書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(ま行の作家)

『彼女がエスパーだったころ』宮内悠介|ルポタージュ風の小説集

『彼女がエスパーだったころ』宮内悠介 講談社文庫 2021.5.8読了 宮内悠介さんのことはずっと気になっていた。鬼才大才と呼ばれている。本を読んでいて、この著者は天才だなと思ったのは、最近だと小川哲さんだ。『ゲームの王国』を読んだ時は、どうしたらこ…

『高い窓』レイモンド・チャンドラー|マーロウがいちいちカッコ良すぎる

『高い窓』レイモンド・チャンドラー 村上春樹/訳 ハヤカワ文庫 2021.3.23読了 先月読んだ『ロング・グッドバイ』が素晴らしく良かったから、余韻冷めやらぬうちに、探偵フィリップ・マーロウシリーズの3作めである『高い窓』を読んだ。今回も村上春樹さん…

『喜嶋先生の静かな世界』森博嗣|研究者の幸せな時間

『喜嶋先生の静かな世界』森博嗣 講談社文庫 2021.2.27読了 森博嗣先生(何故だか先生と呼びたくなるし、そのほうが合っていると思うのだ)の本を読むのは久しぶりだ。小説に夢中になり始めた頃にほとんどの人が通るのが森先生の作品群ではないだろうか。膨…

『ロング・グッドバイ』レイモンド・チャンドラー|孤高の私立探偵マーロウ|ハードボイルドであり文学的傑作

『ロング・グッドバイ』レイモンド・チャンドラー 村上春樹/訳 ★ ハヤカワ文庫 2021.2.26読了 これは素晴らしい。とんでもない名作だ。最初の数頁を読んだだけで文体に引き込まれる。探偵が登場するハードボイルド小説、という枠組みを超えて、世界で最も秀…

『鏡子の家』三島由紀夫/鏡を通して自己をみつめる

『鏡子の家』三島由紀夫 新潮文庫 2021.1.18読了 三島由紀夫さんの『鏡子の家』を再読した。以前読んだのは10年以上前で、主な登場人物と全体の雰囲気をなんとなく憶えている程度だった。三島作品の中ではあまり評判が良くないと言われているが、私としては…

『黒革の手帖』松本清張/銀座と悪女、そして孤独

『黒革の手帖』上下 松本清張 新潮文庫 2021.1.13読了 もしかしたら以前読んだことがあるかもしれない…と思いつつも手を出してしまった。先日、武井咲さん主演の『黒革の手帖 拐帯行』がテレビで特別編として放映されており思わず見入ってしまう。といっても…

『美しいものを見に行くツアーひとり参加』益田ミリ/女子のための旅行ガイド

『美しいものを見に行くツアーひとり参加』益田ミリ 幻冬舎文庫 2020.12.27読了 イラストレーター益田ミリさんの旅行エッセイ。ほっこりしたイラストは見たことがあっても、これが益田ミリさんが描いたものであること、本(エッセイ中心)を多数出されている…

『ペルソナ 三島由紀夫伝』猪瀬直樹/生と死に誰よりも執着していた

『日本の近代 猪瀬直樹著作集2 ペルソナ 三島由紀夫伝』猪瀬直樹 ★ 小学館 2020.12.12読了 三島文学が大好きと豪語しているわりには、彼のことを外から評したものをちゃんと読んだことがなかった。特集を映画やテレビで観たり、文芸誌などで読む程度だ。こ…

『手長姫 英霊の声 1938-1966』三島由紀夫/どんな捉え方をしても彼は魅力的

『手長姫 英霊の声 1938-1966』三島由紀夫 新潮文庫 2020.11.30読了 三島由紀夫さんの命日は11月25日、東京・市ヶ谷の自衛隊駐屯地で割腹自殺をした。今年は没後50年ということもあり、三島さんに関する映画が上映され、テレビなどでも特集を目にすることが…

『孔丘』宮城谷昌光/教えることは学ぶこと

『孔丘』宮城谷昌光 文藝春秋 2020.11.18読了 春秋時代の中国の思想家であり、儒教の始祖とされる孔子。孔子による思想がのちに弟子たちによって『論語』にまとめられた。この本で「孔子」ではなく「孔丘」となっているのは、著者の宮城谷さんが人間である彼…

