書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(た行の作家)

『ディス・イズ・ザ・デイ』津村記久子|スポーツ観戦することで自己をみつめる

『ディス・イズ・ザ・デイ』津村記久子 朝日新聞出版[朝日文庫] 2022.2.18読了 私はサッカーよりも野球のほうが好きだ。普段Jリーグも海外リーグも高校サッカーの試合も観ない。ワールドカップだけは、テレビに張り付いて観るという「にわか」だ。ラグビ…

『まほり』高田大介|伝承から研究し解決へ

『まほり』上下 高田大介 角川文庫 2022.1.30読了 初めて読む作家の本である。名前も知らなかったのだが、どなたかがこの本をTwitterにあげていて気になり購入。どうやら民俗学をテーマにした作品のようだ。著者の高田大介さんは、小説を書く傍ら、対象言語…

『まともな家の子供はいない』津村記久子|「まとも」「ふつう」って何?いいことなの?

『まともな家の子供はいない』津村記久子 ちくま文庫 2022.1.14読了 去年の後半は津村記久子さんの作品を結構読んだが、今年はこの本から。表題作ともうひとつ『サバイブ』という短編が収められている。 『まともな家の子供はいない』 津村さんの作品にして…

『改良』遠野遥|何のために美しさを求めるのか

『改良』遠野遥 河出文庫 2022.1.13読了 遠野遥さんが『破局』で第163回芥川賞を受賞されたとき、何より驚いたのは、遠野さんがロックバンドBUCK-TICKのボーカル櫻井敦司さんの息子であるということだった。すらりとした体躯に端正な顔立ちだなとは思ってい…

『ポトスライムの舟』津村記久子|会社で働くということ

『ポトスライムの舟』津村記久子 講談社文庫 2021.12.19読了 表題作と『十二月の窓辺』という2作の中編小説が収められている。『ポトスライムの舟』は、2009年に第140回芥川賞を受賞。先日、今度の芥川賞と直木賞の候補作が発表されていたが、年に2回もある…

『アレグリアとは仕事はできない』津村記久子|機械との付き合い方

『アレグリアとは仕事はできない』津村記久子 ちくま文庫 2021.11.1読了 てっきり同僚の女子社員のことだと思っていたら、このアレグリアって複合機だったのか…。地質調査会社で働く事務員のミノベは、高機能と謳われた複合機と格闘する。1分間機能を果たし…

『作家は時代の神経である コロナ禍のクロニクル2020→2021』髙村薫|コロナ禍でみえたもの

『作家は時代の神経である コロナ禍のクロニクル2020→2021』髙村薫 毎日新聞出版 2021.10.23読了 新型コロナウィルスの新規感染者が急激に減り、このまま第6波も来ないで完全に収束して欲しい。国民の誰もがそう期待し、私たちの生活は実際にコロナ禍以前の…

『長い一日』滝口悠生|断片的な知識やエピソードが息づいている

『長い一日』滝口悠生 ★ 講談社 2021.10.12読了 これは私小説になるのだろうか。日記のようなエッセイのような。語り手が個人事業主、青山七恵さんや柴崎友香さんが登場、極め付けは滝口さんと呼ばれている箇所を読んだこと。いや、これはもう滝口悠生さん本…

『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子|もやもやとした大学生と社会人のはざま

『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子 ★ ちくま文庫 2021.9.20読了 なかなか良いタイトルである。本谷有希子さんの作品にありそう。「そいつら」というのが特にいい。津村さんの小説はタイトルのセンスがひときわ抜きん出ていて、読む前から気になり手…

『死んでいない者』滝口悠生|日常とは違うある一日の営み

『死んでいない者』滝口悠生 文春文庫 2021.8.10読了 滝口悠生さんの芥川賞受賞作である。少し前に『茄子の輝き』を読んで、なかなか好みの文体だったため手に取ってみた。お通夜、告別式の話なので先日読んだ『葬儀の日』を連想した。 honzaru.hatenablog.c…

