書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

◇エッセイ・日記

『新版 思考の整理学』外山滋比古|寝かせる、忘れる、考える

『新版 思考の整理学』外山滋比古 筑摩書房[ちくま文庫] 2024.02.18読了 東大生、京大生に一番読まれた、とかなんとかの帯を外して、安野光雅さんの素敵なイラストのジャケット姿をパシャリ。ちくま文庫で長らくベストセラーとなっていた『思考の整理学』…

『冬の日誌/内面からの報告書』ポール・オースター|若かりし日から思慮深かった彼は、最初から言語の世界にいた

『冬の日誌/内面からの報告書』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★ 新潮社[新潮文庫] 2024.01.15読了 もともと単行本は1冊づつ刊行されていたが、文庫化に伴い1冊に収められた。ノンフィクションだけど私小説やエッセイとも取れる。自身の身体のことを書…

『サル化する社会』内田樹|専門分野は独立しているわけではなく全てに繋がっている

『サル化する社会』内田樹 文藝春秋[文春文庫] 2023.6.6読了 内田樹さんが「なんだかよくわからないまえがき」と題している前書きで、今の日本社会では「身のほどを知れ、分際をわきまえろ」という圧力が行き渡りすぎていると言っている。身の程を知れ、と…

『樋口一葉赤貧日記』伊藤氏貴|底辺の人びとを描く貧困のリアリズム

『樋口一葉赤貧日記』伊藤氏貴 中央公論新社 2023.3.16読了 先日川上未映子さんがTwitterでこの本をおすすめしていた。確か新幹線での移動中で2巡目を読んでいたと思う。川上さんは樋口一葉著『たけくらべ』の口語訳も手掛けているから思い入れも強いはずだ…

『イリノイ遠景近景』藤本和子|翻訳家が語る上質なエッセイ

『イリノイ遠景近景』藤本和子 筑摩書房[ちくま文庫] 2023.2.19読了 昨年末に読んだトニ・モリスン著『タール・ベイビー』の訳者が藤本和子さんで、そうだ、このエッセイを読もうかなと思っていた。他の本をつまみ食いしていて忘れかけていたのだが、先日…

『僕は珈琲』片岡義男|私も珈琲|東京堂書店

『僕は珈琲』片岡義男 光文社 2023.2.1読了 なんて味わい深い文章を書く人なんだろう。淡々とした中にも、読み手が想像を巡らせてしまう独特の空気がある。片岡義男さんの短編を読んだある編集者から「出来事だけが物語のなかに書いてある。筆者の気持ちをい…

『アンネの日記 』アンネ・フランク|死んでもなお人々の心のなかに生き続ける

『アンネの日記 増補新訂版』アンネ・フランク 深町眞理子/訳 文藝春秋[文春文庫] 2022.12.13読了 先日読んだ『あとは切手を、一枚貼るだけ』という小川洋子さんと堀江敏幸さんの共著作品(2人の書簡小説)で、小川洋子さんのパートで何度も登場したのが…

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒|誰かと一緒に過ごして得られるもの

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒 集英社インターナショナル 2022.12.5読了 この作品は去年の9月に刊行され、私が買った本の奥付を見ると既に9刷の版を重ねている。2022年Yahoo!ニュース|本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した、ほ…

『すべて忘れてしまうから』燃え殻|くすぐったい懐かしさとほっこりする優しさ

『すべて忘れてしまうから』燃え殻 新潮社[新潮文庫] 2022.9.23読了 燃え殻さんの小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、大人泣き必須ということで話題になり映像化もされた。著者の燃え殻さんは、映像美術の仕事をしながら執筆をしている。現代…

『天才』石原慎太郎|鋭い先見の明で日本を立て直す|そして、絶筆

『天才』石原慎太郎 幻冬社[幻冬舎文庫] 2022.5.22読了 大物になる人物は得てしてそうであるが、子供の頃の角栄さんも飛び抜けて頭が良く、小さいうちから物事の道理をわきまえ、根回しといったものを自然と覚え骨肉としていった。 何がすごいって、角栄さ…