『日日是好日 ー「お茶」が教えてくれた15のしあわせー』森下典子/日々の気付きを大切に

『日日是好日(にちにちこれこうじつ) ー「お茶」が教えてくれた15のしあわせー』 森下典子 新潮文庫 2020.11.6読了 朝日新聞が、本のための情報サイトとして「好書好日(こうしょこうじつ)」を運営している。たまに見ることがあるのだが、「好日」繋がり…

『ぐるぐる♡博物館』三浦しをん/行きたい、会いたい博物館

『ぐるぐる♡博物館』三浦しをん 実業の日本社文庫 2020.10.22読了 ちょっとエッセイでも読んで休憩。小説が好きだからどうにも偏りがちだが、なるべく10冊に1冊は小説以外を読むようにしている。しかし振り返るとここ最近は小説が連続していたから、少し読む…

『風よあらしよ』村山由佳/怒涛の人生、道を自ら切り開く

『風よあらしよ』村山由佳 ★ 集英社 2020.10.19読了 婦人解放運動家、アナキストである伊藤野枝(のえ)さんを描いた評伝小説である。少し前に、瀬戸内寂聴さんの『かの子繚乱』を読み、寂聴さんが書く他の評伝も読みたいと思っていた。伊藤野枝さんの生涯を…

『獣の戯れ』三島由紀夫/フィルター越しに見る三角関係

『獣の戯れ』三島由紀夫 新潮文庫 2020.10.13読了 当時は新潮社の雑誌に連載されたようだが、三島さんの書き下ろし小説として5作目の中編小説である。タイトルから想像するに、色香漂う官能的な作品かと思っていたがそういうわけでもなかった。しかし言葉と…

『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ/誰もが抱える孤独

『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ 村上春樹/訳 新潮社 2020.10.1読了 こんな帯の文句が書かれていたら、村上春樹さんのファンは読みたくなるもの。 たとえ、カーソン・マッカラーズさんの名前を知らなくても、フィッツジェラルド、サリンジャーと…

『一人称単数』村上春樹/やわらかく心地よい作品たち

『一人称単数』村上春樹 文藝春秋 2020.8.23読了 おそらく今年の文芸誌部門でベストセラーになるのでは、と予測する人も多いだろう、先月刊行された村上春樹さんの6年ぶりの短編集だ。8つの短編が収録されている。表題作『一人称単数』だけが書き下ろしで他…

『太陽と鉄・私の遍歴時代』三島由紀夫/肉体と精神・三島たらしめるもの

『太陽と鉄・私の遍歴時代』三島由紀夫 中公文庫 2020.8.22読了 三島由紀夫さんの自伝的エッセイが2篇と、自衛隊駐屯地で自決する少し前のインタビューが収録されている。まぁ、2篇の極端なことったらない。なるべく我慢して巻末の解説は最後に読もうとして…

『フラニーとズーイ』サリンジャー/家族の慰め方

『フラニーとズーイ』D.J.サリンジャー 村上春樹/訳 新潮文庫 2020.8.12読了 この作品、まだ未読だった。サリンジャー作品は『ライ麦畑でつかまえて』しか読んだことがない。タイトルと中身のギャップがこんなにもある作品は『ライ麦〜』の右に出るものはな…

『不道徳教育講座』三島由紀夫/叡智を感じるエッセイ

『不道徳教育講座』三島由紀夫 角川文庫 2020.7.22読了 いやはや、三島さんは何を書いても一級品だ。有名すぎるこのエッセイ、実はまだ未読だったのだが、今年のカドフェスで店頭に並べてあったのを手に取り購入した。これが、なんともウィットに富んでいて…

『新聞記者』望月衣塑子/昨年の日本アカデミー賞原作

『新聞記者』望月衣塑子 角川新書 2020.7.11読了 昨年の日本アカデミー賞『新聞記者』の原作である。正直、私の中では絢爛豪華な海外のアカデミー賞、ヴェネツィア国際映画祭、カンヌ国際映画祭等の授賞式に比べて、それを真似た日本アカデミー賞授賞式が滑…

