国内(ま行の作家)
『宴のあと』三島由紀夫 新潮社[新潮文庫] 2025.11.09読了 雪後庵(せつごあん)という料亭の女主人・50歳になる福沢かづが主人公である。「かづ」という名前が時代を感じる。「かず」であれば今でも時たま目にする名前であろうが「かづ」は見ない。そもそ…
『泡』松家仁之 集英社[集英社文庫] 2025.10.30読了 高校に行けなくなり引きこもりになってしまった薫は、東京から離れた砂里浜という土地に暮らす大叔父の元でひと夏過ごすことになる。大叔父の兼定のパートと入れ替わりで語られるが、この兼定の視点にな…
『ヒカリ文集』松浦理英子 講談社[講談社文庫] 2025.10.25読了 野間文芸賞を受賞した作品である。松浦理英子さんの本を読むのは2冊目だ。学生劇団NTRで仲間の元を去ってしまった賀集(かしゅう)ヒカリ。彼女は劇団内で多くの人と濃密な関係を持っていた。…
『伸子』宮本百合子 筑摩書房[ちくま文庫] 2025.10.15読了 宮本百合子さんの作品どころか存在すら知らなかった。17歳の時に『貧しき人々の群』という小説で脚光を浴び、天才少女といわれたそうだ。父親と渡米し、ニューヨークで荒木茂という男性と結婚、そ…
『神の子どもたちはみな踊る』村上春樹 新潮社[新潮文庫] 2025.10.13読了 阪神淡路大震災後の生活(といっても直接地震を体験した人ではない)をテーマにした、表題作を含む6作品が収められた短編集である。今月から公開された映画『アフター・ザ・クエイ…
『ユーチューバー』村上龍 幻冬舎[幻冬舎文庫] 2025.09.11読了 カタカナで「ユーチューバー」とあるのはどうも見慣れない。たいてい「YouTuber」だしそれが馴染んでいる。でもあえてカタカナにしたのは、村上龍さんのなんらかの企みがあるのかななんて。も…
『生活』町屋良平 ★ 新潮社 2025.07.18読了 物語性が薄めの小説を読みたいというヘンテコな欲望(この気持ちわかるだろうか…)が沸き立ち、それなら町屋良平さんの作品だなと思って選んだ。タイトルからして『生活』だし、ただ単に日常が描かれているのだろ…
『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈 新潮社[新潮文庫] 2025.07.08読了 軽妙軽快な平易な文章でストーリーもわかりやすく、あっという間に読み終えた。読後感は爽快。こういう地元愛溢れる作品は好感が持てる。滋賀県大津市膳所(ぜぜ)を舞台にした、とび…
『ニュークリア・エイジ』ティム・オブライエン 村上春樹/訳 文藝春秋[文春文庫] 2025.06.13読了 表紙のイラストに描かれた男性が何を掘っているのかって、それはもうシェルターを作るためだ。1995年のアメリカ・現代パートで、ウィリアムは妻ボビと娘メ…
『新編 銀河鉄道の夜』宮沢賢治 新潮社[新潮文庫] 2025.06.11読了 久しぶりに宮沢賢治さんの作品を読んだ。子どもの頃にはたくさん読んだ記憶はあるが、大人になってからちゃんと読んだことはあったろうか。15〜16年前に岩手に旅行をしたときに「宮沢賢治…
『光の犬』松家仁之 ★ 新潮社[新潮文庫] 2025.04.30読了 新潮社の松家仁之さん作品3か月連続刊行のラスト月。3月(正式には2月末)発売はこの文庫本『光の犬』と単行本『天使を踏むを畏れるところ』である。なんだか勿体無いような気がしてどちらも積んで…
『おそろし 三島屋変調百物語事始』宮部みゆき KADOKAWA[角川文庫] 2025.04.23読了 小気味よいリズムの語り口は、時代ものといえども大変読みやすい。2ヶ月ほど前に、書店の新刊コーナーに宮部みゆきさんの『猫の刻参り』が積み上げられていた。装幀もオシ…
『二重葉脈』松本清張 KADOKAWA[角川文庫] 2025.04.12読了 まるでスティーヴン・キングを思わせるような表紙のイラスト。車のイラストが表紙になることは結構多い気がする(カッコいいもんな)。この作品は、過去に読売新聞に連載された小説である。清張作…
『沈むフランシス』松家仁之 新潮社[新潮文庫] 2025.03.23読了 松家仁之さんの作品に魅了されたのは今年2月に『火山のふもとで』を読んでから。だからつい最近のこと。真に満たされる静謐な読書とはこのことだと深い感動を覚えた。だから、3ヶ月連続で松家…
『火山のふもとで』松家仁之 ★★ 新潮社[新潮文庫] 2025.02.05読了 書店を訪れる頻度はかなり高くて、いつも文芸の棚辺りをうろいているのに、松家仁之さんという作家のことを知らなかった。この『火山のふもとで』がデビュー作で、いきなり読売文学賞を受…
