書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

外国(ア行の作家)

新着順 人気順

『誰にも見えない子ども アメリカの大都市で生きるホームレスの少女の記録』アンドレア・エリオット|保護されることが必ずしも正解ではない

『誰にも見えない子ども アメリカの大都市で生きるホームレスの少女の記録』アンドレア・エリオット 古屋美登里 齋藤匠 藤宗宇多子/訳 ★ 亜紀書房 2026.07.02読了 ニューヨークタイムズの記者である著者が、ニューヨークの貧困家庭を8年間に渡り取材し、ま…

『半分のぼった黄色い太陽』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ|卓越したストーリーと登場人物の心の機微に胸を打たれる

『半分のぼった黄色い太陽』上下 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ くぼたのぞみ/訳 ★ 河出書房新社[河出文庫] 2026.06.19読了 タイトルの意味がよくわからなかったが、これは3年間だけ存在した「ビアフラ」という国の国旗に描かれた図柄のことである…

『モモ』ミヒャエル・エンデ|生きていることが愛おしい時間なのだ

『モモ』ミヒャエル・エンデ 大島かおり/訳 岩波書店[岩波少年文庫] 2026.05.03読了 エンデの名作を何十年かぶりに。おそらく30年位経っているのでは…。エンデのもう一つの名作『はてしない物語』も大人になってから読んで感銘を受けたし、きっとこの本も…

『赤く染まる木々』パーシヴァル・エヴェレット|本当は「苦しい」だけの話ではないのだろう

『赤く染まる木々』パーシヴァル・エヴェレット 上野元美/訳 早川書房 2026.03.17読了 ミシシッピ州マネーという場所で、ある白山男性が殺害され、その横には黒人の死体があった。ほどなくしてまた別の殺害がおこり、そこにもまた黒人の死体が。しかも、黒…

『バウムガートナー』ポール・オースター|選んだ道をどのように歩むか、自分の思考と行動が全て

『バウムガートナー』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★ 新潮社 2025.02.02読了 10年前に妻アンナに先立たれたバウムガートナーが主人公である。喪失感を伴う老年男性に漂う、死を予感させる描写が続く。こんなにも時間がゆっくりと流れている作品をオース…

『ノーサンガー・アビー』ジェイン・オースティン|ゴシック小説好き乙女の恋模様

『ノーサンガー・アビー』ジェイン・オースティン 唐戸信嘉/訳 ★ 光文社[光文社古典新訳文庫] 2025.12.30読了 オースティンの長編小説で読んでいないのはこの『ノーサンガー・アビー』だけだったはず。だからこれで一通り読んだことになる。オースティン…

『カスパー・ハウザー あるいは怠惰な心』ヴァッサーマン|カスパーを取り巻く人間模様

『カスパー・ハウザー あるいは怠惰な心』ヴァッサーマン 酒寄進一/訳 岩波書店[岩波文庫] 2025.12.24読了 実際にあった事件を元に小説にした作品である。ノンフィクション・ノヴェルまたは歴史小説といえるだろう。ドイツにかつてこんな人物がいたなんて…

『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー|贖罪と深い愛に満ちたストーリー

『われら闇より天を見る』上下 クリス・ウィタカー 鈴木恵/訳 ★ 早川書房[ハヤカワ文庫] 2025.12.09読了 13歳の姉ダッチェスは6歳の弟ロビンを守りながら強く懸命に生きる。ダッチェスは自称「無法者」と名乗る。自分には無法者の血が流れているからと。…

『血痕の記憶』ジェニファー・コーディー・エプスタイン|患者を実験台にした催眠療法が行われていた

『血痕の記憶』ジェニファー・コーディー・エプスタイン 唐木田みゆき/訳 早川書房[ハヤカワ文庫] 2025.11.26読了 19世紀にパリに実在した精神病院サルペトリエールを舞台にした、史実に基づく小説である。読んだことのない世界が広がり、なかなか興味深…

『秘密にしていたこと』セレステ・イング|家族だからこそ分かり合えないこともある

『秘密にしていたこと』セレステ・イング 田栗美奈子/訳 アストラハウス 2025.11.08読了 今年の春に読んだセレステ・イング著『密やかな炎』がおもしろかったから、著者の小説でもう一冊邦訳されているこの作品を読んだ。 ある事件が起こり、そこから過去を…