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹/誰もが平凡な1人の人間である

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹 絵・高妍 文藝春秋 2020.6.5読了 村上春樹さんの小説やエッセイには、家族のことはほとんど書かれていない。敢えて登場する人と言えば、奥さまだろう。「妻と美味しいワインと料理をたしなむ」なんていうシーン…

『悲嘆の門』宮部みゆき/言葉の持つ力

『悲嘆の門』上中下 宮部みゆき 新潮文庫 2020.6.2読了 大学の先輩に誘われ、サイバー・パトロール会社でアルバイトをすることになった大学生の三島孝太郎。ネット社会の闇を調べるうちに、世間を賑わしている連続殺人事件だけでなく身の回りにも事件が起こ…

『絹と明察』三島由紀夫/ワンマン経営者と社員らの関係

『絹と明察』三島由紀夫 新潮文庫 2020.5.27読了 近江絹糸(おうみけんし)争議とは、昭和29年に実際に起こった大阪の絹糸紡績の労働人権争議である。近隣の高校卒業生を強制的に入社させて工場で働かせたり、結婚したら女性は退社、男性も転勤か退社、寮生…

『銀河鉄道の父』門井慶喜/あの宮沢賢治を育て見守った父の姿

『銀河鉄道の父』門井慶喜 講談社文庫 2020.4.25読了 宮沢賢治さんといえば、誰もが知っている童話や詩を書く国民的作家であり、岩手の理想郷イーハトーブが思い浮かぶ。私も一度岩手に旅行で訪れた時に、イーハトーブをモチーフにした広大な公園に行ったこ…

『龍は眠る』宮部みゆき/サイキックは生きづらい

『龍は眠る』宮部みゆき ★ 新潮文庫 2020.4.18読了 先月読んだ『魔術はささやく』に次いで、これも宮部みゆきさんのかなり初期、1992年に書かれた作品だ。およそ30年前かぁ、こう考えると宮部さんは、筆力が衰えることもなくずっと第一線で活躍されていて本…

『美しい星』三島由紀夫/人間の美しさを宇宙から説く

『美しい星』三島由紀夫 ★ 新潮文庫 2020.4.14読了 日本で1番美しい文章を書く人は誰かと聞かれたら、加賀乙彦さんや辻邦生さんも迷うのだが、やはり私は三島由紀夫さんと答えるだろう。もちろん、彼の描くストーリーや思想に心を突き動かされるのだが、文章…

『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン/不思議な図書館とそこで始まった愛

『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン 青木日出夫/訳 ハヤカワepi文庫 2020.4.11読了 村上春樹さんが多大なる影響を受けたというリチャード・ブローティガン氏。私は彼の本をまだ読んだことがなかったのだが、1番読みやすそうな本作をまずは選んでみた…

『MISSING 失われているもの』村上龍/3本の光の束、陰の世界観

『MISSING 失われているもの』村上龍 新潮社 2020.4.3読了 これはなんといったらよいのだろう。小説と謳われているが、半分私小説か自伝のようだ。現在の村上龍さんの心持ちが強く表現されているように思う。 50代後半になり、不安を抱えた主人公が、幻覚を…

『魔術はささやく』宮部みゆき/読者が宮部さんの魔術にかかる

『魔術はささやく』宮部みゆき 新潮文庫 2020.3.3読了 宮部さんの作品は数え切れないほど読んでいるのに、思えば、宮部さんの作家生活でかなり初期にあたる本作はまだ未読だった。この作品で1989年に日本推理サスペンス大賞を受賞している。 なんだか松本清…

『極北』マーセル・セロー/生まれた世界に生きるしかない

『極北』マーセル・セロー 村上春樹/訳 中公文庫 2020.2.19読了 先日書店で目に留まった一冊。なんだか最近、寒い感じの本を選んでしまう。冬だからかなぁ。でも寒さを感じる本の中に熱いエネルギーを感じられる、そんな作品は素敵だ。 不思議な作品である…