国内(あ行の作家)
『ポーの話』いしいしんじ 新潮社[新潮文庫] 2025.12.11読了 胸の奥をぎゅぎゅっと締め付けられるような、どうしてか切なくて、少し苦しいような気持ちになる。いしいしんじさんの作品はみんなこうなのだろうか。 社会で疎外されているような人たち、今で…
『ものごころ』小山田浩子 文藝春秋 2025.12.06読了 今年の2月に新刊で発売されていた短編集だ。年内には読み終えたいと思っていてようやく。物心がついたときから…という文章でしか「ものごころ」という単語を使ったことがなく、他の文でも見たこともない気…
『リバー』上下 奥田英朗 集英社[集英社文庫] 2025.11.06読了 奥田英朗さんの本を6年ぶり位に読んだ。圧巻のストーリーテリングと優れたリーダビリティで上下2巻にも関わらずあっという間に読み終えた。 10年前に起きた未解決事件と酷似した事件が起きた。…
『蒼き狼』井上靖 新潮社[新潮文庫] 2025.10.23読了 井上靖さんの歴史モノを読むのは初めてである。いくつか名作はあるようだが、今年の6月に百田尚樹さんの『モンゴル人の物語』1巻を読んでチンギス・カンの人生に感銘を受けた(1巻はカンが40歳になった…
『作文』小山田浩子 U-NEXT[ハンドレッド ミニッツ ノヴェラ]2025.10.05読了 千本(せんぼん)けいすけという小学生の男の子の作文から始まる。小学校で、家族や親戚から戦争体験を聞き作文にして書くという課題。けいすけの祖父は話をしてくれなかったか…
『針女(しんみょう)』有吉佐和子 河出書房新社[河出文庫] 2025.08.13読了 戦時下、千人針を必死になって完成させる。千人針というのは戦地に赴く兵士に捧げるお守りのようなものである。もう、祈るしかないのよ。弘一のために健気に走り回る一途な清子の…
『大相撲 名伯楽の極意』九代 伊勢ヶ濱正也(元横綱旭富士) 文藝春秋[文春新書] 2025.08.05読了 少し前までは相撲に全く興味がなかった。横綱が一番強くて大関、関脇、小結の三役がいることは知っていたけれど、番付がどのように決まるのかはもちろん、横…
『ババヤガの夜』王谷晶 河出書房新社[河出文庫] 2025.08.04読了 英国の伝統あるダガー賞を受賞し、そのスピーチでの王谷さんはクールでかなりイカしてた。海外ではそんなに目立たないかもしれないが日本にいたらひときわ目立つ個性的な姿。ともかく彼女は…
『つるかめ助産院』小川糸 集英社[集英社文庫] 2025.07.28読了 突然の夫の失踪になすすべもなく落ち込んでいた小野寺まりあは、かつて夫と訪れた南の島に旅に出た。そこで出会ったつるかめ助産院の先生や笑顔あふれる人たちとの交流を通して、まりあは生き…
『夏草冬濤(なつぐさふゆなみ)』上下 井上靖 新潮社[新潮文庫] 2025.07.13読了 前作『しろばんば』では1頁めから「しろばんば」という言葉が出てきた。今作も1頁めから「ナンガレ」という耳慣れない言葉が紙面に踊り出し、読む者の興味を惹きつける。冒…
『金環日蝕』阿部暁子 東京創元社[創元推理文庫] 2025.06.21読了 パトローネってなんのことか最初わからなかった(クリスマスに食べるパネトーネと勘違い!)けれど、ググってみて納得。見かけたことがあるものだった。昔はカメラを持っていたし、これを持…
『夜の道標(どうひょう)』芦沢央 中央公論新社[中公文庫] 2025.05.16読了 さくさくと読みやすい。ストレスなく自然体で読み進められて「これは多くの人に読まれるだけあるな」と納得した。作品のジャンルからも連想するのか、柚木裕子さんが書くものに近…
『庭』小山田浩子 新潮社[新潮文庫] 2025.04.16読了 昨年の12月に小山田さんの作品と衝撃的に出会い、もうかれこれ4冊目になる。この本には短い短編が15作収められている。タイトルに「庭」という単語が入る作品が2作ある。私は庭がある家に住んだことがな…
『遠慮深いうたた寝』小川洋子 河出書房新社[河出文庫] 2025.04.02読了 タイトルの「遠慮深い」をてっきり「思慮深い」だと勘違いしていた。全く異なる意味なのに、漢字が似ているだけで思い込みがひどい…。確かにうたた寝に「思慮深い」なんてないよな、…
『穴』小山田浩子 新潮社[新潮文庫] 2025.03.16読了 癖になる小山田さんの小説。本当はこの『穴』から読めばよかったのかもしれない。というのも、この作品で芥川賞を受賞されたからだ。別に芥川賞作がその作者の傑作だとかすべてが自分に合っているかなん…
