2024-01-01から1年間の記事一覧
『氷壁』井上靖 ★ 新潮社[新潮文庫] 2024.12.19読了 先月井上靖さんの『しろばんば』を読んで、文豪のとてつもない力量に打ち震えた。続編の『夏草冬濤』を準備してはいるがなんとなく今は少年の気持ちに寄り添う気分ではないのか、大人が主人公のこの作品…
『結婚式のメンバー』カーソン・マッカラーズ 村上春樹/訳 新潮社[新潮文庫] 2024.12.16読了 マッカラーズの小説を読むのは、同じく村上春樹さんが訳した『心は孤独な狩人』に続いて2作目だ。 兄の結婚式を控えたフランキーは「気の触れた夏」を過ごした…
『死神』田中慎弥 朝日新聞出版 2024.12.14読了 初めて見た時、まるで中村文則さんの小説タイトルみたいだなと思った。内容も近しいものがある。でも読み進めるうちに間違いなく田中慎弥さんが息づいていた。今までの作品に比べるとかなりポップだ。死神とい…
『テス』上下 トマス・ハーディ 井出弘之/訳 筑摩書房[ちくま文庫] 2024.12.12読了 悲劇というものは否応なく襲いかかる。不幸があればその後には幸せが来るとか人生は良いときと悪い時がちゃんとある、なんてよく言われるけれど、全然平等じゃあない。悪…
『李王家の縁談』林真理子 文藝春秋[文春文庫] 2024.12.08読了 皇室の結婚事情が書かれた小説である。なかなか日本の皇室を題材にした小説というのはない(書きにくいだろうしな〜)と思っていたら、解説を読んで過去に『美智子さま』という小説が刊行され…
『最近』小山田浩子 ★ 新潮社 2024.12.07読了 元々文芸誌に掲載されていた短編が束になり連作短編集になったもの。タイトルの『最近』という作品があるわけではない。最近というのは、2011年の冬から2023年の秋頃までの間、つまりつい最近の出来事が書かれた…
『地面師たち』新庄耕 集英社[集英社文庫] 2024.12.04読了 特に読むつもりはなかったのだけど、知人からこの続編の単行本を貰って、せっかくならと最初から読むことにしたのだ。Netflixで絶賛されているのは知っていた。てか、最近のネトフリはすごいみた…
『鍵のかかった部屋』ポール・オースター 柴田元幸/訳 白水社[白水Uブックス] 2024.12.02読了 ついに刊行されたオースター最大の長編小説『4321』だが、もうしばらく部屋に寝かせておくことにする。先日、柴田元幸さんのトークイベントに参加して色々なお…
『若草物語』ルイーザ・メイ・オルコット 小山太一/訳 新潮社[新潮文庫] 2024.11.30読了 ブラックフライデーで翌日まで20%オフとあったから、いそいそと洋服を見に行ったら素敵な緑色のセーターがあった。ちょうど声をかけてきたスタッフに「色が素敵です…
『シンコ・エスキーナス街の罠』マリオ・バルガス=リョサ 田村さと子/訳 河出書房新社 2024.11.28読了 ペルー・リマを舞台とした現代小説で、リョサさんの作品の中ではかなり(というか一番)読みやすい部類に入る。 シンコ・エスキーナス街は、至る所で強…
『海と毒薬』遠藤周作 新潮社[新潮文庫] 2024.11.26読了 言わずと知れた遠藤周作さんの名作である。新潮文庫の夏のフェアが好き(もう冬だけど!)で、というかフェアというよりも購入すると毎年ついてくるステンドグラス風の栞が好みなんだよなぁ。この『…
『逝きし世の面影』渡辺京二 平凡社[平凡社ライブラリー] 2024.11.25読了 名著と言われているからいつか読もうと思っていた本である。この作品の『逝きし世の面影』というタイトルのなんと素晴らしいことだろう。そもそも「面影」という言葉自体に憂いがあ…
『大使とその妻』上下 水村美苗 ★★ 新潮社 2024.11.19読了 なんて美しい物語だろう。最後の数頁は、雑音を抹消して(流れていただけのテレビを消したり深呼吸したりとか)静寂の中じっくりと。読み終えた今、この余韻を深く深く味わっており、彼らだけでなく…
『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』山本文緒 新潮社[新潮文庫] 2024.11.17読了 山本文緒さんは2021年4月にステージ4の膵臓がんと診断された。抗がん剤治療は受けずに緩和ケアを選び、翌5月から書き始めた日記がこの作品である。余命4ヶ月と医者…
『魂に秩序を』マット・ラフ 浜野アキオ/訳 新潮社[新潮文庫] 2024.11.15読了 最初はよくわからなかった。語り手アンドルーの周りには、家族のような自分に近しい人たちが常にいる(というか見守っている)。でも実はそれは多重人格のそれぞれの人格であ…
