書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

国内(は行の作家)

『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ|東大生ならではの弱み

『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ 文春文庫 2021.4.8読了 このタイトルとジャケットだけ見ると、ファンタジー作品だろうかと勘違いしてしまう。単行本が刊行されたときにはあまり気にも留めていなかった。しかし読んでみると、2016年に起きた「東大生集団…

『いつか王子駅で』堀江敏幸|疾走するのに和む堀江さんマジック

『いつか王子駅で』堀江敏幸 新潮文庫 2021.4.6読了 まるで谷崎潤一郎さんの『春琴抄』のように、一文がひたすら長い。私が今まで読んだ堀江さんの2作に比べても圧倒的な長さである。それでも、独特の言い回しとリズムのある文体が心地良く、いつしか読みや…

『野良犬の値段』百田尚樹|時代を象徴したエンタメ作品

『野良犬の値段』百田尚樹 幻冬舎 2021.3.5読了 もう小説は書かない、って百田尚樹さん言ってたのになぁ。しかもそんなに月日は経っていないのに。お馴染みの幻冬舎から出版されているから、見城さんから勧められたのかしら。いずれにせよ読者からすると、ま…

『河岸忘日抄』堀江敏幸|船での日々の営み

『河岸忘日抄(かがんぼうじつしょう)』堀江敏幸 新潮文庫 2021.3.4読了 先月読んだ堀江敏幸さんの『雪沼とその周辺』がぴたりと好みに合っていたから、2冊めを手に取る。読売文学賞を受賞された長編である。これは小説なのか随筆なのか、エッセイなのか。…

『水と礫』藤原無雨|文藝賞どうなのよ|巻き煙草とらくだ

『水と礫(れき)』藤原無雨(むう) 河出書房新社 2021.2.12読了 今注目を集める河出書房新社主催の文藝賞。この『水と礫』は去年の第57回受賞作で一番新しい作品である。文藝賞が何故注目されているのかというと、『推し、燃ゆ』で芥川賞を取った宇佐見り…

『雪沼とその周辺』堀江敏幸|品のある美しい文体を味わう

『雪沼とその周辺』堀江敏幸 ★ 新潮文庫 2021.2.6読了 現代日本における偉大な作家の1人である堀江敏幸さん。芥川賞を始め数多の文学賞を受賞し、早稲田大学の教授も務めている。現在では文学賞の選考委員もされている堀江さんは名前をよく目にするのだが、…

『女の家』日影丈吉/女中のための家

『女の家』日影丈吉 中公文庫 2020.11.3読了 日影丈吉さんという小説家のことは、名前も作品も知らなかった。1991年に既に亡くなられた方であるが、泉鏡花文学賞を始めいくつかの文学賞を受賞したようだ。 銀座のとある家で折竹幸枝(おりたけゆきえ)がガス…

『忘却の河』福永武彦/罪を背負い生きていく

『忘却の河』福永武彦 ★★ 新潮文庫 2020.9.28読了 先日読んだ『草の花』にとても心を奪われたので、同じく多くの人に読み継がれている福永武彦さんの『忘却の河』を読了した。 なんという小説だろう。読み終えた今も、余韻を楽しむというか、ぼうっと虚ろな…

『風立ちぬ・美しい村・麦藁帽子』堀辰雄/風が立ったら前を向こう

『風立ちぬ・美しい村・麦藁帽子』堀辰雄 角川文庫 2020.9.14読了 実はまだこの作品は未読であった。誰もが知る有名な作品だからこそ、かえって読む機会が遠のくというのは実はよくあるのではないだろうか?先日福永武彦さんの『草の花』を読んでから堀辰雄…

『草の花』福永武彦/孤独な生きもの

『草の花』福永武彦 ★ 新潮文庫 2020.8.17読了 なんの本だったか忘れてしまったが、この福永武彦さんの『草の花』が出てきて、ずっと気になっていた。恥ずかしながら、福永武彦さんのことは今まで知らずにいたのだけれど、戦後の日本文学に大きな影響を与え…

『サロメ』原田マハ/破滅するほどの愛が美麗で狂気な絵に

『サロメ』原田マハ 文春文庫 2020.6.21読了 聖書の一場面を独自にアレンジした『サロメ』は、オスカー・ワイルド氏による戯曲である。本当は、先に読むなり知識を深めてからこの小説を読むべきだったかなと思う。しかし、プロローグにて詳細に概要が語られ…

