書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

◇小説

『自転車泥棒』呉明益|心を込めて修理し、大切に使われるモノ

『自転車泥棒』呉明益 天野健太郎/訳 文春文庫 2021.10.21読了 台湾の情景を想像すると、なぜか懐かしく感じる。一度しか行ったことがないのに何故「懐かしさ」を感じるのだろうか。おそらく過去に台湾を舞台にした小説を読みそう感じたのだろう。台湾の歴…

『リトル・シスター』レイモンド・チャンドラー|マーロウ、余裕がないぞ|突然の山本文緒さんの訃報

『リトル・シスター』レイモンド・チャンドラー 村上春樹/訳 ハヤカワ文庫 2021.10.18読了 雑誌『BRUTUS』とても売れているみたい。それもそのはず、村上春樹さんの特集が組まれているから。やっぱり彼の人気は改めてものすごい。村上主義者(本人はハルキ…

『さよなら、ニルヴァーナ』窪美澄|人間の中身を見たい

『さよなら、ニルヴァーナ』窪美澄 文春文庫 2021.10.16読了 衝撃を受けた事件といえば、私の中ではオウム真理教による地下鉄サリン事件、4人の幼児・幼女を誘拐し殺人した宮崎勤事件、そして、神戸児童連続殺傷事件である。子供を殺し首を小学校の門に置い…

『狭き門』ジッド|宗教的信念を貫くアリサ

『狭き門』アンドレ・ジッド 中条省平・中条志穂/訳 光文社古典新訳文庫 2021.10.14読了 聖書・マタイによる福音書七章抜粋 狭き門より入れ、滅びにいたる門は大きく、その路は広く、これより入る者おほし。生命にいたる門は狭く、その路は細く、これを見出…

『長い一日』滝口悠生|断片的な知識やエピソードが息づいている

『長い一日』滝口悠生 ★ 講談社 2021.10.12読了 これは私小説になるのだろうか。日記のようなエッセイのような。語り手が個人事業主、青山七恵さんや柴崎友香さんが登場、極め付けは滝口さんと呼ばれている箇所を読んだこと。いや、これはもう滝口悠生さん本…

『狼王ロボ シートン動物記』シートン|動物たちも感情豊かに生き抜くのだ

『狼王ロボ シートン動物記』シートン 藤原英司/訳 集英社文庫 2021.10.10読了 子供の頃に夢中になって読んだ『シートン動物記』と『ファーブル昆虫記』。全巻揃えたのか図書館で借りて読んだのかは覚えていないけれど、動物や昆虫など生き物について学ぶの…

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼|話題作は気になりますね

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼 講談社文庫 2021.10.9読了 単行本が刊行された2年前、かなり話題になっていたのも知っていたが、私は読まないだろうと思っていた。美少女チックな表紙のイラスト、城塚翡翠(じょうづかひすい)なんていうキラキラネー…

『ソラリス』スタニスワフ・レム|3つの問題意識を読み解けるか

『ソラリス』スタニスワフ・レム 沼野充義/訳 ハヤカワ文庫 2021.10.6読了 今年はポーランドの作家スタニスワフ・レムの生誕100年になるという。先月、国書刊行会から『インヴィンシブル 』が新訳で単行本として刊行され、かなり売れているというから、日本…

『旅する練習』乗代雄介|好きなものと一緒に生きる

『旅する練習』乗代雄介 講談社 2021.10.1読了 中学受験を終えた亜美と、小説家の叔父さん(作品の中で語り手のわたし)は、コロナ禍の中ではあるが旅に出る。それも、千葉から利根川沿いを歩き、埼玉の鹿島アントラーズの本拠地スタジアムに向かうというも…

『螢川・泥の河』宮本輝|のちの大作へとつながる

『螢川・泥の河』宮本輝 新潮文庫 2021.9.29読了 先日、宮本輝さんの大河大作『流転の海』全9部作を読み、えらく感動した。まだ川三部作を読んでいなかったので、この機会に読むことにした。全てが1冊にまとまったものがちくま文庫から刊行されていたのを知…