『猟銃・闘牛』井上靖 新潮社[新潮文庫] 2024.11.11読了 先日井上靖さんの『しろばんば』を読み、その類まれなる物語性と文章に心を奪われたので早速初期の作品を読んだ。 『猟銃』 これは井上さんの処女作で佐藤春夫さんが絶賛した小説である。これが初め…
『富士山』平野啓一郎 新潮社 2024.11.09読了 普段短編集を単行本で買うことはあまりないのだけれど、一部のお気に入りの作家のものは手に入れる。つまり、平野啓一郎さんもお気に入りに入っているということ。手元に置きたいと言うよりも、文庫になるのを待…
『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』メイソン・カリー 金原瑞人、石田文子/訳 フィルムアート社 2024.11.09読了 あまりにも物語世界に浸り続けると疲れてしまうので、ちょっと休憩してエッセイを読んだ。少し前にX…
『敵』筒井康隆 新潮社[新潮文庫] 2024.11.07読了 75歳の独居老人渡辺儀助のとりとめもない独白が続く。住んでいる家がどうとか、預貯金やら、老臭やら、身の周りのものなど自身の想いがつらつらと、滑稽な語りで綴られる。長編小説というくくりになってい…
『しろばんば』井上靖 ★ 新潮社[新潮文庫] 2024.11.05読了 土蔵造りの家に住む洪作は、おぬい婆さんと二人暮らしである。伊豆の湯ヶ島という田舎町で、5歳からの幼少期を過ごした洪作の少年期の心の動きや成長が丁寧に情感たっぷりに書かれた作品である。…
『三つ編み』レティシア・コロンバニ 齋藤可津子/訳 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2024.11.02読了 私は今までの人生のほとんどをショートヘアで過ごしてきた。長くしていた時でも、やっと結えるくらいの長さ。だから、表紙のイラストのようないわゆるお下げ…
『パンとサーカス』島田雅彦 講談社[講談社文庫] 2024.10.31読了 中国やインドが、どれだけ人口を増やそうが産業により目覚ましい発展をしたとしても、日本の目標でありかつ敵であるのは大国アメリカだと思う。数多ある国のうち、意識しているのは常にアメ…
『フォース・ウィング 第四騎竜団の戦姫』上下 レベッカ・ヤロス 原島文世/訳 早川書房 2024.10.27読了 騎手科に入るためにまずは細い不安定な橋を渡り切らなければならない。落ちたら即死だ。実際に毎年何人かの死者が出る。橋の手前でこれから友になりそ…
『ナチュラルボーンチキン』金原ひとみ ★★ 河出書房新社 2024.10.23読了 なにこれ、めちゃくちゃ好き。わかりみが強すぎる。 まさかさんが優しすぎて、おいおい泣きたくなる。 主人公の文乃みたいな人、日本にはたくさんいるだろうなと思う。年齢が近いから…
『死者は嘘をつかない』スティーヴン・キング 土屋晃/訳 文藝春秋[文春文庫] 2024.10.22読了 この作品は、キングお得意の幽霊ものでホラー要素満載だ。キングの初期作品に原点回帰したようで、ストーリーもなかなか良かった。とはいえ米国で2021年に刊行…
『雪の花』吉村昭 新潮社[新潮文庫] 2024.10.18読了 私が天然痘という病を初めて知ったのは、池田理代子作の漫画『ベルサイユのばら』を子供の時に読んだ時である。時の王ルイ16世だっただろうか、天然痘にかかり顔に吹き出物が表れた姿は画とはいえど印象…
『弟、去りし日に』R・J・エロリー 吉野弘人/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2024.10.17読了 原作のタイトルは『The Last Highway』であるから、随分と飛躍している邦題だなと思った。弟の訃報を知ったときにヴィクターはハイウェイ(高速道路)に眼をやり…
『あのころなにしてた?』綿矢りさ 新潮社[新潮文庫] 2024.10.14読了 タイトルにある「あのころ」というのは新型コロナウイルスの感染が猛威をふるい始めた2020年のこと。4年前、私自身はどうしていたかなぁ。2月に個人的なことで初めての手術と入院があっ…
『虚史のリズム』奥泉光 集英社 2024.10.14読了 いやー、長かった!感想がどうこうよりも、今はもうこれを読み終えたという達成感が大きい。一冊の本としては、読了するのに今年一番時間がかかったような気がする。よく読み通したと少しばかり自分を褒めたい…
『灯台へ』ヴァージニア・ウルフ 鴻巣友季子/訳 新潮社[新潮文庫] 2024.10.05読了 ストーリー自体は特になくて、ただただひたすらに心理的な描写が続いていく。お世辞にも物語としておもしろいとは言えないのに、どうしてこんなにも魅了されるのだろう。…