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ/無知を知ること

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮社 2020.5.28読了 このブログを見てくださっている本好きな方で、この本の存在を知らない人はいないだろう。去年のノンフィクション部門のタイトルをいくつも取り、未だ売れ続けている…

『コンニャク屋漂流記』星野博美/自分のルーツを辿る

『コンニャク屋漂流記』星野博美 文春文庫 2020.3.28読了 神保町にある大好きな新刊書店に、星野博美さんの本がいくつか平積みされていた。これは何だろう?見たことも聞いたこともない著者だし、タイトルも変わっている。たまには、いつも選ばない本でも読…

『手のひらの音符』藤岡陽子/心温まる希望あふれる小説

『手のひらの音符』藤岡陽子 新潮文庫 2020.3.14読了 初読みの作家さんである。タイトル、表紙、そして帯の文を見ただけで、正統派の小説なんだろうと予想できる。読み終えた今、予想に違わず良い小説だなと温かい気持ちになることが出来た。 長年働いていた…

『錨を上げよ』百田尚樹/知性を持った破天荒な作田又三の冒険

『錨を上げよ』 百田尚樹 ★ 〈一〉出航篇 〈二〉座礁篇 〈三〉漂流篇 〈四〉抜錨篇 幻冬舎文庫 2019.12.23読了 百田尚樹さんの自伝的小説が文庫本になった。百田さんおなじみの幻冬舎である。幻冬舎のイメージがあるのは、やしきたかじんさんのフィクション…

『美しき愚かものたちのタブロー』原田マハ / 優れた芸術作品を世に広める人たち

『美しき愚かものたちのタブロー』原田マハ 文藝春秋 2019.9.8読了 東京、上野にある国立西洋美術館で現在展示されている「松方コレクション」を観る前に、読んでおこうと思った。おそらく、この本も展示に合わせて発売されたのだろう。日本に、西洋の優れた…

『「カッコいい」とは何か』 平野啓一郎 / 好き、という気持ちに近いのではないか

『「カッコいい」とは何か』 平野啓一郎 講談社現代新書 2019.8.12読了 平野さんは、小説以外でこのテーマをずっと書きたくて温めていたそうだ。これを読んだ後、なんだか気軽にカッコいいという言葉を使うのが憚られるような思いになった。「カッコいい」と…

『夏の騎士』 百田尚樹 / 子供の頃にはわからない大切なこと

『夏の騎士』 百田尚樹 新潮社 2019.8.3 読了 43歳の遠藤宏志が、小学生の頃のひと夏の思い出を回想するストーリーである。読み心地は、さすが百田さん、抜群に良い。誰もが読みやすく、誰もが読了後には爽快な気持ちになると思う。 特に男の子であればほと…

『旅をする木』 星野道夫 / 人生をどうよく生きるか

『旅をする木』 星野道夫 文春文庫 2019.6.21読了 大型書店に行くと、たいてい文春文庫の平置き棚の前にベストセラーとして積み上げてある。だから、この本の存在は随分前から知っていて、いつか読みたいとは思っていた。しかし、紀行文・短編であるためか、…

『呪文』 星野智幸 / 今風の小説は今しか理解できないだろう

『呪文』 星野智幸 河出文庫 2019.2.20読了 今日も初読みの方の本。星野智幸さんの作品は、『俺俺』という小説が単行本で並んでいる時から興味を持っていた。タイトルからして、当時よくニュースになっていたオレオレ詐偽の話だなと思っていたのもあるが、表…

『考える葦』 平野啓一郎 / 人間は考えるために生きる

『考える葦』 平野啓一郎 キノブックス 2019.2.7読了 小説以外で平野さんの本を読むのは始めてである。平野さんの文章は読む度に圧巻で、これほどまでに文才があり、これほど豊富な語彙や表現力がある人が現代にいるのかと常々思っており、大好きな小説家の1…

「ベルリンは晴れているか」 深緑野分

「ベルリンは晴れているか」 深緑野分 筑摩書房 2019.1.7読了 1940年代のドイツ、ベルリン、主人公アウグステの数日間の物語。戦争が終わった後をひたむきに生きる人達。幕間がいくつか挟まれており、少女時代のエピソードが挿入されている。 少し前から新聞…