子 ★ 新潮社[新潮文庫] 2024.05.21読了 華岡青洲というちょっと大それた名前。幾度もドラマ化されたようだが、以前TBSで放映されていた『仁』というドラマで大沢たかおさんが演じた脳外科医は、華岡青洲の麻酔術を利用していたよ…

『TIMELESS』朝吹真理子|たいせつになったなりゆき

『TIMELES』朝吹真理子 新潮社[新潮文庫] 2024.04.15読了 朝吹真理子さんの芥川賞受賞作『きことわ』を実はまだ読んでいない。芥川賞作品は思いたったら速攻読まないと結構忘れてしまうことが多い。確か親族だったと思うけど朝吹さんという方の翻訳された…

『我が友、スミス』石田夏穂|肉体をいじめ倒す快感

『我が友、スミス』石田夏穂 集英社[集英社文庫] 2024.03.31読了 筋トレ小説ってなんだろう?と芥川賞候補になっていたときに気になり、「スミス」というのが人の名前ではなく筋トレマシーンの名前だと知った。もう文庫本になるなんて、早い。 カーリング…

『御社のチャラ男』絲山秋子|日本の会社ってこんなだよな

『御社のチャラ男』絲山秋子 講談社[講談社文庫] 2024.03.09読了 大谷翔平選手の話題で持ちきりの毎日である。彼の好みの女性のタイプに「チャラチャラしていない人」というのがあるらしい。マスコミが言ってるだけかもしれないけれど。「チャラい」ってい…

『フランス革命の女たち 激動の時代を生きた11人の物語』池田理代子|ベルばらを読みたくなってきた

『フランス革命の女たち 激動の時代を生きた11人の物語』池田理代子 新潮社[新潮文庫] 2024.03.04読了 子供の頃大好きだった漫画の一つが『ベルサイユのばら』である。女子はたいていハマっていた。文庫本の表紙にある、奮い立つオスカルとそれを守ろうと…

『さびしさについて』植本一子 滝口悠生|いろんな感情を大切にしたい|滝口さんの思想がたまらんく好き、んで、植本さんのことも好きになった

『さびしさについて』植本一子 滝口悠生 ★ 筑摩書房[ちくま文庫] 2024.02.23読了 読んでいるあいだ、ずっと胸がいっぱいで、喜びと苦しさとが一緒くたになったような気持ちになった。儚いけれど心地の良い往復書簡だ。 滝口悠生さんの本だ!と嬉しくなって…

『みどりいせき』大田ステファニー歓人|小説って自由なんだな

『みどりいせき』大田ステファニー歓人 集英社 2024.02.09読了 タイトルも著者の名前も個性的だからひときわ目立つ。第42回すばる文学賞受賞作であることよりも彼の名前を知らしめたのは、その受賞スピーチであろう。「なんかおもしろそうな人が出てきたよ」…

『変な家』雨穴|間取りを見るのは生活を見ること|今売れている本を読むこと

『変な家』雨穴(うけつ) 飛鳥新社 2024.02.07読了 昨年から、どんな書店に行っても目立つところに積み上げられているから、確かに気にはなっていた。けれど、自分が読みたいジャンルの本じゃないと思っていた。それでも、文庫になったからついつい…。朝こ…

『チーム・オルタナティブの冒険』宇野常寛|素直な文章で淡々と独白されるがこれがハマる

『チーム・オルタナティブの冒険』宇野常寛(つねひろ) 集英社 2024.01.17読了 知らない作家の知らない小説を読みたいなと思って書店をうろうろ物色していたら気になった本がこれである。目にしたことはあったような気がするが読んだことがない作者。宇野常…

『日本蒙昧前史』磯﨑憲一郎|あの時代に確かにあった、あんなこと、こんなこと

『日本蒙昧(もうまい)前史』磯﨑憲一郎 文藝春秋[文春文庫] 2024.01.02読了 タイトルにある「蒙昧」とは「暗いこと。転じて、知識が不十分で道理にくらいこと。また、そのさま。(goo辞書より)」という意味である。ということはつまりこの作品は、日本…

『がん消滅の罠 完全寛解の謎』岩木一麻|結局、がんというのは何ものなの?

