書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(あ行の作家)

『天才』石原慎太郎|鋭い先見の明で日本を立て直す|そして、絶筆

『天才』石原慎太郎 幻冬社[幻冬舎文庫] 2022.5.22読了 大物になる人物は得てしてそうであるが、子供の頃の角栄さんも飛び抜けて頭が良く、小さいうちから物事の道理をわきまえ、根回しといったものを自然と覚え骨肉としていった。 何がすごいって、角栄さ…

『大鞠家殺人事件』芦辺拓|滑稽に語られる大阪船場の物語

『大鞠家殺人事件』芦辺拓 東京創元社 2022.5.21読了 既に多くの作品を出しているようなのに初めて名前を知った作家さんだ。この作品で日本推理作家協会賞を受賞されたと知り、思わず衝動買いしてしまった。わかりやすくベタなタイトルに意外とオーソドック…

『かか』宇佐見りん|この感性とこの文体が訴えかけてくる

『かか』宇佐見りん 河出書房新社[河出文庫] 2022.5.19読了 冒頭からはっとする。この感性はどうしたものだろう。この文体はどこから湧き出るのだろう。女性にしかわからないであろう、金魚と見紛うその正体は大人の女性になったと実感するものである。 読…

『世界地図の下書き』朝井リョウ|身体と心、一番成長する時期にどう生きるか

『世界地図の下書き』朝井リョウ 集英社[集英社文庫] 2022.4.21読了 久しぶりに朝井リョウさんの小説を読んだ。もしかすると直木賞受賞作『何者』以来かもしれない。私の中で朝井さんは、小説界の「時代の寵児」というイメージだ。 両親を事故で亡くし、児…

『最果てアーケード』小川洋子|余韻を楽しめ、優しい気持ちになれる

『最果てアーケード』小川洋子 講談社[講談社文庫] 2022.3.22読了 ほんの数ページ読んだだけで、小川洋子さんの書く可憐で美しい、そして儚げな文体に落ち着きを感じる。心にストンと落ちていく。ゆっくりと、一つ一つの文章を噛み締めながら読んでいく。 …

『弟』石原慎太郎|唯一無二のかけがえのない存在

『弟』石原慎太郎 ★ 幻冬舎[幻冬舎文庫] 2022.3.9読了 私が物心ついた頃に石原裕次郎さんは活躍していたはずなのに記憶にない。報道番組で流れる昔の映像でしか私の中で裕次郎像はない。裕次郎さんの映画も1作も観たことはない。慎太郎さんはどうかと言え…

『食卓のない家』円地文子|家族とは、個人とは

『食卓のない家』円地文子 ★ 中央公論新社[中公文庫] 2022.3.2読了 あさま山荘事件からちょうど50年なのか。この本を読み始めた夜、たまたまテレビの報道番組で映像が流れていたから驚いた。なるほど、だからこの作品が文庫本で装い新たに刊行されたのだ。…

『太陽の季節』石原慎太郎|回想の使い方が絶妙

『太陽の季節』石原慎太郎 新潮文庫 2022.2.14読了 今月の初め、石原慎太郎さんご逝去のニュースが日本中を駆け巡った。昭和・平成を代表する偉人がまた1人、この世を去った。私のなかで石原慎太郎さんは政治家、ことに東京都知事の印象しかない。作家である…

『ボダ子』赤松利市|こすい人間、でも気になる。これ、なんなん!

