書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(ま行の作家)

『名誉と恍惚』松浦寿輝|芹沢一郎の運命と生き様に魅了される

『名誉と恍惚』上下 松浦寿輝 ★★ 岩波書店[岩波現代文庫] 2024.03.21読了 数年前に上海1泊3日の弾丸ツアーをしたことがあって、上海ディズニーランドだけを目的に楽しむという旅だった。泊まったホテルも出来たばかりのトイ・ストーリーホテル。日本のディ…

『二人キリ』村山由佳|みんな大好き阿部定の生き方

『二人キリ』村山由佳 ★ 集英社 2024.03.11読了 ここ半年以内に、NHKの松嶋菜々子さんがプレゼンテーター役をしている番組で、阿部定事件のことが放映されているのを見た。昔世間を騒がせた事件だが、不思議と阿部定に同情を寄せたり敬する声も多い。こんな…

村上春樹×川上未映子「春のみみずく朗読会」に行ってきた

先週のことになるが、3月1日(金)に、早稲田大学大隈記念講堂にて開催された「村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会」に行ってきた。おそらく、私の書に耽る関連では今年のメインイベントの一つになるであろう。 早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラ…

『シャーロック・ホームズの凱旋』森見登美彦|ワトソンなくしてホームズなし

『シャーロック・ホームズの凱旋』森見登美彦 中央公論新社 2024.02.03読了 そもそも、ホームズとワトソンが何故京都にいるんだ?そして、ホームズがまさかのスランプだと?寺町通に二条通、四条大宮に嵐山、南禅寺、下鴨神社、、京都の名だたる名所を駆け巡…

『八月の御所グラウンド』万城目学|青春香る成長譚、大人にこそ読んでほしい

『八月の御所グラウンド』万城目学 文藝春秋 2023.9.3読了 まだまだ猛暑が続いているから9月に入ったとは到底思えない。今日は台風の影響で関東地方は比較的ひんやりとしている。本当は8月中に読もうとしていたのにうっかりしていた。万城目さん自身もきっと…

『新古事記』村田喜代子|戦争が行われていると同時に平和な場所もある

『新古事記』村田喜代子 講談社 2023.8.20読了 どうして『新古事記』なんだろう。『古事記』と関係があるのかしら。書店で気になり何気なく頁をパラパラすると、太平洋戦争の頃の話らしい。『古事記』とどう関わっているのか。最近『古事記転生』なる本がベ…

『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ|心の声を聴くこと

『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ 中央公論新社[中公文庫] 2023.7.20読了 2021年の本屋大賞受賞作。気になりつつも読めていなかったが、文庫化されてさっそく手に取った。クジラの形をした栞がかわいい。「感動した」とか「泣きながら読んだ」と絶賛さ…

『街とその不確かな壁』村上春樹|自分だけのとっておきの幻想世界|読んだ人にしかわからない満足感

『街とその不確かな壁』村上春樹 ★★ 新潮社 2023.6.10読了 濡れたふくらはぎに濡れた草の葉が張り付き、緑色の素敵な句読点となっていた。 読み始めてすぐ、7行めに出てくる文章である。裸足で水の上を駆ける少女のふくらはぎが濡れてそこに葉っぱやらが引っ…

『色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹|自信と勇気を持ちなさい

『色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹 ★ 文藝春秋[文春文庫] 2023.4.13読了 仲の良かった4人が突然つくるの元から去ってしまった。その理由を尋ねると「自分で考えればわかるんじゃないか」「自分に聞いてみろよ」と言われる。理由もわか…

『無月の譜』松浦寿輝|旅の醍醐味、人生で何かをとことんまで突き詰めること

『無月の譜』松浦寿輝 ★ 毎日新聞出版 2023.3.26読了 将棋は運では決まらない。確実に知力と知力のぶつかり合いであり、また将棋の世界の奥行きは深い。とはいえ、私自身将棋は詳しくない。2016年に藤井聡太さんが中学生でプロ棋士になり日本中で将棋が流行…