『吉野葛・盲目物語』谷崎潤一郎|中期の名作をどうぞ

『吉野葛・盲目物語』谷崎潤一郎 新潮文庫 2021.7.9読了 谷崎さんの中期の2作品が収められている。古き良き古風な日本語の文体で、一見とっきにくいのに滑らかで麗しい。2作品ともタイトルだけは知っていたが、内容は想像とかなり違っていた。 『吉野葛』 か…

『世界はゴ冗談』筒井康隆|インパクトがありすぎる短編集

『世界はゴ冗談』筒井康隆 新潮文庫 2021.6.26読了 表題作を含めた10作品が収められた短編集である。筒井康隆さんの作品を読むのは久しぶりだ。そして彼の短編というのも初めてだ。いや〜、奇想天外なストーリーづくしでたまげる。一話めから、タイトルから…

『つまらない住宅地のすべての家』津村記久子|ご近所付き合いも悪くはない

『つまらない住宅地のすべての家』津村記久子 双葉社 2021.6.16読了 日本のほとんどの地域で、多くの家の集まりがある。それが密集すると一戸建てなら住宅地、マンションなら団地になる。去年読んだ柴崎友香さんの『千の扉』を思い出した。柴崎さんの作品は…

『謎の独立国家ソマリランド』高野秀行|知らない世界を知る楽しさ

『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』高野秀行 集英社文庫 2021.5.26読了 ずっと前から高野秀行さんの本を読んでみたくてようやく手にしたのがこの本。書店には数多くの文庫本が並んでいた。1番分厚くて躊躇したけれ…

『邪宗門』高橋和巳|ある宗教団体の盛衰興亡

『邪宗門』上下 高橋和巳 河出文庫 2021.5.19読了 佐藤優さんが世界に誇る日本文学と謳っている高橋和巳さんの『邪宗門』を読んだ。高橋さんの作品は先日『非の器』を初めて読み、なかなか好みの作風であると感じた。ただ、読み応えがある故にどっしり重く結…

『茄子の輝き』滝口悠生|記憶の回想と日々の移ろい

『茄子の輝き』滝口悠生 新潮社 2021.4.15読了 滝口悠生さんは、『死んでいない者』で2016年に第154回芥川賞を受賞された。受賞作は文庫になっているがまだ未読である。この『茄子の輝き』というタイトルに何故だか惹かれた。食材の中では主役級ではない茄子…

『陰翳礼讃・文章読本』谷崎潤一郎|日本の文化と日本語の美しさ|随筆を通俗語にしようよ

『陰翳礼讃・文章読本』谷崎潤一郎 新潮文庫 2021.3.28読了 谷崎潤一郎さんの『陰翳礼讃』『文章読本』という2大随筆と、他に短い作品が3つ収録された随筆集である。どの作品も素晴らしい文章で散りばめられている。日本の文化と日本語の美しさが、これまた…

『悲の器』高橋和巳|転落と自滅|第1回文藝賞受賞作

『悲の器』高橋和巳 河出文庫 2021.3.13読了 39歳で早逝された天才作家高橋和巳さんを皆さんご存知だろうか。私は今まで彼の作品を読んだことがなかった。そのことを悔やみつつも、今回読んで本当に良かった。この『悲の器』を読むと著者高橋さんのすごさが…

『小説伊勢物語 業平』髙樹のぶ子|飽かず哀し

『小説伊勢物語 業平』髙樹のぶ子 日本経済新聞出版 2021.2.23読了 在原業平は歌人であるが、その美しい容姿から多くの女性を虜にした平安時代のプレイボーイというイメージがある。『伊勢物語』は在原業平が主人公と言われているが、それが本当かどうかも作…

『春琴抄』谷崎潤一郎|春琴と佐助にしか見えないもの

『春琴抄』谷崎潤一郎 ★ 新潮文庫 2021.2.16読了 私は見逃してしまったが、NHKの番組『100分de名著』で島田雅彦さんが『春琴抄』を解説したらしい。谷崎さんの作品では5本の指に入るほど有名な作品だが私はいまに至るまで未読だった。 同じような出だしの小…

