書に耽る猿たち

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『板上に咲く』原田マハ|真似を極めることはいつしか突き抜けた存在になること

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『板上に咲く MUNAKATA:beyond Van Gogh』原田マハ

幻冬舎 2024.05.03読了

 

の小説は、渡辺えりさんによるオーディブルamazonのオーディオブック)の朗読が高い評価を受けている。それでも私は今のところ専ら紙の本を愛好しているから、眼で追って読んだ。本当は、板上だけに触って読みたいくらい。

 

方志功の木版画はあたたかい。かわいくて愛らしく落ち着く。なんとなく山下清さんの作品を観たときの印象に近く、純粋でひたむきな感性と生きるエネルギーが溢れ出ているように感じる。もちろんゴッホの絵に通じるものがある。そりゃそうだ、真似したんだもの。

 

方の生涯の伴侶チヨの視点から綴られた棟方志功の物語。版画の世界に生きた彼の物語というよりも、夫婦の愛の物語と言えよう。時に目頭を熱くさせられる良い作品だった。原田マハさんのアート小説(全てを読んだわけではないが)の中では、心に染み入る度合いが強かった。おそらく、同じ日本人芸術家のことを書いているからかも。

 

方とチヨのなんとも純愛なことか…。最初の出逢いは「おもしろい人」で終わったが、再会してからの2人には読んでいて照れてしまいそうなほどの一途な2人だ。魚をほぐすシーン、そして公開ラブレター。チヤは心のぜんぶを棟方に持っていかれたという。微笑ましいエピソードの数々。

 

ゴッホに憧れて、ゴッホになりたいと願っている自分は、ゴッホが憧れて、ゴッホがなりたいと願った日本人だ。そしていま、ゴッホが勉強して勉強して勉強しきった木版画の道へ進もうと、その入り口に立っている。その道こそが、自分が進むべき道だ。ゴッホのあとを追いかけるのではなく、ゴッホが進もうとしたその先へ行くのだ。ーーゴッホを超えて。(110頁)

椅子テニスの世界では国枝慎吾選手に憧れた小田凱人選手。小説家では太宰治三島由紀夫に憧れてその道を目指す人は数多くいる。西村賢太さんは藤澤清造の没後弟子と名乗り一生を捧げた。尊敬し憧れる人に近づきたいと思いその人を真似をすると、いつしかそれを突き抜けた独自の存在になるのだ。だから、真似をするということは実は一番の近道なんだと思った。

 

画で身を立てる決意をしたが、なかなか思うようにいかない。しかしある展覧会で柳宗悦濱田庄司と奇跡のような出会いがあったことで運命は大きく変わる。困難を乗り越えて世界の「ムナカタ」になっていったのだ。

 

ォントがまぁまぁ大きくて、単行本なのにすぐに読みおわりそうでどうしようかと思いあぐねていたが、カバーをめくってみたら思わずニンマリと笑みが溢れた。棟方志功さんの素敵な版画がずらっと。これはもう買うしかないな。きっと読み終えたら売ってしまうんだけど、読んでいるひとときだけでもこの存在を味わいたくて。

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