書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2019-01-01から1年間の記事一覧

『書楼弔堂 炎昼』京極夏彦/古典文学の指南書

『書楼弔堂 炎昼』京極夏彦 集英社文庫 2019.12.28読了 シリーズ1弾を読んだ時も思ったのだが、この小説は、文学や芸能において、昔の優れた人物や本を紹介する指南書のように思う。 本作品も連作短編のような形式を取り、章ごとに人物の紹介がなされる。と…

『ムーン・パレス』ポール・オースター/何度も読み返したい本

『ムーン・パレス』ポール・オースター 柴田元幸/訳 ★★ 新潮文庫 2019.12.26読了 なんて心地良いんだろう。読んでいる時間が愛おしくなる。ポール・オースターの名前はもちろん知っていたが、実はまだ読んだことがなかった。もっと早く読めばよかった!こう…

『錨を上げよ』百田尚樹/知性を持った破天荒な作田又三の冒険

『錨を上げよ』 百田尚樹 ★ 〈一〉出航篇 〈二〉座礁篇 〈三〉漂流篇 〈四〉抜錨篇 幻冬舎文庫 2019.12.23読了 百田尚樹さんの自伝的小説が文庫本になった。百田さんおなじみの幻冬舎である。幻冬舎のイメージがあるのは、やしきたかじんさんのフィクション…

『幻夏』太田愛 / 冤罪によるその後の人生

『幻夏』太田愛 ★ 角川文庫 2019.12.17 読了 先月読んだ『犯罪者』シリーズの2作目である。1作目を読んだのが1か月前だし、その後家族に貸して本についても会話をしたからか、内容はほぼ鮮明に覚えている。今回の話は、交通課刑事、相馬に視点をおいた物語だ…

『現代語古事記』竹田恒泰/日本最古の歴史書は、特に神の代(神話)がおもしろい

『現代語古事記 ポケット版』竹田恒泰 学研 2019.12.14読了 美容院では、いつも雑誌は読まずに本を持参する。最近そういう人は少ないようで、昔通っていたサロンの美容師さんに言われた。その時に本の話になり、その方に薦めてもらったのが、『古事記』だっ…

『奇蹟』中上健次/骨太で濃密な文体を堪能する

『奇蹟』中上健次 河出文庫 2019.12.12読了 この本は、私の家にある「これから読む本たち」の箱に3~4年前から入っていた。いわゆる積読状態。一つ前に読んだ対談集に、中上健次さんの名前がちらほら挙がっていたので、気になって読むことにした。なんでも…

『みみずくは黄昏に飛びたつ』川上未映子・村上春樹/小説は信用取引で成り立つ

『みみずくは黄昏に飛びたつ 川上未映子 訊く/村上春樹 語る』 川上未映子・村上春樹 新潮文庫 2019.12.10読了 村上春樹さんの小説のなかで、私の一番のお気に入りは、『騎士団長殺し』である。刊行されたのとほぼ同じくして、この対談集も単行本で書店に並…

『沈黙法廷』佐々木譲/裁判を傍聴してみたい

『沈黙法廷』佐々木譲 新潮文庫 2019.12.9読了 佐々木譲さんの『警官の血』が面白くて、一時期は佐々木さんの本をよく読んでいたのだが、数年ぶりである。ちなみに、『警官の血』は、ビートたけしさん主演でドラマ化されたが、それも結構面白かった。 今回の…

『この世の春』宮部みゆき/時代ものファンタジー、するりと物語世界へ

『この世の春』上中下 宮部みゆき 新潮文庫 2019.12.6読了 宮部みゆきさんの小説を読むのは久しぶりである。『小暮写真館』以来か、はたまた、文庫で読んだ『荒神』以来かもしれない。何となく、宮部節を読みたくなり手に取った。 今回の小説は時代小説だ。…

『眞晝の海への旅』辻邦生/辻さんが書くとミステリーにならない

『眞晝(まひる)の海への旅』辻邦生 小学館P+D BOOKS 2019.12.1読了 大好きな辻さんの文章を味わいたくて手に取る。この作品は、元は新潮文庫にあったようだけれど、今はP+D BOOKSでしか刊行されていないようだ。紙質はいいとは言えないけ…