『香港陥落』松浦寿輝|戦争は友情を壊してしまうのか|文体を味わう

『香港陥落』松浦寿輝 講談社 2023.2.23読了 過去に香港旅行に行った時、その煌びやかな夜景に圧倒された。今でも九龍半島の高架道から香港島の夜景を鑑賞する「シンフォニー・オブ・ライツ」の映像がまざまざと蘇る。しかし一番思い出すのは、外気温と建物…

『小説帝銀事件』松本清張|テンペラ画家平沢が毒薬犯人なのか

『小説帝銀事件 新装版』松本清張 KADOKAWA[角川文庫] 2023.2.5読了 最近のテレビはおもしろくないから、ニュースとスポーツしかほぼ見ていない。たまに未解決事件かなんかのドキュメント番組をがあると、ついつい見てしまうことがある。先日も福田和子の…

『三十光年の星たち』宮本輝|人間としての深さ、強さ、大きさを培う

『三十光年の星たち』上下 宮本輝 新潮社[新潮文庫] 2022.11.30読了 もっと古めかしい作品なのかと思っていたが、読んでみるとそうでもなかった。毎日新聞に連載された作品で、単行本になったのは平成23年だ。確かに新聞に連載になるような品行方正さがあ…

『青年』森鴎外|自己の内面を見つめて成長していく

『青年』森鴎外 新潮社[新潮文庫] 2022.10.27読了 確か読んだことないはずだ。夏目漱石さんの作品はほとんど読んでいるが、そもそも森鴎外さんの作品は1~2冊しか読んでいないはず。代表作『舞姫』を読もうとした時、文語体でとてもじゃないと読めないと断…

『ドナウの旅人』宮本輝|旅に出て、自分自身を見つめ直す

『ドナウの旅人』上下 宮本輝 新潮社[新潮文庫] 2022.10.1読了 ドナウ河は、ドイツの西南端に源流があり、オーストリア、チェコスロヴァキア、ユーゴスラビア、ブルガリア、ルーマニアの7カ国を流れる3,000kmほどの長さのある河である。読み終えた今、私も…

『すべて忘れてしまうから』燃え殻|くすぐったい懐かしさとほっこりする優しさ

『すべて忘れてしまうから』燃え殻 新潮社[新潮文庫] 2022.9.23読了 燃え殻さんの小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、大人泣き必須ということで話題になり映像化もされた。著者の燃え殻さんは、映像美術の仕事をしながら執筆をしている。現代…

『杏っ子』室生犀星|親子でありながら、友達、恋人、同志のような関係性

『杏っ子(あんずっこ)』室生犀星 新潮社[新潮文庫] 2022.8.21読了 小学校か中学校の国語の教科書で室生犀星さんの詩が出てきたのを覚えている。「ふるさとは遠きにありて思ふもの」という書き出しだけで、詩自体の内容は全く覚えていないけど…。詩人、小…

『1R1分34秒』町屋良平|若者の素直な感情が溢れ出す

『1R(ラウンド)1分34秒』町屋良平 新潮社[新潮文庫] 2022.8.9読了 男の人ってどうしてあんなにもボクシングが好きなんだろう。ボクシングというより格闘技全般か。私なんて、リングの上で誰かが血を流すのを見るだけでも目を背けたくなるのに。道具もな…

『うつくしが丘の不幸の家』町田そのこ|対称でありながら非対称

『うつくしが丘の不幸の家』町田そのこ 東京創元社[創元文芸文庫] 2022.7.4読了 町田そのこさんは『52ヘルツのクジラたち』で昨年本屋大賞を受賞された。感涙小説と絶賛されているから読もう読もうと思いながらも、なんとなく機会を逸してしまっている。 …

『いかれころ』三国美千子|人生なんてそんなもの

『いかれころ』三国美千子 新潮社[新潮文庫] 2022.6.12読了 三島由紀夫賞と新潮新人賞を同時受賞したということで、単行本刊行時からとても気になっていた作品である。三国美千子さんの文章を読んでみたいと思っていたら今年になりこの作品が文庫化されて…