『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン|彩りに満ちた老探偵たちとともに

『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン 羽田詩津子/訳 ★★ ハヤカワポケットミステリー 2021.9.27読了 この小説、刊行前から結構話題になっていたので、私も気になってついつい購入した。アガサ・クリスティー著『火曜殺人クラブ』はまだ未読だけれど、ミ…

『満潮の時刻』遠藤周作|入院生活でみえてくるもの

『満潮の時刻』遠藤周作 新潮文庫 2021.9.24読了 久しぶりに遠藤周作さんの小説を読んだ。この作品は没後2年してから上梓されたようで、長編であるのにあまり有名ではない。作品の中にある欠点(時間経過がそぐわない箇所がある等の違和感程度)を補ってから…

『トム・ソーヤーの冒険』マーク・トウェイン|子どもの心と行動

『トム・ソーヤーの冒険』マーク・トウェイン 土屋京子/訳 光文社古典新訳文庫 2021.9.23読了 誰もがこの少年の名前は知っているだろう。私は子供の頃に本を読んだことがあり、いかだに乗っているシーンとペンキ塗りのシーンだけは記憶にあった。 トムはい…

『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子|もやもやとした大学生と社会人のはざま

『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子 ★ ちくま文庫 2021.9.20読了 なかなか良いタイトルである。本谷有希子さんの作品にありそう。「そいつら」というのが特にいい。津村さんの小説はタイトルのセンスがひときわ抜きん出ていて、読む前から気になり手…

『はつ恋』ツルゲーネフ|初恋なのに冷静さがある

『はつ恋』ツルゲーネフ 神西清/訳 新潮文庫 2021.9.19読了 小説の中での初恋の相手は、ほぼ100%美男もしくは美女である。若い頃には内面から人をみることが出来ず、まずは外面から入るから仕方のないことだとは思うけれど、容姿が普通以下という場合がない…

『流転の海』宮本輝|人間の宿命|なにがどうなろうと、たいしたことはありゃあせん

『流転の海』第一部〜第九部 宮本輝 ★★ 新潮文庫 2021.9.18読了 宮本輝さんの大河大作『流転の海』全9部作を読み終えた。単行本が都度刊行されている時から気になっていたが、あと少しと辛抱して文庫本が揃うまで待っていたのだ。今年の春、ようやく第九部『…

『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー|1番有名な作品

『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー 青木久惠/訳 ハヤカワ文庫 2021.9.4読了 クリスティーさんの作品ではおそらく1番有名なのではないだろうか。例え読んだことがなくても、タイトルだけは知っているはずだ。各国で映画化ドラマ化され、オマー…

『トリニティ』窪美澄|何かを捨ててより良いものを拾って生きる

『トリニティ』窪美澄 ★ 新潮文庫 2021.9.1読了 トリニティとは、キリスト教でいう三位一体のことだ。三角形に表してバランスを保つような図をたまに見るような気がする。昔仕事でトリニティをサブタイトルにした商品を売ったことを思い出した。この作品では…

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木紫乃|程よい距離感がちょうどいい

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木紫乃 角川書店 2021.8.29読了 タイトルが表している通り、「俺」を含めた4人が登場する小説である。桜木紫乃さんの作品は、ストーリーがしっかりしていて、いつどんな時でも(忙しくても時間がなくても多少疲れ…

『ロデリック・ハドソン』ヘンリー・ジェイムズ|芸術の街ローマで溺れる

『ロデリック・ハドソン』ヘンリー・ジェイムズ 行方昭夫/訳 講談社文芸文庫 2021.8.28読了 この作品の存在は知らなかった。ヘンリー・ジェイムズさん最初の長編小説ということで、60年ぶりに新訳になったそうだ。恋愛小説のカテゴリになるのだと思うが、芸…