『秘儀』マリアーナ・エンリケス|不気味で不安。それでも物語の全貌が徐々に明らかになる過程に興奮が止まらない

『秘儀』上下 マリアーナ・エンリケス 宮﨑真紀/訳 ★ 新潮社[新潮文庫] 2025.10.12読了 どんな秘密の儀式が行われるのだろうか。上巻の表紙にある怪物の影が怖いし、おどろおどろしさが満載っぽい気がして読む前からぞくぞくしていた。 これは、大人のダ…

『虚言の国 アメリカ・ファンタスティカ』ティム・オブライエン|村上春樹ビートを味わえるロードノベル

『虚言の国 アメリカ・ファンタスティカ』ティム・オブライエン 村上春樹/訳 ハーパーコリンズジャパン 2025.08.11読了 オブライエンの新作を村上春樹さんが訳したとのことで、刊行してすぐに買って楽しみにしていたが結構な期間積んでいた。同じく積んでい…

『ニュークリア・エイジ』ティム・オブライエン|想像力がなくては前に進めない

『ニュークリア・エイジ』ティム・オブライエン 村上春樹/訳 文藝春秋[文春文庫] 2025.06.13読了 表紙のイラストに描かれた男性が何を掘っているのかって、それはもうシェルターを作るためだ。1995年のアメリカ・現代パートで、ウィリアムは妻ボビと娘メ…

『密やかな炎』セレステ・イング|母親の定義を決める要素はなにか

『密やかな炎』セレステ・イング 井上里/訳 ★ 早川書房 2025.05.27読了 家族というものはそれぞれに形がある。周りからどう見られるとしても真実はその家族にしかわかり得ない。いや、本人たち(当事者)も、本人だからこそ分かり合えないものもある。母と…

『幽霊たち』ポール・オースター|ブルーは空想し物語る

『幽霊たち』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮社[新潮文庫] 2025.04.26読了 ニューヨーク3部作のうち、この作品をまだ読んでおらずずっと引っかかっていた。大作『4321』を読む前に先に読んでしまおう!と意気込む。というか、まだ『4321』を読んでな…

『フロス河の水車小屋』ジョージ・エリオット|ほかの人を犠牲にして幸福を求めていいのか

『フロス河の水車小屋』上下 ジョージ・エリオット 小尾芙佐/訳 白水社[白水uブックス] 2025.04.21読了 英国の文豪ジョージ・エリオットさん(男性名ではあるがペンネームなので本当は女性である)の作品の新訳が白水社から出た!しかも読んだことのない…

『彼女を見守る』ジャン=バティスト・アンドレア|圧巻のストーリーテリング、圧倒的な美しさに酔いしれる

『彼女を見守る』ジャン=バティスト・アンドレア 澤田直/訳 ★★ 早川書房 2025.04.08読了 フランス最高峰の文学賞であるゴングール賞を受賞、また日本でも「日本の学生が選ぶゴングール賞」なるものを受賞している。もうもう、紛れもない傑作だった。現代フ…

『カテリーナの微笑 レオナルド・ダ・ヴィンチの母』カルロ・ヴェッチェ|記録に残すことは崇高なもの

『カテリーナの微笑 レオナルド・ダ・ヴィンチの母』カルロ・ヴェッチェ 日高健太郎/訳 みすず書房 2025.02.21読了 レオナルド・ダ・ヴィンチの名前を知らない人はいないだろう。絵画「モナリザ」「最後の晩餐」等で知られるルネサンス期を代表する万能の人…

『鍵のかかった部屋』ポール・オースター|誰かを探すのと同時に自分を見つめ直す

『鍵のかかった部屋』ポール・オースター 柴田元幸/訳 白水社[白水Uブックス] 2024.12.02読了 ついに刊行されたオースター最大の長編小説『4321』だが、もうしばらく部屋に寝かせておくことにする。先日、柴田元幸さんのトークイベントに参加して色々なお…

『若草物語』ルイーザ・メイ・オルコット|この物語になくてはならない存在は四姉妹の母親

『若草物語』ルイーザ・メイ・オルコット 小山太一/訳 新潮社[新潮文庫] 2024.11.30読了 ブラックフライデーで翌日まで20%オフとあったから、いそいそと洋服を見に行ったら素敵な緑色のセーターがあった。ちょうど声をかけてきたスタッフに「色が素敵です…