『運命の絵 もう逃れられない』中野京子|強く印象に残る絵

『運命の絵 もう逃れられない』中野京子 文藝春秋[文春文庫] 2022.4.13読了 3年近く前に、東京・上野で開催された「コートルード美術館展」を訪れた。まだコロナが始まる前で美術館はどこも混雑しており、本当は近くで開催されていた別の美術展を観に行く…

『たそがれてゆく子さん』伊藤比呂美|老い先の指南書

『たそがれてゆく子さん』伊藤比呂美 中公文庫 2021.12.8読了 書店に『ショローの女』という本が新刊で積み上げられているのを目にした。ショローって、初老だよなぁ。初老は、今はだいたい50〜60歳くらいを指すようだが、平均寿命がまだ低かった昔は40歳を…

『断片的なものの社会学』岸政彦|言葉にするほどのない物事を絶妙に表現する

『断片的なものの社会学』岸政彦 朝日出版社 2021.11.11読了 岸政彦さんといえば、東京に暮らす150人にインタビューしそれをまとめた『東京の生活史』が話題になっている。かなり分厚くて値段もまぁまぁなのに、すでに4刷の増刷が決まったらしい。私が岸さん…

『作家は時代の神経である コロナ禍のクロニクル2020→2021』髙村薫|コロナ禍でみえたもの

『作家は時代の神経である コロナ禍のクロニクル2020→2021』髙村薫 毎日新聞出版 2021.10.23読了 新型コロナウィルスの新規感染者が急激に減り、このまま第6波も来ないで完全に収束して欲しい。国民の誰もがそう期待し、私たちの生活は実際にコロナ禍以前の…

『生き物の死にざま』稲垣栄洋|自然界を懸命に生きる

『生き物の死にざま』稲垣栄洋 草思社 2021.9.2読了 先日、家の中に入り込んできた蚊を掃除機で吸い込んだ。なかなか叩くチャンスがなく(本当は潰したくないけど家にいるのが気になる)、天井付近にいたのをなんとか仕留めた。蚊は掃除機の中で息絶えると思…

『正弦曲線』堀江敏幸|恋してしまったらしい

『正弦曲線』堀江敏幸 ★ 中公文庫 2021.7.7読了 著者の堀江敏幸さんは、三角関数のサイン、コサイン、タンジェントの「サイン」を書くときには必ず日本語で「正弦」と括弧付きで入れるそうだ。日本語のその響きと、漢字そのものの美しさを愛する所以だろう。…

『大阪』岸政彦 柴崎友香|大人の芳しい上質な随筆集

『大阪』岸政彦 柴崎友香 河出書房新社 2021.6.10読了 生まれ育った街を「地元」という。小さい頃から転勤を繰り返していた私は、どんな環境でもある程度馴染めるという術をおぼえて育った。小学生高学年から一つの地域に長く住んだから、私が「地元」と言え…

『陰翳礼讃・文章読本』谷崎潤一郎|日本の文化と日本語の美しさ|随筆を通俗語にしようよ

『陰翳礼讃・文章読本』谷崎潤一郎 新潮文庫 2021.3.28読了 谷崎潤一郎さんの『陰翳礼讃』『文章読本』という2大随筆と、他に短い作品が3つ収録された随筆集である。どの作品も素晴らしい文章で散りばめられている。日本の文化と日本語の美しさが、これまた…

『生きるとか死ぬとか父親とか』ジェーン・スー|母が繋ぐ父と娘の絆

『生きるとか死ぬとか父親とか』ジェーン・スー 新潮文庫 2021.3.10読了 このジェーン・スーさんという方、私が知ったのは最近なのだが、なかなかおもしろい方のようだ。自らを「未婚のプロ」と称し、生粋の日本人なのに外国人であるかのような名前をつけて…

『街場の天皇論』内田樹|天皇制について考えてみよう

『街場の天皇論』内田樹 文春文庫 2021.2.19読了 2016年8月、当時の天皇陛下が「おことば」を述べられた。著者の内田樹さんは、陛下の「おことば」は、日本人が天皇制について根源的に考えるための絶好の機会を提供してくれたものと感謝の気持ちを以て受け止…