『源氏物語』1〜8 紫式部 角田光代訳 河出書房新社[河出文庫] 2025.01.18読了 日本文学最古の長編小説『源氏物語』を角田光代さん訳で読み通した。河出書房から日本文学全集として単行本が刊行された時から読みたくてたまらなかったが、ここは文庫化を待…
『結婚式のメンバー』カーソン・マッカラーズ 村上春樹/訳 新潮社[新潮文庫] 2024.12.16読了 マッカラーズの小説を読むのは、同じく村上春樹さんが訳した『心は孤独な狩人』に続いて2作目だ。 兄の結婚式を控えたフランキーは「気の触れた夏」を過ごした…
『大使とその妻』上下 水村美苗 ★★ 新潮社 2024.11.19読了 なんて美しい物語だろう。最後の数頁は、雑音を抹消して(流れていただけのテレビを消したり深呼吸したりとか)静寂の中じっくりと。読み終えた今、この余韻を深く深く味わっており、彼らだけでなく…
『バリ山行(さんこう)』松永K三蔵 講談社 2024.08.26読了 著者の松永さんが会見で「オモロイので」と語っていた通り、オモロくて何よりバリ読みやすかった。いや、『バリ山行』の「バリ」はこの意味じゃないのよね。タイトルを初めて目にした時は私は「と…
『名誉と恍惚』上下 松浦寿輝 ★★ 岩波書店[岩波現代文庫] 2024.03.21読了 数年前に上海1泊3日の弾丸ツアーをしたことがあって、上海ディズニーランドだけを目的に楽しむという旅だった。泊まったホテルも出来たばかりのトイ・ストーリーホテル。日本のディ…
『二人キリ』村山由佳 ★ 集英社 2024.03.11読了 ここ半年以内に、NHKの松嶋菜々子さんがプレゼンテーター役をしている番組で、阿部定事件のことが放映されているのを見た。昔世間を騒がせた事件だが、不思議と阿部定に同情を寄せたり敬する声も多い。こんな…
先週のことになるが、3月1日(金)に、早稲田大学大隈記念講堂にて開催された「村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会」に行ってきた。おそらく、私の書に耽る関連では今年のメインイベントの一つになるであろう。 早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラ…
『シャーロック・ホームズの凱旋』森見登美彦 中央公論新社 2024.02.03読了 そもそも、ホームズとワトソンが何故京都にいるんだ?そして、ホームズがまさかのスランプだと?寺町通に二条通、四条大宮に嵐山、南禅寺、下鴨神社、、京都の名だたる名所を駆け巡…
『八月の御所グラウンド』万城目学 文藝春秋 2023.9.3読了 まだまだ猛暑が続いているから9月に入ったとは到底思えない。今日は台風の影響で関東地方は比較的ひんやりとしている。本当は8月中に読もうとしていたのにうっかりしていた。万城目さん自身もきっと…
『新古事記』村田喜代子 講談社 2023.8.20読了 どうして『新古事記』なんだろう。『古事記』と関係があるのかしら。書店で気になり何気なく頁をパラパラすると、太平洋戦争の頃の話らしい。『古事記』とどう関わっているのか。最近『古事記転生』なる本がベ…
『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ 中央公論新社[中公文庫] 2023.7.20読了 2021年の本屋大賞受賞作。気になりつつも読めていなかったが、文庫化されてさっそく手に取った。クジラの形をした栞がかわいい。「感動した」とか「泣きながら読んだ」と絶賛さ…
『街とその不確かな壁』村上春樹 ★★ 新潮社 2023.6.10読了 濡れたふくらはぎに濡れた草の葉が張り付き、緑色の素敵な句読点となっていた。 読み始めてすぐ、7行めに出てくる文章である。裸足で水の上を駆ける少女のふくらはぎが濡れてそこに葉っぱやらが引っ…
『色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹 ★ 文藝春秋[文春文庫] 2023.4.13読了 仲の良かった4人が突然つくるの元から去ってしまった。その理由を尋ねると「自分で考えればわかるんじゃないか」「自分に聞いてみろよ」と言われる。理由もわか…
『無月の譜』松浦寿輝 ★ 毎日新聞出版 2023.3.26読了 将棋は運では決まらない。確実に知力と知力のぶつかり合いであり、また将棋の世界の奥行きは深い。とはいえ、私自身将棋は詳しくない。2016年に藤井聡太さんが中学生でプロ棋士になり日本中で将棋が流行…
『香港陥落』松浦寿輝 講談社 2023.2.23読了 過去に香港旅行に行った時、その煌びやかな夜景に圧倒された。今でも九龍半島の高架道から香港島の夜景を鑑賞する「シンフォニー・オブ・ライツ」の映像がまざまざと蘇る。しかし一番思い出すのは、外気温と建物…