『複眼人』呉明益|地球規模のファンタジー

『複眼人』呉明益(ご・めいえき) 小栗山智/訳 KADOKAWA 2021.8.23読了 東京オリンピック2020で新しく「サーフィン」が競技登録された。まだ記憶に新しいと思うが、男子サーフィンで見事銀メダルを獲得した五十嵐カノアさんが、競技終了後に海に向かってひ…

『めぐらし屋』堀江敏幸|蕗子ではなくて蕗子さん

『めぐらし屋』堀江敏幸 新潮文庫 2021.8.20読了 めぐらし屋ってなんだろう。想像をめぐらせる夢想家なのか、屋とついているから何かのお店なのか。タイトルから小説の中身を思いめぐらせること、これもなかなか楽しい。 父親を亡くした蕗子(ふきこ)さんは…

『ある子馬裁判の記』ジェイムズ・オールドリッジ|みんなで議論をしよう|古い印刷技術のこと

『ある子馬裁判の記』ジェイムズ・オールドリッジ 中村妙子/訳 評論社 2021.8.18読了 ★ これは評論社の児童図書館シリーズに入っている子供向けの本である。どうしてこの本を読んだかというと、先日訪れた池袋の梟書茶房「ふくろう文庫」で自ら選んだものな…

『狐狼の血』柚月裕子|ガミさんの男意気と生き方

『狐狼の血』柚月裕子 角川文庫 2021.8.15読了 女性なのに、よくこんなヤクザ&警察もの書けるよなぁと尊敬する。警察ものはわかるけど、暴力団の話って言葉も特殊で難しいと思う。取材するわけにもいかないし。広島弁も巧みで、特にガミさん(呉原東署暴力団…

『最高の任務』乗代雄介|モノを書くために生まれてきた光る存在

『最高の任務』乗代雄介 ☆ 講談社 2021.8.13読了 芥川賞候補に2回も選ばれていて、最新作『旅する練習』が気になっている。というより、多くの方から絶賛されている乗代雄介さんの小説をなんでもいいから読みたい欲が高まっていた。この『最高の任務』には、…

『黒い雨』井伏鱒二|被爆してもなお日常を生きる

『黒い雨』井伏鱒二 新潮文庫 2021.8.12読了 井伏鱒二さんの『山椒魚』は高校の現代文の教科書に載っていると言われているが、私は学んだ記憶がない。教科書の種類が違ったのか、時代が違ったのか。そもそも小中学校とは違って、高校では先生の好みで教科書…

『死んでいない者』滝口悠生|日常とは違うある一日の営み

『死んでいない者』滝口悠生 文春文庫 2021.8.10読了 滝口悠生さんの芥川賞受賞作である。少し前に『茄子の輝き』を読んで、なかなか好みの文体だったため手に取ってみた。お通夜、告別式の話なので先日読んだ『葬儀の日』を連想した。 honzaru.hatenablog.c…

『夜はやさし』フィツジェラルド|大人のための小説

『夜はやさし』上下 フィツジェラルド 谷口陸男/訳 角川文庫 2021.8.9読了 フィツジェラルドさんの代表作は、言わずもがなで『グレート・ギャツビー』である。昔読んだ時にはあまりピンとこなかったのだが、最近再読したらとてもおもしろく読めた。次に有名…

『兄弟』余華|中国の圧倒的な熱量と勢いを感じる傑作

『兄弟』余華(ユイ・ホア) 泉京鹿/訳 ★ アストラハウス 2021.8.8読了 公衆便所で女の尻を覗き捕まってしまう、という衝撃的な場面から物語が始まる。数ページ読んで「あぁ、これぞ中国だなぁ」と思った。コロナが始まる前だから2年前の初夏に北京を旅行で…

『ドルジェル伯の舞踏会』ラディゲ|読み終えて余韻をしみじみと

『ドルジェル伯の舞踏会』レーモン・ラディゲ 渋谷豊/訳 光文社古典新訳文庫 2021.8.2読了 人はどんなふうにして自分が誰かを愛していると気付くのだろう。フランソワの内に愛が宿った瞬間の描写を読んだときにふと思った。そしてドルジェル伯夫人・マオの…