『ブロッコリー・レボリューション』岡田利規 新潮社[新潮文庫] 2025.02.23読了 なんだかガムを噛んでるみたいだった。というちょっと変わった感想だが本当にそうなのだ。読み終えたら口の中が俄然スカッとする。 この本には、三島由紀夫賞を受賞した表題…
『デートピア』安堂ホセ 河出書房新社 2025.02.02読了 さて、ホットな一冊を。先日発表された第172回芥川賞受賞作2作のうち安堂ホセさんのほうを読んだ。『ジャクソンひとり』が候補作になっていたときから確かに気になってはいた。芥川賞候補作になったのも…
『燃えつきた地図』安部公房 新潮社[新潮文庫] 2025.01.27読了 安部公房さんの本を読むのは『砂の女』『けものたちは故郷をめざす』に次いでおそらく3冊目である。今までの2作は自分にはそんなに合わなかったのか、読解力不足故か私にはあまり良さがわから…
『工場』小山田浩子 新潮社[新潮文庫] 2025.01.03読了 先月読んだ小山田浩子さんの『最近』があまりにも好みだったので、さっそく2冊目を。これは表題作を含めた中短編3作がまとめられた本である。表題作『工場』は、新潮新人賞と織田作之助賞を受賞してい…
『氷壁』井上靖 ★ 新潮社[新潮文庫] 2024.12.19読了 先月井上靖さんの『しろばんば』を読んで、文豪のとてつもない力量に打ち震えた。続編の『夏草冬濤』を準備してはいるがなんとなく今は少年の気持ちに寄り添う気分ではないのか、大人が主人公のこの作品…
『最近』小山田浩子 ★ 新潮社 2024.12.07読了 元々文芸誌に掲載されていた短編が束になり連作短編集になったもの。タイトルの『最近』という作品があるわけではない。最近というのは、2011年の冬から2023年の秋頃までの間、つまりつい最近の出来事が書かれた…
『海と毒薬』遠藤周作 新潮社[新潮文庫] 2024.11.26読了 言わずと知れた遠藤周作さんの名作である。新潮文庫の夏のフェアが好き(もう冬だけど!)で、というかフェアというよりも購入すると毎年ついてくるステンドグラス風の栞が好みなんだよなぁ。この『…
『猟銃・闘牛』井上靖 新潮社[新潮文庫] 2024.11.11読了 先日井上靖さんの『しろばんば』を読み、その類まれなる物語性と文章に心を奪われたので早速初期の作品を読んだ。 『猟銃』 これは井上さんの処女作で佐藤春夫さんが絶賛した小説である。これが初め…
『しろばんば』井上靖 ★ 新潮社[新潮文庫] 2024.11.05読了 土蔵造りの家に住む洪作は、おぬい婆さんと二人暮らしである。伊豆の湯ヶ島という田舎町で、5歳からの幼少期を過ごした洪作の少年期の心の動きや成長が丁寧に情感たっぷりに書かれた作品である。…
『虚史のリズム』奥泉光 集英社 2024.10.14読了 いやー、長かった!感想がどうこうよりも、今はもうこれを読み終えたという達成感が大きい。一冊の本としては、読了するのに今年一番時間がかかったような気がする。よく読み通したと少しばかり自分を褒めたい…
『母の待つ里』浅田次郎 新潮社[新潮文庫] 2024.09.28読了 ある外資系サービス会社が提供するプレミアムクラブ・メンバー限定の顧客サービス、それが故郷を擬似体験するというものである。還暦近い3人の男女がこのサービスを受ける。 最初は「変な話だなぁ…
『海峡 海峡幼年篇』『春雷 海峡少年篇』『岬へ 海峡青春篇』伊集院静 新潮社[新潮文庫] 2024.09.21読了 伊集院静さん追悼の帯がかけられて重版されていた。表紙のタイトルの文字は伊集院さん自ら筆を取った字のようで、なんと達筆で多才な方よと思う。伊…
『サンショウウオの四十九日』朝比奈秋 新潮社 2024.08.18読了 先日第171回芥川賞を受賞した作品である。朝比奈秋さんの名前は何度か目にしており『植物少女』という小説家が何かのテレビ番組で紹介されているのを見てとても気になっていた。 結合双生児とし…
『フルトラッキング・プリンセサイザ』池谷和浩 書肆侃侃房 2024.07.06読了 タイトルの意味もよくわからないし、ことばと新人賞なるものも知らないし、著者の名前も初めて見る。それなのに手にしたのは、帯の滝口悠生さんの名前のせいだ。どんなものであれ彼…
『女の一生』一部・キクの場合 二部・サチ子の場合 遠藤周作 ★★ 新潮社[新潮文庫] 2024.06.25読了 遠藤周作さんが長崎を舞台にして書いた大河長編小説である。『女の一生』というとモーパッサンが思い浮かぶ(まだ読んでいないよな…)。この本は遠藤周作氏…