『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜』三上延|実在の本にまつわる柔らかな謎解き

『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜』三上延 KADOKAWA[メディアワークス文庫] 2022.6.4読了 先日三上延さんの『同潤会代官山アパートメント』を読んだ。その時に気軽に読めるものを欲していたせいか、柔らかな文体に気分をほぐされ、…

『同潤会代官山アパートメント』三上延|くやしさを糧にして生きていく

『同潤会代官山アパートメント』三上延 新潮社[新潮文庫] 2022.5.11読了 同潤会アパートという単語は何度か目にしたことがある。関東大震災後に作られた耐火・耐震構造の鉄筋コンクリート造のマンションで、当時最先端の集合住宅であった。表参道ヒルズが…

『人間』又吉直樹|色々な人間がいていい

『人間』又吉直樹 KADOKAWA [角川文庫] 2022.5.7読了 又吉直樹さんの作品は、芥川賞受賞作『火花』だけしか読んでいなかった。当時世間をものすごく賑わせて「芸人が書いたものか〜」「芥川賞も結局話題性を重視して選んだのか」と私も少し勘ぐっていた1人…

『回転木馬のデッド・ヒート』村上春樹|ロマンチックでキザなスケッチの数々

『回転木馬のデッド・ヒート』村上春樹 講談社[講談社文庫] 2022.4.27読了 無性に村上春樹さんの文章に触れたくなった。読むたびに、他の作品で読んだことがあるような既視感(既読感)に遭遇したり、お得意のコケティシュな女の子がまたまた出てきたなと…

『道頓堀川』宮本輝|薔薇と河豚に想いを馳せながら

『道頓堀川』宮本輝 新潮社[新潮文庫] 2022.2.23読了 宮本輝さんの川三部作、最後の『道頓堀川』を読み終えた。続けて読むのはどうも飽きっぽくてかなり間が空いてしまったが、読んでようやくすっきりした。「あれ読まなきゃな」みたいな感情が頭の片隅に…

『愛なき世界』三浦しをん|研究者の生き方|本の並べ方

『愛なき世界』上下 三浦しをん 中公文庫 2022.2.10読了 自分に全く縁のない世界をまざまざと見せられると、気になってしまうもの。料理のことしか頭にない藤丸にとっての大学の研究室、それも畑違いの植物という分野がそうだった。でもきっと縁のない世界な…

『禁色』三島由紀夫|女性への復讐、なれの果て

『禁色』三島由紀夫 新潮文庫 2022.1.1読了 旅に出る時、帰省する時、遠出をする時にお供にする本はいつも非常に迷うものだ。列車や飛行機などの移動中を始めとして、読書にかける時間は結構多い。持っていった本に失敗すると途方もなく残念になるから、間違…

『からゆきさん 異国に売られた少女たち』森崎和江|こんなことが150年前の日本であった

『からゆきさん 異国に売られた少女たち』森崎和江 朝日文庫 2021.11.27読了 何年も前に新聞の書評にこの本が載っていた。気になってすぐに購入していたのだが長く家に眠っていた。このタイミングで読んだのは、つい先日岩波文庫から、『まっくら』という同…

『ほんのこども』町屋良平|言葉の独り歩き

『ほんのこども』町屋良平 講談社 2021.11.24読了 全ての小説家にはもちろんのこと、何らかの形で文章を書き、読み、そして言葉を愛する人にとっては、少なからず心に響くものがある小説である。私小説のようなエッセイのような、いや、でもやっぱりこれはフ…

『エリザベスの友達』村田喜代子|忘れられない大切なひととき

『エリザベスの友達』村田喜代子 新潮文庫 2021.11.3読了 千里(せんり)の母親初音(はつね)さんは97歳、認知症のため施設で暮らしている。千里は週に2回、千里の姉の満洲美は歩行が困難なため千里と一緒に週に1回母親に会いに行く。千里と満州美のそれぞ…