『言葉を離れる』横尾忠則/絵と言葉は本当に正反対か

『言葉を離れる』横尾忠則 講談社文庫 2020.12.29読了 やはり表現者だなぁと心底思う。文章は長ったらしく句読点も少なくて読みにくいのに、人の心を掴む魂を紡いでくる。美術家、横尾忠則さんのエッセイだ。それもある意味「本」「言葉」に対する否定の書と…

『美しいものを見に行くツアーひとり参加』益田ミリ/女子のための旅行ガイド

『美しいものを見に行くツアーひとり参加』益田ミリ 幻冬舎文庫 2020.12.27読了 イラストレーター益田ミリさんの旅行エッセイ。ほっこりしたイラストは見たことがあっても、これが益田ミリさんが描いたものであること、本(エッセイ中心)を多数出されている…

『日日是好日 ー「お茶」が教えてくれた15のしあわせー』森下典子/日々の気付きを大切に

『日日是好日(にちにちこれこうじつ) ー「お茶」が教えてくれた15のしあわせー』 森下典子 新潮文庫 2020.11.6読了 朝日新聞が、本のための情報サイトとして「好書好日(こうしょこうじつ)」を運営している。たまに見ることがあるのだが、「好日」繋がり…

『ぐるぐる♡博物館』三浦しをん/行きたい、会いたい博物館

『ぐるぐる♡博物館』三浦しをん 実業の日本社文庫 2020.10.22読了 ちょっとエッセイでも読んで休憩。小説が好きだからどうにも偏りがちだが、なるべく10冊に1冊は小説以外を読むようにしている。しかし振り返るとここ最近は小説が連続していたから、少し読む…

『太陽と鉄・私の遍歴時代』三島由紀夫/肉体と精神・三島たらしめるもの

『太陽と鉄・私の遍歴時代』三島由紀夫 中公文庫 2020.8.22読了 三島由紀夫さんの自伝的エッセイが2篇と、自衛隊駐屯地で自決する少し前のインタビューが収録されている。まぁ、2篇の極端なことったらない。なるべく我慢して巻末の解説は最後に読もうとして…

『不道徳教育講座』三島由紀夫/叡智を感じるエッセイ

『不道徳教育講座』三島由紀夫 角川文庫 2020.7.22読了 いやはや、三島さんは何を書いても一級品だ。有名すぎるこのエッセイ、実はまだ未読だったのだが、今年のカドフェスで店頭に並べてあったのを手に取り購入した。これが、なんともウィットに富んでいて…

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹/誰もが平凡な1人の人間である

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹 絵・高妍 文藝春秋 2020.6.5読了 村上春樹さんの小説やエッセイには、家族のことはほとんど書かれていない。敢えて登場する人と言えば、奥さまだろう。「妻と美味しいワインと料理をたしなむ」なんていうシーン…

『志村流』志村けん/コント以上に笑顔が好きかもしれない

『志村流』志村けん 三笠書房 王様文庫 2020.5.8読了 新型コロナウイルス感染が原因で3月29日に亡くなられた志村けんさん。このニュースを聞いた時は本当に驚いた。その時は残念な気持ちになっただけで、本当にじわじわと心に重くのしかかってきたのはしばら…

『書評稼業四十年』北上次郎/本のあとがき・解説は絶対に最後に読んで

『書評稼業四十年』北上次郎 本の雑誌社 2020.3.19読了 小説をよく読む人なら、北上次郎さんの名前を目にしたことはあるだろう。特に文庫本の解説をされていることが多い。そんな北上さんの40年に及ぶ書評業について書かれた読み物だ。エッセイのようで読み…

『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』川上和人/鳥への愛が見え隠れ

『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』川上和人 新潮文庫 2020.3.10読了 本当はベストセラーになった『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』が読みたかったのだが、まだ文庫になっていないため、まずは手っ取り早い本書を手に取る。猿を始め動物好きの私は…