『ボダ子』赤松利市 新潮文庫 2022.2.3読了 ボーダーとは境界性人格障害と呼ばれる深刻な精神障害で、それは成長とともに軽快する障害だが、その一方で、成人までの自殺率が十パーセントを超えるという。(7頁) その、ボーダーだから『ボダ子』である。作品…

『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬|狙撃兵の境地とは、真の敵とは

『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬 早川書房 2022.1.15読了 選考委員満場一致(しかも満票)で去年のアガサ・クリスティー賞を受賞した本作品。単行本が刊行される前から話題になっていたので、私も楽しみにしていた。これが逢坂冬馬さんのデビュー作で、な…

『残月記』小田雅久仁|独特な世界観に魅せられる

『残月記』小田雅久仁 双葉社 2022.1.5読了 月の見方が変わってしまった。この本には、月にまつわる3つの中短編が収められている。巧みなストーリーテリングに感服し、本から立ち昇る不気味な様子がたまらない。こんな小説を書く人がいたなんて。小田雅久仁…

『昭和の名短篇』荒川洋治編|良質な日本語で書かれた純文学

『昭和の名短篇』荒川洋治編 中公文庫 2021.12.11読了 昭和の文豪14人の短篇が収められた中公文庫オリジナルの短編集が先日刊行された。名だたる作家ぞろいなのだろうが、半分くらいしか知らなかった。 印象に残った作品は下記の3つだ。 『萩のもんかきや』…

『たそがれてゆく子さん』伊藤比呂美|老い先の指南書

『たそがれてゆく子さん』伊藤比呂美 中公文庫 2021.12.8読了 書店に『ショローの女』という本が新刊で積み上げられているのを目にした。ショローって、初老だよなぁ。初老は、今はだいたい50〜60歳くらいを指すようだが、平均寿命がまだ低かった昔は40歳を…

『平場の月』朝倉かすみ|口調だけで年齢はわからない

『平場の月』朝倉かすみ 光文社文庫 2021.11.20読了 大人の恋愛小説と謳われているこの作品、50歳の中年男女を主人公にした小説である。かつての同級生と再会し、この年齢でこんな関係になるなんてなかなかないだろうと思いながら読み進めた。決してドロドロ…

『ゴリラの森、言葉の海』山極寿一 小川洋子|因果という考えを持たないゴリラ

『ゴリラの森、言葉の海』山極寿一 小川洋子 新潮文庫 2021.11.16読了 霊長類学者の山極寿一(やまぎわじゅいち)さんと、小説家小川洋子さんの対談集である。なんと、ゴリラにまつわるもの。猿好きとしてはもちろんたまらない。山極先生は、ゴリラ研究の第…

『雲上雲下』朝井まかて|古くから伝わる民話の復興を

『雲上雲下(うんじょううんげ)』朝井まかて 徳間文庫 2021.11.13読了 子供の頃にテレビで観た「まんが日本昔ばなし」を思い出した。必ずあのテーマ曲とセットだ。「ぼうや~ 良い子だ ねんねしな」という歌声とともに、竜に乗った男の子が画面いっぱいにな…

『叫び声』大江健三郎|青春時代の難所

『叫び声』大江健三郎 講談社文芸文庫 2021.11.8読了 悩み大き青春の時代を歩む若者にこの本を読んで欲しい、そして人生の最初の難所を克服する助けとなれば、という思いで大江さんはこの小説を書いたそうだ。でも、若者でこの作品が理解できる人はそうそう…

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼|話題作は気になりますね

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼 講談社文庫 2021.10.9読了 単行本が刊行された2年前、かなり話題になっていたのも知っていたが、私は読まないだろうと思っていた。美少女チックな表紙のイラスト、城塚翡翠(じょうづかひすい)なんていうキラキラネー…

『満潮の時刻』遠藤周作|入院生活でみえてくるもの

『満潮の時刻』遠藤周作 新潮文庫 2021.9.24読了 久しぶりに遠藤周作さんの小説を読んだ。この作品は没後2年してから上梓されたようで、長編であるのにあまり有名ではない。作品の中にある欠点(時間経過がそぐわない箇所がある等の違和感程度)を補ってから…

『生き物の死にざま』稲垣栄洋|自然界を懸命に生きる

『生き物の死にざま』稲垣栄洋 草思社 2021.9.2読了 先日、家の中に入り込んできた蚊を掃除機で吸い込んだ。なかなか叩くチャンスがなく(本当は潰したくないけど家にいるのが気になる)、天井付近にいたのをなんとか仕留めた。蚊は掃除機の中で息絶えると思…