『服従』ミシェル・ウエルベック/政治への服従、男女間の服従

『服従』ミシェル・ウエルベック 大塚桃/訳 河出文庫 2019.11.28読了 先日読んだ『プラットフォーム』に次いで、ウエルベックは2冊目である。1冊読んで、なんとなく読んでいて私にはしっくりくる空気感だった。いつも言っている、読み心地のこと。 2022年の…

『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』トルストイ / トルストイの中編小説を噛み締める

『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』 トルストイ 望月哲男/訳 光文社古典新訳文庫 2019.11.25読了 トルストイの後期中編が2作収められている。私はロシアの小説家ではドストエフスキーよりもトルストイの方が好きだ。まだ、ドストエフスキーの…

『遠い山なみの光』カズオ・イシグロ / 歳と経験を重ねてようやく理解できることもある

『遠い山なみの光』カズオ・イシグロ 小野寺健/訳 ハヤカワepi文庫 2019.11.23読了 カズオ・イシグロさんの小説で女性を主人公にしている作品は珍しいような気がする。それに、この小説に登場するのもほとんどが女性である。語り手の悦子が、過去を回想する…

『永在する死と生』柳美里 / 伴侶とともに生きていく

『柳美里 自選作品集 第一巻 永在する死と生』柳美里 ★ KKベストセラーズ 2019.11.20読了 柳美里さんの作品は好きなのだが、実はまだ『命』4部作を読んでいなかった。新潮文庫から刊行されている4冊は、今や書店にはなく、仕方なく中古でもいいからと考え…

『壁の男』貫井徳郎/才能は関係ない、絵は描いた人の心を表す

『壁の男』 貫井徳郎 ★ 文春文庫 2019.11.16読了 小説の中に絵画作品が出てくるとき、私は大抵、こんな絵だろう、と勝手に想像してしまう。今回の、壁に絵を描き続ける男の絵は、アンリ・マティスのような絵か、はたまた話題のバスキアのような絵か。太い線…

『犯罪者』太田愛 / 脚本家が小説を書くとこうなる

『犯罪者』上下 太田愛 ★ 角川文庫 2019.11.14読了 最近、文庫本に掛けてある本の紹介帯が本全体を覆うようになっていて、カバーが二重になっているようなものをたまに見かける。出版社が作っているものもあれば、書店独自のものもあるようだ。私は全面を覆…

『犬と鴉』田中慎弥 / 人は悲しめば悲しむほど満腹になる

『犬と鴉(からす)』田中慎弥 講談社文庫 2019.11.10読了 表題作を含む3編の中短編が収録されている。過去に私が読んだ2作品に比べると、1番昔に書かれたようだ。前回読んだ『燃える家』に非常に圧倒されたから、それには劣るだろうと、あまり期待を持たず…

『プラットフォーム』ミシェル・ウエルベック / 虚無を抱えて生きる

『プラットフォーム』ミシェル・ウエルベック 中村佳子/訳 河出文庫 2019.11.9読了 書店でミシェル・ウエルベック氏の本をたまに見かけるが、こんなに有名な人だったのか。そして、なかなか面白い本を書く人だな、さすが現代ヨーロッパを代表する作家だと感…

『ゴリラに学ぶ男らしさ 男は進化したのか?』山極寿一 / 人間の方が変わっているのかもしれない

『ゴリラに学ぶ男らしさ 男は進化したのか?』山極寿一 ちくま文庫 2019.11.5読了 ゴリラ研究の世界的権威、山極寿一先生の著作である。タイトルに「男らしさ」とあるが、ジェンダーレスが叫ばれている現代には、相応しくないのでは?なかなか挑戦するな〜、…

『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美 / 目に見えない大事なものを表現する

『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美 講談社文庫 2019.11.4読了 川上さんの小説を読むのは久しぶりである。本当は、新刊の『某(ぼう)』が気になっているのだけれど、とりあえず文庫になったばかりの本作品を読むことにした。 不思議な読後感である。連…