『がん消滅の罠 完全寛解の謎』岩木一麻 宝島社[宝島社文庫] 2023.12.04読了 副題の一部になっている「寛解(かんかい)」の意味は、医学用語で「がんの症状が軽減したこと」である。つまり、完全寛解とは、がんが完全に消滅して検査値も正常を示す状態の…

『スモールワールズ』一穂ミチ|『世にも奇妙な物語』のようなドラマにぴったり

『スモールワールズ』一穂ミチ 講談社[講談社文庫] 2023.11.24読了 一穂ミチさんの作品は直木賞候補や本屋大賞候補にもなったから、気になっていた作家さんの1人だ。単行本と同じジャケットで、初版限定で特製しおりが挿入されていた(写真で本の上にある…

『武蔵野夫人』大岡昇平|武蔵野の雄大な自然と、登場人物の絶妙な心情の変化を読み解く

『武蔵野夫人』大岡昇平 新潮社[新潮文庫] 2023.8.2読了 武蔵野の雄大な風景が鮮やかに浮かび上がる。武蔵野とは、明確な定義はないものの、多摩川と荒川、埼玉を流れる入間川に囲まれ、東京と埼玉にまたがっている台地(日本地名研究所事務局長・菊地恒雄…

『ミチクサ先生』伊集院静|遠回りになろうとも、多くの経験は無駄にはならない

『ミチクサ先生』上下 伊集院静 講談社[講談社文庫] 2023.7.26読了 ミチクサ先生とは、国民的作家夏目漱石のこと。幼少期から、生家と養家を往来し、学校を何度も変わり、ミチクサをしてきた。ミチクサは、大人になってからも続いた。 勉学も生きることも…

『事件』大岡昇平|公判を重ねるごとに形を変えていく

『事件』大岡昇平 東京創元社[創元推理文庫] 2023.7.14読了 法廷ものを久しぶりに読んだ。来月、WOWOWで椎名桔平さん主演のドラマが放映されるようで、この文庫本のカバーの上に、まるっとカバーがかけられている(全面広告カバーは好きでないので外して写…

『大江健三郎自選短篇』大江健三郎|人間の生きる目的とは。目指すところは「死」

『大江健三郎自選短篇』大江健三郎 岩波書店[岩波文庫] 2023.6.25読了 ポルトガル作家ジョゼ・サラマーゴさんが亡くなった時は国葬だったらしい。どうして大江健三郎さんが亡くなった時には国葬にはならなかったのだろう、とポル語訳者木下眞穂さんは思っ…

『正欲』朝井リョウ|正しさ、多様性、居心地の良さ 不安と葛藤し生きていく

『正欲』朝井リョウ 新潮社[新潮文庫] 2023.6.19読了 自分にとっての「正しさ」とは何だろう。「正しい」といっても、それは全員にとってひとくくりに正しいということではないし、正しさが正解とも限らない。多数派が少数派よりも正しいというわけではな…

『サル化する社会』内田樹|専門分野は独立しているわけではなく全てに繋がっている

『サル化する社会』内田樹 文藝春秋[文春文庫] 2023.6.6読了 内田樹さんが「なんだかよくわからないまえがき」と題している前書きで、今の日本社会では「身のほどを知れ、分際をわきまえろ」という圧力が行き渡りすぎていると言っている。身の程を知れ、と…

『ひとりでカラカサさしてゆく』江國香織|ひとりで生きられるようにすること

『ひとりでカラカサさしてゆく』江國香織 新潮社 2023.5.23読了 高齢の男女3人がホテルの部屋で銃身自殺をした。衝撃的な場面から話は始まるのだが、読んでいる間はずっと穏やかである。亡くなった3人の謎よりも、彼らと繋がりのあった残された人が死に対し…

『朝星夜星』朝井まかて|かつて日本で洋食を広めた人がいた

『朝星夜星』朝井まかて PHP研究所 2023.4.15読了 食べている時の幸せそうな様子を見て気に入ったから、ゆきを嫁に貰ったのだと丈吉は言う。根っからの料理人だから、食べ物で人を喜ばせ、それを直に感じたいのだろう。飲食店に限らないが、消費者の喜ぶ姿を…