『あゝ、荒野』寺山修司/ボクシングと青春と新宿歌舞伎町

『あゝ、荒野』寺山修司 角川文庫 2021.1.24読了 寺山修司さんは類稀なる才能を持ち、演劇・映画・短編・詩・エッセイなど幅広く活動された方である。有名なのは『家出のすすめ』や『書を捨てよ、町へ出よう』だろうか。唯一の長編小説がこの『あゝ、荒野』…

『ガーデン』千早茜/人と一定の距離を保つ

『ガーデン』千早茜 文春文庫 2020.10.4読了 よく書店に並んでいるのは目にしていたが、千早茜さんの小説を読むのは初めてだ。なんとなく、イヤミス系なのかな?と思っていたけど、確か西洋菓子店とつく題名の作品もあったので、色々な作風があるのかなと。 …

『首里の馬』高山羽根子/孤独に羽ばたく

『首里の馬』高山羽根子 新潮社 2020.9.13読了 まだ記憶に新しい、第163回芥川賞受賞作。同時受賞は遠野遥さんの『破局』、直木賞は馳星周さんの『少年と犬』だ。どれを読もうか考えていて、馳星周さんの作品は過去に何冊か読んだことあるし、では知らない作…

『父 Mon Pere』辻仁成/家族には迷惑をかけていい

『父 Mon Pere』辻仁成 ★ 集英社文庫 2020.8.6読了 辻仁成さんは、ミュージシャン、作家、最近ではニュースやワイドショーのコメンテーターも務めている。中山美穂さんの元夫だったという程度しか知らない人もいるだろう。2人の間に産まれた1人息子と一緒に…

『移植医たち』谷村志穂/臓器移植を考える

『移植医たち』谷村志穂 新潮文庫 2020.5.12読了 臓器移植をテーマにした医療小説だ。著者の谷村志穂さん、名前は知っていたが初読みである。医療系の小説自体久しぶりだが、医療といっても日本ではあまり馴染みのない「移植」を取り上げている。 アメリカで…

『我らが少女A』髙村薫/SNSで作られる虚構

『我らが少女A』髙村薫 ★ 毎日新聞出版 2020.5.2読了 このタイトルを見て「わーたーしー、少女A」と中森明菜さんが歌う場面を思い出しながら口ずさむ人は、私だけではないだろう。「私が」ではなく「我らが」というのがどういう意味なのか気になりながら読み…

『地に這うものの記録』田中慎弥/ネズミとの和解は如何に

『地に這うものの記録』田中慎弥 ★ 文藝春秋 2020.4.22読了 田中慎弥さんの作品ってどうも中毒性があるようで、つい気になって読んでしまう。これは今月の新刊である。本を持ち上げた瞬間、見た目の厚さに反してずっしりと重い。ハードカバーの紙質もそうだ…

『現代語古事記』竹田恒泰/日本最古の歴史書は、特に神の代(神話)がおもしろい

『現代語古事記 ポケット版』竹田恒泰 学研 2019.12.14読了 美容院では、いつも雑誌は読まずに本を持参する。最近そういう人は少ないようで、昔通っていたサロンの美容師さんに言われた。その時に本の話になり、その方に薦めてもらったのが、『古事記』だっ…

『眞晝の海への旅』辻邦生/辻さんが書くとミステリーにならない

『眞晝(まひる)の海への旅』辻邦生 小学館P+D BOOKS 2019.12.1読了 大好きな辻さんの文章を味わいたくて手に取る。この作品は、元は新潮文庫にあったようだけれど、今はP+D BOOKSでしか刊行されていないようだ。紙質はいいとは言えないけ…

『犬と鴉』田中慎弥 / 人は悲しめば悲しむほど満腹になる

『犬と鴉(からす)』田中慎弥 講談社文庫 2019.11.10読了 表題作を含む3編の中短編が収録されている。過去に私が読んだ2作品に比べると、1番昔に書かれたようだ。前回読んだ『燃える家』に非常に圧倒されたから、それには劣るだろうと、あまり期待を持たず…