『紙の動物園』ケン・リュウ / 柔らかく優しいSF作品集

『紙の動物園』 ケン・リュウ 古沢嘉通/編・訳 ハヤカワ文庫 2019.11.3読了 又吉直樹さんだけでなく、多くの人がお薦めしているこの作品、前から気になっていたけれど、短編だしな〜、SFだしな〜、と今まで読みあぐねていた。のだが、ついに。 この文庫本に…

『オーガ(ニ)ズム』阿部和重 / 阿部ワールド全開

『オーガ(ニ)ズム』阿部和重 文藝春秋 2019.11.2読了 阿部さんの新刊は読む前から楽しみ過ぎる。しかも神町シリーズなんて。分厚くて重くて持ち歩くのが大変だけど、期待を胸に込めて、さて読むぞ!と読み始める時のウキウキ感が半端ない。こういう気持ち…

『ドリアン・グレイの肖像』オスカー・ワイルド / 外見の醜さよりも、内面の醜さの方が恐ろしい

『ドリアン・グレイの肖像』オスカー・ワイルド 富士川義之/訳 岩波文庫 2019.10.28読了 著者も作品名も勿論知っていたが、実はオスカー・ワイルドの作品を読むのは初めてである。いや、童話『幸福な王子』はもしかしたら子供の頃に読んだかもしれない。『…

『昏き目の暗殺者』マーガレット・アトウッド / 皮肉たっぷりの老女アイリスの回想記

『昏き目の暗殺者』上・下 マーガレット・アトウッド 鴻巣友季子/訳 ハヤカワepi文庫 2019.10.26読了 10月10日に、今年のノーベル文学賞が発表された。去年の分と合わせて2名、ポーランドの女性作家オルガ・トカルチュク氏と、オーストリアの男性作家ピータ…

『ゴールドラッシュ』柳美里 / ある少年の狂気と哀しみ、そして光明

『ゴールドラッシュ』柳美里 ★ 新潮文庫 2019.10.21読了 この小説を読むのは2回めで、最初に読んだのは20年近く前になると思う。衝撃を受けたのは覚えていて、それ以来、柳美里さんの作品を気に留めるようになった。衝撃を受けたのに、内容はほとんど忘れて…

『月の満ち欠け』佐藤正午 / 月のように死んでも何回も生まれ変わる

『月の満ち欠け』佐藤正午 岩波文庫的 2019.10.19読了 目を疑った。これ、2〜3年前に直木賞を取った作品だよね?こんないかにも岩波文庫な表紙で驚いた。タイトルと著者名にマーカーを引いた、いわゆる岩波文庫の赤帯、青帯などの古典シリーズのようだ。まぁ…

『なんでわざわざ中年体育』角田光代 / 自分にも出来るんだ!という達成感

『なんでわざわざ中年体育』角田光代 文春文庫 2019.10.16読了 体育っていうのがいい。運動でもスポーツでもなく、体育。まるで体操着かジャージを着て、小中学生のように活動してるみたいじゃないですか、角田さん。 30代後半を過ぎてから、運動(この本で…

『ノースライト』横山秀夫 / 家を造ることは家族の人生を形作ること

『ノースライト』横山秀夫 新潮社 2019.10.15読了 今年の2月に刊行されてから気になっていた作品。横山秀夫さんは『64(ロクヨン)』が抜群におもしろい。読み始めから感じたことがある。今回の『ノースライト』はいつもの横山さんの雰囲気ではなかったし、…

『ホビットの冒険』J.R.R.トールキン / ホビットとドワーフと一緒にファンタジーの世界に

『ホビットの冒険』J.R.R.トールキン 瀬田貞二/訳 岩波書店 2019.10.12読了 ハリーポッターシリーズはほとんど読んだけど、ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)シリーズは映画を少し観ただけで、原作は読んだことがなかった。『指輪物語』の前日譚とし…

『人類最年長』島田雅彦 / 近代日本の生き証人

『人類最年長』島田雅彦 文藝春秋 2019.10.8読了 まるで、日本の近代160年史を読んだような感覚だ。1861年にこの世に生を受けた宮川麟太郎が、時代と共に生き、159歳になって病院に運ばれたことをきっかけに、その時担当になった看護婦に人生を話すというス…