『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』小野一光|想像を絶する凄惨な虐待

『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』小野一光 ★ 文藝春秋 2023.4.2読了 この事件は記憶に残っている人が多いだろう。17歳の少女を監禁・傷害したとして中年男女が逮捕されたことから端を発して暴かれた連続殺人事件だ。しかし、あまりにも残忍だっ…

『スター』朝井リョウ|作り手と受け取り手の想い

『スター』朝井リョウ 朝日新聞出版[朝日文庫] 2023.3.28読了 社会人を対象にした「これから始めたい習いごと」の第一位が「動画編集」であると何かのテレビ番組で流れているのを先日見た。一般人でもYouTube、TikTokをはじめとして、世間に自分の意見を自…

『影に対して 母をめぐる物語』遠藤周作|母への愛は大きくなる

『影に対して 母をめぐる物語』遠藤周作 新潮社[新潮文庫] 2023.3.18読了 遠藤周作さん没後、しかも2020年という最近になってから『影に対して』の原稿が発見された。作者自身の略歴をたどればわかるように、実際の体験を元にして母親の郁をイメージにした…

『樋口一葉赤貧日記』伊藤氏貴|底辺の人びとを描く貧困のリアリズム

『樋口一葉赤貧日記』伊藤氏貴 中央公論新社 2023.3.16読了 先日川上未映子さんがTwitterでこの本をおすすめしていた。確か新幹線での移動中で2巡目を読んでいたと思う。川上さんは樋口一葉著『たけくらべ』の口語訳も手掛けているから思い入れも強いはずだ…

『太陽の男 石原慎太郎伝』猪瀬直樹|良きライバルであり良き同志がいた

『太陽の男 石原慎太郎伝』猪瀬直樹 中央公論新社 2023.3.12読了 石原慎太郎さんが亡くなって約1年、元東京都知事で作家の猪瀬直樹さんが石原さんの評伝を執筆した。作家としての石原さんと猪瀬さんは、三島由紀夫さんのことを本に残しているという共通点が…

『この世の喜びよ』井戸川射子|存在感ある文体|芥川賞のこと

『この世の喜びよ』井戸川射子 講談社 2023.1.24読了 去年井戸川射子さんの『ここはとても速い川』を読んでその文才に圧倒され、すぐに『この世の喜びよ』を購入していた。すでに芥川賞にノミネートされており、まだ未読であるのに芥川賞を受賞しそうだなと…

『私の家』青山七恵|自分にとっての家とは

『私の家』青山七恵 集英社[集英社文庫] 2023.1.7読了 身内のお葬式の場面から物語は始まる。普通の生活をしていると滅多に会わない間柄だとしても、こういった席では顔を合わせ意識をする。血の繋がりとは結構不思議なものだ。鏑木家の三代に渡る「家」に…

『君のクイズ』小川哲|多くの読者を獲得しているはず

『君のクイズ』小川哲 朝日新聞出版 2022.12.26読了 メディアに取り上げられたり色々なところで紹介されているから、小川哲さん史上一番売れているのではないか。こんなに宣伝しなくても、小川さんの作品なら読むのに!って思う。『ゲームの王国』で心を鷲掴…

『ここはとても速い川』井戸川射子|文体から立ち昇るもの悲しさ

『ここはとても速い川』井戸川射子 ★ 講談社[講談社文庫] 2022.12.25読了 井戸川射子さんは、小説家というよりも詩人として紹介されることが多い。その彼女が、この作品で選考委員満場一致で第43回野間文芸新人賞を受賞したということで、単行本刊行時から…

『夢も見ずに眠った。』絲山秋子|夫婦の関係とは。しみじみと余韻が残る作品。

『夢も見ずに眠った。』絲山秋子 河出書房新社[河出文庫] 2022.11.24読了 日本の至る所を旅しているような、いや再び訪れて懐かしむような気分になったといったほうがいいだろうか。岡山県・倉敷、岩手県・盛岡、島根県・松島、北海道・札幌は旅で訪れたこ…