『黒い雨』井伏鱒二|被爆してもなお日常を生きる

『黒い雨』井伏鱒二 新潮文庫 2021.8.12読了 井伏鱒二さんの『山椒魚』は高校の現代文の教科書に載っていると言われているが、私は学んだ記憶がない。教科書の種類が違ったのか、時代が違ったのか。そもそも小中学校とは違って、高校では先生の好みで教科書…

『ブラック・チェンバー・ミュージック』阿部和重|エンタメ感満載|オリンピック卓球女子、文学的解説者のこと

『ブラック・チェンバー・ミュージック』阿部和重 毎日新聞出版 2021.7.29読了 待ってました、阿部和重さん!新刊が出ると必ず読んでいる作家の1人。阿部和重さんと川上未映子さんのご夫婦は最強すぎる。今回の本は毎日新聞出版からということで珍しいと思っ…

『貝に続く場所にて』石沢麻依|大切なものを失ってもなお

『貝に続く場所にて』石沢麻依 ☆ 講談社 2021.7.25読了 先日、第165回芥川賞・直木賞が発表された。ついこの間『推し、燃ゆ』で宇佐見りんさんが盛り上がっていたのに、もう半年経ったのか。個人的には年に1回でいいと思うのだけど、出版業界を盛り上げてい…

『夜の側に立つ』小野寺史宜|スマートな会話が心地よい

『夜の側に立つ』小野寺史宜 新潮文庫 2021.7.18読了 書店で本を見かけることがあるので名前は知っていたが小野寺史宜さんの小説を読むのは初めてだ。過去に本屋大賞にノミネートされたのは『ひと』という作品である。たまたま文庫の新刊が目に止まり、本作…

『星月夜』伊集院静|推理小説かなぁ?|大谷翔平選手は日本の星!

『星月夜』伊集院静 文春文庫 2021.7.13読了 星月夜(ほしづきよ)と聞くと、私はフィンセント・ファン・ゴッホ作の絵画を思い浮かべてしまう。現実にあるような星空ではなく、油絵の具を塗りたくった肉厚の空と大きな星たち。でもこの作品を読んだ後に思う…

『椿の海の記』石牟礼道子|この文体は大自然の中から生まれた

『椿の海の記』石牟礼道子 河出文庫 2021.7.1読了 文庫本の表紙カバーに描かれた画は別の方の作品であるが、頁をめくったところにある装画は石牟礼道子さん作とある。石牟礼さん、絵も描いていたんだ。ふくよかな葉っぱをつけた椿の、なかなか素敵な趣である…

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳|在日韓国人について考える

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳(イ・ヨンドク) 河出書房新社 2021.3.1読了 なかなか衝撃的なタイトルである。竹槍で突き殺すなんて、いったいどんな戦いが始まるのかと身構えてしまうが、これは「ヘイトクライム」を扱ったディストピア小説だ。…

『街場の天皇論』内田樹|天皇制について考えてみよう

『街場の天皇論』内田樹 文春文庫 2021.2.19読了 2016年8月、当時の天皇陛下が「おことば」を述べられた。著者の内田樹さんは、陛下の「おことば」は、日本人が天皇制について根源的に考えるための絶好の機会を提供してくれたものと感謝の気持ちを以て受け止…

『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東浩紀|失敗力をいかす

『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東浩紀 中公新書 2021.2.13読了 多くの方がこの本を紹介され、かつ絶賛されているため、私も気になり読んでみた。「ゲンロン」という思想誌や「ゲンロンカフェ」という企画が存在することは知っていたが何をやっている…

『推し、燃ゆ』宇佐見りん|若い才能花開け|本を自分で選ぶ楽しさ

『推し、燃ゆ』宇佐見りん 河出書房新社 2021.1.29読了 1月20日に芥川賞受賞作が発表されてからしばらくは書店から姿を消していた。ノミネート時から有力候補となっていた宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』である。宇佐見さんについては、デビュー作『かか』を…