書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2019-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『服従』ミシェル・ウエルベック/政治への服従、男女間の服従

『服従』ミシェル・ウエルベック 大塚桃/訳 河出文庫 2019.11.28読了 先日読んだ『プラットフォーム』に次いで、ウエルベックは2冊目である。1冊読んで、なんとなく読んでいて私にはしっくりくる空気感だった。いつも言っている、読み心地のこと。 2022年の…

『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』トルストイ / トルストイの中編小説を噛み締める

『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』 トルストイ 望月哲男/訳 光文社古典新訳文庫 2019.11.25読了 トルストイの後期中編が2作収められている。私はロシアの小説家ではドストエフスキーよりもトルストイの方が好きだ。まだ、ドストエフスキーの…

『遠い山なみの光』カズオ・イシグロ / 歳と経験を重ねてようやく理解できることもある

『遠い山なみの光』カズオ・イシグロ 小野寺健/訳 ハヤカワepi文庫 2019.11.23読了 カズオ・イシグロさんの小説で女性を主人公にしている作品は珍しいような気がする。それに、この小説に登場するのもほとんどが女性である。語り手の悦子が、過去を回想する…

『永在する死と生』柳美里 / 伴侶とともに生きていく

『柳美里 自選作品集 第一巻 永在する死と生』柳美里 ★ KKベストセラーズ 2019.11.20読了 柳美里さんの作品は好きなのだが、実はまだ『命』4部作を読んでいなかった。新潮文庫から刊行されている4冊は、今や書店にはなく、仕方なく中古でもいいからと考え…

『壁の男』貫井徳郎/才能は関係ない、絵は描いた人の心を表す

『壁の男』 貫井徳郎 ★ 文春文庫 2019.11.16読了 小説の中に絵画作品が出てくるとき、私は大抵、こんな絵だろう、と勝手に想像してしまう。今回の、壁に絵を描き続ける男の絵は、アンリ・マティスのような絵か、はたまた話題のバスキアのような絵か。太い線…

『犯罪者』太田愛 / 脚本家が小説を書くとこうなる

『犯罪者』上下 太田愛 ★ 角川文庫 2019.11.14読了 最近、文庫本に掛けてある本の紹介帯が本全体を覆うようになっていて、カバーが二重になっているようなものをたまに見かける。出版社が作っているものもあれば、書店独自のものもあるようだ。私は全面を覆…

『犬と鴉』田中慎弥 / 人は悲しめば悲しむほど満腹になる

『犬と鴉(からす)』田中慎弥 講談社文庫 2019.11.10読了 表題作を含む3編の中短編が収録されている。過去に私が読んだ2作品に比べると、1番昔に書かれたようだ。前回読んだ『燃える家』に非常に圧倒されたから、それには劣るだろうと、あまり期待を持たず…

『プラットフォーム』ミシェル・ウエルベック / 虚無を抱えて生きる

『プラットフォーム』ミシェル・ウエルベック 中村佳子/訳 河出文庫 2019.11.9読了 書店でミシェル・ウエルベック氏の本をたまに見かけるが、こんなに有名な人だったのか。そして、なかなか面白い本を書く人だな、さすが現代ヨーロッパを代表する作家だと感…

『ゴリラに学ぶ男らしさ 男は進化したのか?』山極寿一 / 人間の方が変わっているのかもしれない

『ゴリラに学ぶ男らしさ 男は進化したのか?』山極寿一 ちくま文庫 2019.11.5読了 ゴリラ研究の世界的権威、山極寿一先生の著作である。タイトルに「男らしさ」とあるが、ジェンダーレスが叫ばれている現代には、相応しくないのでは?なかなか挑戦するな〜、…

『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美 / 目に見えない大事なものを表現する

『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美 講談社文庫 2019.11.4読了 川上さんの小説を読むのは久しぶりである。本当は、新刊の『某(ぼう)』が気になっているのだけれど、とりあえず文庫になったばかりの本作品を読むことにした。 不思議な読後感である。連…

『紙の動物園』ケン・リュウ / 柔らかく優しいSF作品集

『紙の動物園』 ケン・リュウ 古沢嘉通/編・訳 ハヤカワ文庫 2019.11.3読了 又吉直樹さんだけでなく、多くの人がお薦めしているこの作品、前から気になっていたけれど、短編だしな〜、SFだしな〜、と今まで読みあぐねていた。のだが、ついに。 この文庫本に…

『オーガ(ニ)ズム』阿部和重 / 阿部ワールド全開

『オーガ(ニ)ズム』阿部和重 文藝春秋 2019.11.2読了 阿部さんの新刊は読む前から楽しみ過ぎる。しかも神町シリーズなんて。分厚くて重くて持ち歩くのが大変だけど、期待を胸に込めて、さて読むぞ!と読み始める時のウキウキ感が半端ない。こういう気持ち…