『弟、去りし日に』R・J・エロリー|誠実かつ王道のヒューマンミステリー

『弟、去りし日に』R・J・エロリー 吉野弘人/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2024.10.17読了 原作のタイトルは『The Last Highway』であるから、随分と飛躍している邦題だなと思った。弟の訃報を知ったときにヴィクターはハイウェイ(高速道路)に眼をやり…

『灯台へ』ヴァージニア・ウルフ|分かり合えないことを肯定してくれる

『灯台へ』ヴァージニア・ウルフ 鴻巣友季子/訳 新潮社[新潮文庫] 2024.10.05読了 ストーリー自体は特になくて、ただただひたすらに心理的な描写が続いていく。お世辞にも物語としておもしろいとは言えないのに、どうしてこんなにも魅了されるのだろう。…

『ガチョウの本』イーユン・リー|青春期のほんの僅かなかけがえのない瞬間

『ガチョウの本』イーユン・リー 篠森ゆりこ/訳 河出書房新社 2024.10.01読了 不思議なタイトルだなと思いつつ読み進めると、語り手アニエスが飼っているのがニワトリとガチョウだと知る。そのガチョウの話なのか?愚鈍で間抜けなイメージがあるガチョウ?…

『リヴァイアサン』ポール・オースター|親友に捧げる愛の鎮魂歌

『リヴァイアサン』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★★ 新潮社[新潮文庫] 2024.09.12読了 どうしてこんなにも私の心を鷲掴みにするのだろう。この導入部、この語り口、この読み心地。例によって冒頭2〜3頁読んだだけで惹き込まれたわけだが、ふとこの感覚…

『ガープの世界』ジョン・アーヴィング|人間が生きることの全てがここにある

『ガープの世界』上下 ジョン・アーヴィング 筒井正明/訳 ★ 新潮社[新潮文庫] 2024.08.17読了 いつか読みたいなとずっと思っていた作品。西加奈子さんを始めとして多くの方が絶賛し、アーヴィングの名を世界中に知らしめた作品だ。自伝的小説ということで…

『君の名前で僕を呼んで』アンドレ・アシマン|たぶん映画のほうが良さそう

『君の名前で僕を呼んで』アンドレ・アシマン 高岡香/訳 オークラ出版[マグノリアブックス] 2024.07.25読了 かなり密度の濃い恋愛小説だ。一言でいえばBL小説になるのだろうが、それにとどまらない一途な崇高さが溢れんばかり。相手が異性でも同性でも、…

『偶然の音楽』ポール・オースター|旅で出会った仲間とやり遂げる

『偶然の音楽』ポール・オースター 柴田元幸/訳 新潮社[新潮文庫] 2024.07.04読了 やっぱりオースターおもしろい、というか好きだわ〜。数ページ読んだだけでその読み心地の良さにホッとする。マジで憎たらしいほど心地良い。先日都内の比較的大きな書店…

『関心領域』マーティン・エイミス|強制収容所に関わる人たちとその日常

『関心領域』マーティン・エイミス 北田絵里子/訳 早川書房 2024.06.05読了 アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した同名映画の原作である。作品賞を受賞した『オッペンハイマー』の原作を読み、そのあと映画を鑑賞した(本を読んでないと理解に苦しんだかも…

『説得』ジェイン・オースティン|その時はそうするしかなかった決断

『説得』ジェイン・オースティン 廣野由美子/訳 ★★ 光文社[光文社古典新訳文庫] 2024.05.13読了 ジェイン・オースティンの小説って、同じようなテーマ(ずばり結婚)ばかりだし、ストーリーも動きが少ないのにどうしてこうもおもしろく読めるんだろう。個…

『1984』ジョージ・オーウェル|人は愛されるよりも理解されることを欲するのかも

『1984』ジョージ・オーウェル 田内志文/訳 KADOKAWA[角川文庫] 2024.04.22読了 文庫本の表紙はルネ・マグリットの絵である。顔の前にあるりんごのせいでよく見えないが、実はよーく注視すると左目が少しだけ見えていて薄ら怖い。人から常に「見られてい…