書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『夜が明ける』西加奈子|「助けてください」と言える、言わせる社会に

『夜が明ける』西加奈子 ★★ 新潮社 2021.10.28読了 圧倒的なパワーがある。西さんの文章は誰でも読みやすくてすらすら頁が進むのに、魂がこもっていて重たい。この小説の主人公とその友人がたどる道は正直つらい。読んでいて結構苦しかったのだけれど、最後…

『ワインズバーグ、オハイオ』シャーウッド・アンダーソン|ある街での人々のいとなみ

『ワインズバーグ、オハイオ』シャーウッド・アンダーソン 上岡伸雄/訳 新潮文庫 2021.10.25読了 前から読みたかった小説である。期待していた通り、なかなか好みの作品であった。大切に、じっくりと、耳を澄ませて、街並みと人物を想像しながらゆっくりと…

『作家は時代の神経である コロナ禍のクロニクル2020→2021』髙村薫|コロナ禍でみえたもの

『作家は時代の神経である コロナ禍のクロニクル2020→2021』髙村薫 毎日新聞出版 2021.10.23読了 新型コロナウィルスの新規感染者が急激に減り、このまま第6波も来ないで完全に収束して欲しい。国民の誰もがそう期待し、私たちの生活は実際にコロナ禍以前の…

『自転車泥棒』呉明益|心を込めて修理し、大切に使われるモノ

『自転車泥棒』呉明益 天野健太郎/訳 文春文庫 2021.10.21読了 台湾の情景を想像すると、なぜか懐かしく感じる。一度しか行ったことがないのに何故「懐かしさ」を感じるのだろうか。おそらく過去に台湾を舞台にした小説を読みそう感じたのだろう。台湾の歴…

『リトル・シスター』レイモンド・チャンドラー|マーロウ、余裕がないぞ|突然の山本文緒さんの訃報

『リトル・シスター』レイモンド・チャンドラー 村上春樹/訳 ハヤカワ文庫 2021.10.18読了 雑誌『BRUTUS』とても売れているみたい。それもそのはず、村上春樹さんの特集が組まれているから。やっぱり彼の人気は改めてものすごい。村上主義者(本人はハルキ…

『さよなら、ニルヴァーナ』窪美澄|人間の中身を見たい

『さよなら、ニルヴァーナ』窪美澄 文春文庫 2021.10.16読了 衝撃を受けた事件といえば、私の中ではオウム真理教による地下鉄サリン事件、4人の幼児・幼女を誘拐し殺人した宮崎勤事件、そして、神戸児童連続殺傷事件である。子供を殺し首を小学校の門に置い…

『狭き門』ジッド|宗教的信念を貫くアリサ

『狭き門』アンドレ・ジッド 中条省平・中条志穂/訳 光文社古典新訳文庫 2021.10.14読了 聖書・マタイによる福音書七章抜粋 狭き門より入れ、滅びにいたる門は大きく、その路は広く、これより入る者おほし。生命にいたる門は狭く、その路は細く、これを見出…

『長い一日』滝口悠生|断片的な知識やエピソードが息づいている

『長い一日』滝口悠生 ★ 講談社 2021.10.12読了 これは私小説になるのだろうか。日記のようなエッセイのような。語り手が個人事業主、青山七恵さんや柴崎友香さんが登場、極め付けは滝口さんと呼ばれている箇所を読んだこと。いや、これはもう滝口悠生さん本…

『狼王ロボ シートン動物記』シートン|動物たちも感情豊かに生き抜くのだ

『狼王ロボ シートン動物記』シートン 藤原英司/訳 集英社文庫 2021.10.10読了 子供の頃に夢中になって読んだ『シートン動物記』と『ファーブル昆虫記』。全巻揃えたのか図書館で借りて読んだのかは覚えていないけれど、動物や昆虫など生き物について学ぶの…

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼|話題作は気になりますね

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼 講談社文庫 2021.10.9読了 単行本が刊行された2年前、かなり話題になっていたのも知っていたが、私は読まないだろうと思っていた。美少女チックな表紙のイラスト、城塚翡翠(じょうづかひすい)なんていうキラキラネー…

『ソラリス』スタニスワフ・レム|3つの問題意識を読み解けるか

『ソラリス』スタニスワフ・レム 沼野充義/訳 ハヤカワ文庫 2021.10.6読了 今年はポーランドの作家スタニスワフ・レムの生誕100年になるという。先月、国書刊行会から『インヴィンシブル 』が新訳で単行本として刊行され、かなり売れているというから、日本…

『ミシンの見る夢』ビアンカ・ピッツォルノ|手に職をつけること

『ミシンの見る夢』ビアンカ・ピッツォルノ 中山エツコ/訳 河出書房新社 2021.10.4読了 手に職をつけること。いくら時代が変わって、工場生産やAIでほとんどのものがまかなえるとしても、最後は人の手による細かな技術と知恵が必要である。これだけは未来永…

『旅する練習』乗代雄介|好きなものと一緒に生きる

『旅する練習』乗代雄介 講談社 2021.10.1読了 中学受験を終えた亜美と、小説家の叔父さん(作品の中で語り手のわたし)は、コロナ禍の中ではあるが旅に出る。それも、千葉から利根川沿いを歩き、埼玉の鹿島アントラーズの本拠地スタジアムに向かうというも…

『アサイラム・ピース』アンナ・カヴァン|書くことで救われたように、読むことで救われるだろう

『アサイラム・ピース』アンナ・カヴァン 山田和子/訳 ちくま文庫 2021.9.30読了 一度読んだらその文体の虜になると言われているアンナ・カヴァンさん。代表作『氷』よりもまず先に、本名からアンナ・カヴァン名義に変えて最初の作品である本作を読んだ。 …